三百七十九話 ザハーク専用の箱

大量の宝石を手に入れたソウスケはその日から丁寧に丁寧にチェスの駒を造り始めた。

ボードには黒曜石と白光石を使い、そのボードだけでも庶民には手が届かない程の価値がある。


そこからソウスケは駒を通常時の単純な形ではなく、細部まで細かく拘って作り始めた。

駒の区別として暖色と寒色で分け、キングだけはレインボータートルから貰った甲羅状の鉱石を使って作製。

今まで以上に作業に集中しているソウスケの邪魔をしてはならないと思い、ミレアナはザハークを連れて街中を散策してそれなりに楽しんでいた。


「ソウスケさんは随分と作業に集中しているな」


不意に口に出したザハークの言葉にミレアナは頷く。


「そうですね。エアーホッケーに関しても指名依頼言えるのでしょうけど、今回のチェスに関してはいつも以上の熱意を感じます。良い素材も手に入ってやる気が出ているのでしょう」


「そうか……ミレアナも、錬金術を訓練している時もあんな感じなのか?」


ミレアナもソウスケと同じく錬金術のスキルを有し、基本的な物を製作していることはザハークも知っている。

物を作ることに集中する。それは目の前の敵を倒すのに集中するのとはまた違う感覚なのではと予想しているザハーク。


「どうでしょうか。私的には集中して作業出来てるとは思います。ですが、あれ程までにただ作るという作業に没頭出来ていると思えません」


ソウスケは朝ご飯を食べてから夕食時まで短時間の休憩を挟みながら作業を続けている。

その間に昼飯は食べていない。


少しでも食べたほうが良いのではとミレアナは伝えたが、集中力が完全に切れるかもしれないという理由で食べていない。


「俺も……あれ程までに集中できれば、良い作品が造れるかもしれないな」


「ですね。というか、ザハークはザハーク用の素材を溜めておいた方が良いのではないですか。ソウスケのアイテムボックスの中にはザハークが倒したモンスターの素材や魔石も入っているでしょうけど、どれがが自分が倒したモンスターの素材や魔石とは覚えていないでしょう」


「た、確かにそうだな。毎度ソウスケさんから素材を貰うのはちょっと悪い気がする」


ザハークが倒したモンスターの素材や魔石はソウスケのアイテムボックスの中の数割ほどを占めているが、勿論ソウスケやミレアナが倒した素材や魔石に鉱石も混ざっている。


「この際、大きな箱を用意してその中にモンスターの素材や魔石を詰めていけば良いのではと思いますが、どうでしょうか?」


「良い考えだ。是非その案を使わせてもらおう」


「それならまずは魔石を詰める箱だけでも買いましょう」


モンスターの素材は大きい物もあるので自作した方が良いだろうと判断し、その日ザハークは耐久力に優れた大きめの箱を購入。

そして三日目の朝、ソウスケの指名依頼のチェス制作が終わったので十分も掛からずトレントの木を使用して、モンスターの素材をしまう様の箱を完成させる。


ミレアナの提案にソウスケも良い案だと思い承諾。

それから一週間後、二日ほどは街の外でもモンスターを狩ったり薬草を採集する日はあったが、基本的には鉱山で鉱石を採掘してモンスターを倒すという日々が続いた。


そして翌日、鍛冶ギルドを訪れて工房を一つ借りようとする。

しかしここで一つ問題が発生し、ソウスケ達が冒険者だという事は既に広まっており、冒険者が工房を借りる明確な理由を教えて欲しいと職員に尋ねられる。


ソウスケはギルド職員が簡単に情報を漏らすことは無いと信じ、信用して貰えるかは分からないが自分が鍛冶スキルを有している事を伝える。

ただ、簡単には信用してもらえないと分かっていたので、鑑定が使える人物に調べてもらっても構わないと伝える。


そこまで言うならと、ギルド職員は主に持ち込まれた素材や武器を鑑定するギルド職員を、ソウスケを調べてもらう。

その際、ソウスケは自身が持つスキルの大半を隠蔽したが、鍛冶スキルと幾つかのスキルはそのまま残しておく。


鑑定を行った職員の腕は確かなので、ソウスケが外見通りの冒険者では無いと判断し、工房を貸すことを許可する。

それどころかソウスケは普通の工房を借りるつもりだったが、鑑定を行ったギルド職員が設備が通常以上に整った工房へと案内した。

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