三百五十一話 設備は整っている

ザハークは商人ギルドの前で待ち、ソウスケとミレアナの二人が中へと入る。


格好は普段の格好と変わらないが、冒険者が依頼を探しに来たり、商人と縁を作るためにやって来る者もいる。

なので本来なら不自然では無いのだが、やはりミレアナの美しさが周囲の者の目を引く。


しかしミレアナはソウスケの後ろに付いて歩いている。

それを考えると二人の関係性が何となく解る。


ならば一瞬で目を奪われる程に美しいエルフの美女を連れて歩く少年はいったい何者なのか。


冒険者の間では絶世の美女であるエルフと見た目が鬼人族に近いオーガの従魔を連れている少年がいるという噂が流れているので、冒険者達はもしかしたらその少年では無いのかと予想している。


だが商人達の間では、エアーホッケーやチェスにリバーシを作った人物がいる。しかしその者の名前は見た目も解らない。

なのでソウスケがどういった人物で、何用で商人ギルドに来ているのか全く解らない。


(多くの視線が俺に向いてるけど、殆ど敵意や殺気の籠った視線は無いから楽だな)


周囲の男性の冒険者や商人達はミレアナの容姿に見惚れ、そんなミレアナを連れているソウスケに嫉妬の視線を向けることはあるが、それでも敵意や殺気の籠った視線を向ける者は一人もいない。


そして列に並び、ソウスケ達の番がやって来る。


「すみません、カードの更新をお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


専用の魔道具を使って商人のギルドのカードを更新する受付嬢。

一瞬だけミレアナとソウスケの見た目がアンバランスな二人に疑問を持つが、仕事中だという事で直ぐに頭を切り替えて仕事に移る。


そして更新を終えた受付嬢はカードを見て、最大限にまで目を見開いて驚く。

しかしそこはプロなので、声を上げて個人情報を漏らしてしまうことなく、直ぐに表情を戻してソウスケにカードを返す。


「お待たせしました。お返しいたします。ソウスケ様のカードがEランクへと上がりましたので、倉庫の貸し出しが行えます。冒険者の方々は主に大量のモンスターを解体する時に使います。勿論使用料金は掛かりますが、登録していない場合よりも料金はお安くなっています」


(倉庫の貸し出しか。正直街の外で解体すれば良い話だから使う機会は無いかもしれないけど、覚えておいて損は無いか)


商人ギルドの倉庫は基本的には冒険者が解体目的に使う物なので、ソウスケが考えている以上に設備が整っている。


「そしてこちらに商人ギルドから引き出す事が出来る額になります」


「分かりました。それじゃ、有難うございました」


「またのご利用お待ちしております」


商人ギルドから離れ、宿に着くまでソウスケはカードに記載されている額を見ようとしなかった。


「ソウスケさん、どれ程の金額が入っているのかあの場で確認しなかったのは何か理由があるんですか?」


「仕事を完璧にこなしますって雰囲気を出している受付嬢の人の顔が一瞬崩れていただろ」


「そうでしたね。でも、あれはソウスケさんのランクが一気にEまで上がっていたからでは無いのですか?」


ソウスケの功績は既にトーラスを介して商人ギルドに伝わっており、それにプラスして稼いだ金額の量によってランクアップの基準を満たしているのかが決まる。


「それもあるかもしれないけど、単純に総金額を見たからだと思うんだよ。あんな営業的にしか表情を崩さなそうな人がおそらく素で表情を変えた。それなら相当な額が記載されていたんだよ。ポーカーフェイスには気を付けてるけど、俺じゃ完全に顔に出てしまいそうだと思ったからな」


宿に着いたソウスケは早速その金額を確認し、商人ギルドで更新されたカードを受け取った時にその場で確認しなかった自分を褒め称えたかった。

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