三百八十話 処女作にしては上出来
「……俺普通の設備で良いって言ったんだけどな」
「ソウスケさんこのハンマー、ミスリルで作られています」
「ッ!? いや、まてまて。どんだけ良い設備が揃った工房なんだよここは!!??」
ソウスケは確かに鍛冶のスキルを持っている。レベルも五と、職人から見て十分にベテラン、もしくは上級者と呼べる腕を持っている。
しかし技術は持っていても経験は皆無。
最初から良質な武器が造れるとは思っていないので設備も普通で構わないと考えていた。
「まぁ……なんか料金は半額で構わないって言ってくれたし、有難く使わしてもらうか」
早速鍛冶に使う素材を取り出し、気合を一つ入れて作業を始める。
ソウスケ達が使う工房の設備は魔法が使える者に適した物となっており、ソウスケとしてはとても扱いやすい。
(まずは、オーソドックスな長剣から造ってみるか)
熱し一応の形に整え、打って形を変形させ、焼き入れ、一気に水球で温度を下げて硬さを加える、そして焼き戻して粘りを加える。
作業中のソウスケの表情に一切の変化は無い。
当然工房内の温度は上がるので汗を流す。
それでも表情を変えない。
だが、ここでザハークは一つの疑問を覚える。
ここまで鍛冶の作業は速いのかと。
ソウスケが作業を始めてからまだ一時間と経っていない。
にも拘わらず重要な刃は完成へと近づいている。
何も鍛冶を知らない者なら疑問に思うかもしれないが、これはザハークに出来ない芸当ではない。
火を自在に操り、モンスターを一撃で吹き飛ばす程の腕力を持つザハークやソウスケならば容易な作業。
問題は造る武器によって鉱石を打つ角度や力が変わる。
その辺りの細かい技術はまだザハークには備わっていない。
「こんな感じか」
完成した長剣の刃を見てソウスケは満足げな顔を浮かべる。
「さて、とりあえず刃を造るのはこんな感じだ。何にも説明は出来なかったけど、ちょっとぐらいは参考になったか?」
「あぁ、とても参考になった」
「そうか、それは良かった。んじゃ、一回交代だな」
一旦休憩、することは無くソウスケは鉄鉱石とトレントの木を使って柄を造り始めた。
鉄鉱石を熱して形を変形させ、刃の先を熱して変形させた鉄鉱石に差し込んで溶接。
そしてトレントの木を鉄鉱石の柄に合うように切って形を整え、再び溶接。
完成した長剣を眺め、その場で少し振るう。
「うん、握りも良い感触だ。一応実戦でも使えるかな?」
出来はランクにと平凡だが、処女作としては全く問題ない。
そしてソウスケが長剣を完全に完成させてからに十分後、ザハークも刃を完成させた。
「……俺も木の加工を出来た方が良いかもしれないな」
「かもな。柄は今回俺が造っておくよ」
こうしてザハークの処女作はランク一と低かったが、鍛冶スキルも習得していない者が造った物にしては完璧といえる。
(というか、鍛冶一回目にしてもう鍛冶スキルを習得したってどういう事?)
ソウスケが鉄鉱石を打っている時にただ打つ事だけに集中しているように、ザハークもただただソウスケが打つ様子を見る事だけに集中していた。
「あれ? そういえばミレアナはどこいった」
ソウスケが工房を見渡すとミレアナの姿はどこにも無かった。
「ソウスケさんが鍛冶を行っている最中に鉱山に行くと言って出ていったぞ。五時には戻ってくると言っていた」
「そっか。まっ、この熱気の中で錬金術や木工はやり辛いよな」
帰ってくる時間をしっかりと決めているなら問題無いと思い、ソウスケとザハークは再び鍛冶に集中し始める。
そして一通りの武器を
造り終え、時間が五時半となったところで工房にミレアナがやって来た。
「お疲れ様ですソウスケさん、ザハーク」
「ミレアナもお疲れ」
「お疲れ様。どうだった? 良い収穫はあったか?」
「まぁ、そこそこですね。それと、これから二人が鍛冶を行っている間は鉱山に行ってモンスターの討伐や鉱石の採掘に専念しようと思ってるんですけどどうでしょうか? お二人がここにいるなら得た素材や魔石に鉱石もここで誰にもバレずソウスケさんに渡せますし」
「ミレアナがそれで良いなら構わないぞ」
お互いに時間を無駄にしないためにソウスケとザハークはミレアナと別れて行動することが多くなった。
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