三百三十一話 的外れな噂
「お待たせ坊や」
「いいえ、全然待っていませんよ」
それらしい言葉を言いながらソウスケはバニーガールの私服を見る。
「私服姿も綺麗ですね」
「あらあら、言葉がお上手な坊やね」
「そういう訳では無く本心なんですが、とりあえず行きましょう」
私服姿のバニーガールをザハークの元まで連れて行くと、悲鳴を上げそうになったバニーガールだがカジノの従業員たちに流れた情報の中で礼服を着たオーガの従魔がいるという内容を思い出し、直ぐに冷静さを取り戻す。
「あなたがオーガの従魔を連れた冒険者だったのね」
「ええ、そうですよ。驚きましたか?」
「勿論よ。一緒に居る三人の内二人は深緑の大樹のメンバーで、もう一人はまだ冒険者に成りた者だろうって聞いていたのよ。ただ、あなたぐらいの子がカジノで遊んでいるのはそこまで珍しくは無いの。だからあなたがそのオーガの主だとは解らなかったのよ」
(確かに剣闘場に居た客たちの中に俺とそこまで歳が違わない奴はチラホラといたもんな。それに髪型を変えたとはいえ、そこまで男らしくなったって訳でも無いし)
ソウスケも第三者の立場なら自身の様な容姿の男がオーガを従魔として従えているように思えない。
「それじゃぁ、あなたが噂のソウスケって冒険者なのね」
「ああ。俺がどんな噂なのかは解らないけどソウスケって名前の冒険者だよ。ちなみにそれってどんな噂なの?」
「人の言葉を喋るオーガを従魔に従え、隣には常にエルフの美女を連れている成人になりたての冒険者って内容よ。中にはエルフとオーガに命令して働かせているだけで自分は殆ど働かず楽に強くなろうとしている冒険者って噂もあるの」
「そ、そうなんですか」
(いくら見た目が子供で実年齢も子供だからって酷くない? 確かに良い装備は身に付けてますよ。でもそこまで派手って訳じゃ無いからボンボンには見えないだろうし、やっぱ単純にザハークが従魔でミレアナみたいなすべてがそろった美女エルフが傍にいるからそういった噂が立つのか)
ソウスケの考察は正しく、明らかに嫉妬が絡んだ内容の噂は彼女がいない冒険者や明らかに桁外れな強さを持っていそうなザハークとミレアナを連れている事で、ソウスケは大して努力もせずに楽をしている者だと勝手に勘違いしている者達が広めたものだった。
「でも、あなたの従魔、ザハークだったかしら? 彼の表情を見る限りそれはデマなようね」
ザハークはソウスケの真っ赤な嘘であるデマを聞いた瞬間に誰に対してという訳では無いが、体が殺気が漏れ出した。
幸いにもバニーガールが元々カジノでは揉め事が短期間に起こるのはよくある事で自然と耐性が出来ていたのと、殺気がバニーガール個人に向けて放たれた物では無かったので腰を抜かす事は無かった。
ただ、それでも背中には冷や汗が流れていた。
(オーガって確かCランクのモンスターだった筈よね。そりゃ本気で襲ってくるオーガを前にしたら腰を抜かしちゃって涙がボロボロに出ちゃうでしょうけど、表情を変えただけでここまで人に冷感を与える物なのかしら)
バニーガールはカジノに客としてくる冒険者の話を聞く事もあり、ベットの客として相手にした冒険者から直接冒険の話を聞く事もある。
なので一般人よりはモンスターの知識などはある。
「ザハーク、ここには一般人も多くいるんだから殺気をあまり漏らすなよ」
「わるい。ただ的外れな噂が広がっていると聞いて少し腹が立ってな」
「怒ってくれるのは嬉しいが、俺は大丈夫だから気にするな。それじゃ、空いている宿を探しに行きましょう」
こうして自分を一晩買った男の背を見ても特に強さは感じなかったが、自分なんかでは解らない強さを持っているんだろうと結論付け、バニーガールは考えるのを諦めた。
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