二百八十九話 変えられないもの
自身が造れるポーションよりもレア度が高い物を見てソウスケはお婆さんの方へ勢いよく首を振り向く。
(俺が別に努力して手に入れた訳では無いレベル五の錬金術だけど、レベル五ってそう簡単に上げれる領域では無いよな)
レベル事は多少の才があれば後は努力の量によって辿り着ける域ではあるが、生半な努力の量では辿り着ける場所では無い。
ソウスケは思わず店主であろうお婆さんに鑑定を使ってどれ程の腕前を持っているのか知りたいと思ったが、それを寸でのところで止めた。
(何となくだけど、鑑定を使ったらバレる気がする。これから商品を買うかもしれないって店でそれはあまり良くないよな)
店で何かを買う時は何時も鑑定を使って偽物では無いと分ってから商品を買っているソウスケだ。
だがその見せの店主までは気になる事は殆ど無かった。
この世界に来てからソウスケが店の人間に鑑定を使ってみたいと思ったのはコボルトの上位種の素材から短剣を、コボルトキングの素材を使って二刀のグラディウスを造って貰った鍛冶師のみ。
「お前さん、名前はなんて言うんだい?」
「そ、ソウスケです」
「ソウスケか。良い名前だ。私の名前はマム。しかしどっかで聞いた事があるような・・・・・・」
ソウスケにとってマムと会うのは初めてであり、名前も聞いた事が無かった。
しかしマムはソウスケの名前をどこかで聞いた気がし、過去の記憶を辿る。
「そうだ! 確かえらい美人なエルフと鬼人に近いオーガの従魔の仲間にソウスケという者がおると聞いたのだが・・・・・・合っておるか?」
「は、はい。それで合っていると思います」
「そうかそうか、それは良かった。お前さんはこの街の冒険者の中でちょいちょい噂になっていぞ。強い仲間がいるのにあまり上に上がる気が無い冒険者だとな」
(・・・・・・・・・・・・まぁ、間違ってはいないな。いずれは上がるかもしれないとは思っているけど、自ら上がろうとは思わない)
だがソウスケは自身が周囲からそのように思われているのだと初めて知った。
知ったがそこまで悪い噂という訳では無いので訂正しようとも思わない。
「しっかし・・・・・・冒険者の中にもやはり見る目が無い冒険者とそうでない冒険者は多いみたいだ。お前さん・・・・・・隠そうとは思っているようだが、それなりの強さは持っているのだろう?」
「・・・・・・最近そう言われる事が多いんですが、何故そう思われるんですか」
ロウには経歴が上の者に対して態度が堂々としているから。
その雰囲気等から虚勢を張っている物では無いとバレた。
しかしソウスケは今回、何故そう思われたのか解らない。
「そうさねぇ・・・・・・人ってのは、ある程度の偉業を成し遂げられたのならば自然と雰囲気が変わってしまうもの、殻を破れてしまうものなんだよ。私はソウスケの過去を知っている訳じゃないけれど、あんたが仲間が強いのに上に上がろうとしない冒険者。それはパーティーリーダー的存在であろう少年の実力が残り二人と比べてあまりにも低いからでは・・・・・・なんて言ってる者もいるが、あんたはそれが一発で嘘だと解る雰囲気を出してるよ」
マムのソウスケの実力を見破った理由を聞き、本人はどうすれば良いものか悩み始めた。
(雰囲気とかって、そう簡単に変えられる物じゃないよな。俺そこまで俳優みたいに雰囲気を変えられるほど演技が出来る訳でもないし)
もしマムのような考えを言って以上の強者ならば全て出来るのではと思ったソウスケ。
もしそうならば隠しようがないのかと思い、自身の実力を隠すのを諦めの気持ちが強くなっていた。
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