三百三十二話 四つの考えが混じる場所

「そういえばまだ私の名前を教えていなかったわね。名前はレイナよ。職業はカジノで働くバニーガール」


「俺も改めて、名前はソウスケ。職業は冒険者だ」


「名前はザハーク。ソウスケさんの従魔だ」


カジノから出た二人と一体は良いホテルを探しながら改めて自己紹介をする。


「冒険者になりたての新人はあまり余裕がないって聞いていたのだけど、ソウスケ君の様子を見る限りそれは嘘なのかしら」


「別に嘘では無いと思うよ。横の繋がりが殆ど無いから確証を持って言える訳じゃ無いけど、冒険者に成って一年も経っていない人達はあまり余裕が無い筈だよ。今から言う事内容はランクが上がっても変わらない必要経費なんだけど、宿代に食費。傷を治すためのポーション代に武器や防具の購入費や修復代とかで色々と入って来た収入は飛んでいくんだよ」


ソウスケ達は武器を使わなくてもある程度のモンスターや襲い掛かって来る人を倒せるので修理費などは無く、精々剣や短剣を使い終わった後に砥石で刃を研ぐ。それぐらいしかしていない。


「ただ、この街にはダンジョンがあるから新人の冒険者にとっては生活に余裕を持たせるためにはチャンスが多くあるって考えになるかな」


「あらそうなの? 街の外でモンスターを狩ったり薬草を採集したりするよりダンジョンの中で稼ごうとする方が危険だって聞いた事があるのだけど」


年相応の実力を持った冒険者と一晩を過ごした時に得た情報ではダンジョンの中で活発的に稼ごうとするルーキーの方が、死亡率は高かったと記憶している。


「そうだなぁ・・・・・・冒険をしている時に予期してないイベントが起こるのは街の外でもダンジョンの中でも変わらないよ。ただ、ダンジョンの方が危険だっていう考えは合っている」


ダンジョンで起こったイベントを軽く思い出すソウスケ。


「言葉に表すと、人の欲望が渦巻いているってところかな」


「人の欲望が渦まく、ねぇーーー。カジノみたいな場所ってことなの?」


「人の欲望ってところは一緒かもしれないね。ただ、カジノに関してはその欲望は自分で制限しようと思えば出来る」


「ふふふ、それが出来ない頭のネジが緩い人は多いけれどね」


レイナの的確な例にソウスケも小さく笑う。


「ははっ、確かにそうだね。でもダンジョンは冒険する個人、チームの意志だけで五体満足で帰還できる訳じゃ無い。ザハークもそう思うだろ」


「そうですね。四つの考えが混ざっている場所と言うべきでしょうか」


「四つかぁーー・・・・・・なるほど、その四つか。ザハークの言う通りだな」


ソウスケはザハークの言う三つの考えが即座に解った。

だが多少の知識はあっても専門的な知識はあまり無いレイナは直ぐには思い付かない。


「私には解らないわ。とりあえず、人の考えはあるのでしょう」


「人というか、ダンジョンで探索している冒険者の考え、それとその他の同業者の考え、後モンスターの考え、最後にダンジョンの考え」


「モンスターの考えまでは解るけど、ダンジョンには意志が無いんじゃないの?」


「俺も基本的には無いと思ってるよ。でも宝箱やトラップに突然のモンスター大量発生とか考えるとゼロでは無いと思うんだよね」


ダンジョンは意志を持っているのではないか、これは多くの学者が抱える多くのテーマでもある。

ダンジョンがこの世界に現れてからウン百年と経っているが、未だにその結論は出ていない。


「確かボス部屋のモンスターを倒せば宝箱が現れるのよね。その中身は決まって訳では無いらしいし・・・・・・確かにソウスケの言う通りかもしれないわね。あっ、この宿なんてどうかしたら」


日本で言えばラブホテルの様な良質な建物が見つかり、宿の中へと入る。

レイナが選んだ宿は勿論泊まることが出来る宿だが、大概の客は一戦やる様の部屋として短時間使う事が多い。

なので看板には一泊の料金以外に時間単位の料金が書かれてある。


中へ入ったソウスケはまず従業員に声をかけ、他に数人の従業員を呼んで貰う。

そしてトランプを渡したザハークの相手をしてくれと頼み、三人の従業員に銀貨を一枚ずつ渡す。


何をどうすれば良いのかテンパっていた三人だが、ザハークが人の言葉を喋れるという事が解り、更にチップまで渡された事で気前良く引き受けた。


「本当に懐が暖かいのね」


「今日はカジノで稼がせて貰ったからな」


「それだけじゃない気がするけれど、深くは聞かないわ。だから、私を楽しませてね」


見る者を魅了して引き寄せる様な表情を見せるレイナにソウスケにムスコは部屋に入る前に臨戦態勢になってしまった。

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