二百八十六話コツコツ磨いた一撃

リーダーの男は摸擬戦用の槍を持ち、ソウスケは摸擬戦用の長剣を持って開始線に立つ。


(どうやって倒すか・・・・・・一瞬で終わらすのは却下。攻撃をある程度躱しつつ払いに関してはガードしつつ吹き飛ばされるふりでもしておこう。そして途中で速さを一段階上げて喉元に摸擬剣の先を突きつける。これが一番ベストだな)


目の前の男の倒し方を考えついたソウスケは真剣そうな表情をし、それらしい構えを取る。

そして男も中腰に槍を構える。


「それではお互いに後悔が無いように戦ってくれ・・・・・・始め!!」


ロウの開始の合図と共に男は飛び出してくる。そう思っていたソウスケだが予想が外れた。


(直情型だと思っていたんだが、案外そうでもないのか。こちらの出方を窺っている・・・・・・もしかしてカウンターが得意なのか?)


体格から腕力が強いとは思えない為、自身の技術力に相当自信があるのかとソウスケは思い、こっそり鑑定して男が持っているスキルを確認する。


(・・・・・・別に攻撃を見切る事に特化したスキルを持っている訳では無いな。元々そういう戦闘スタイルなのか?)


当初の予定と変わりそうになったソウスケは指で男を挑発する。勿論その時にニヤニヤ面も忘れない。

案の定、その挑発に乗った男はソウスケにじりじりと近寄り、距離がある程度縮まったところで突きを繰り出す。


最初の一撃では勝負が終わらないと思っていた男はその後、何度も突きを繰り返すがそれをソウスケは真剣そうな表情で時折苦しそうな声を入れて全てを躱していく。


(真剣な表情で躱していてもちょっとは苦しそうにしないとこいつが俺との力量差に大差がないと勘違いしてくれないかもしれないしな)


ソウスケから見た男の技量はそこまで大した物では無く感じた。

相手の動きを予測して放つものでも無く、レベルの割に技術力が圧倒的に高くも無い。


(持っているスキルを視たところ槍に属性魔力を纏う技能も無い。それに既に身体強化のスキルは使っているようだが・・・・・・それでも十分に余裕をもって避けられる速度だ)


大した攻撃力は持っていないとソウスケが判断した瞬間に男は槍を引き、その場で回転して豪快に払う。

その一撃にソウスケは多少の驚きを持った。


(スキル・・・・・・を使ったようには感じなかった。こいつがコツコツと磨いて来た技術か・・・・・・やるじゃん)


ソウスケの腕力ならばこの払いも受け止める事が出来るが、それでは苦しそうな演技をしてきたことが無駄になってしまうので払いを受けた瞬間に自分から横に大きく飛び、あたかも払いの威力が強くて大きく吹き飛ばされたように演じた。


その一撃に確かな手手応えを感じたのか、男の表情は勝負中だというのに満足気なものになっている。


(最初のインパクトの瞬間にある程度受け止めたから向こうはしっかりと攻撃が当たったって感触があったみたいだな)


「怪我をする前に降参したらどうだ」


(・・・・・・直ぐに調子に乗るところを見ると案外チョロイ性格をしてるのか)


その態度にソウスケは下を向きながら小さく嘲笑し、先程と同じようにニヤケ面で返す。


「バーーーカ、何勝ち誇った顔をしてんだよ。自慢の一撃が決まったからもう勝負は決まったかと思ってんのか? 大して効いてないっつーーの」


顔は少し強がりな表情で、しかし本音の言葉をぶつけて今度はソウスケから仕掛ける。

男が反応出来る速度で走り、斬りかかるが槍の間合いを潰されれば反撃の手立てがない男は後ろに下がりじっと構える。


(何か秘策ありってところか? なら限界まで様子を見て技を躱すか)


槍の間合いにソウスケが入った瞬間に男は槍術スキルによって発動できる乱れ突きを放つ。

放たれた突きは計十。それが二秒間の間に全て放たれる。


しかしソウスケは男の狙いが自分の上半身に定まっている事が分っていたので、男が動き出した瞬間にスライディングで突きを掻い潜り通り過ぎる間に脛に一撃を加える。


その痛みで男は乱れ突きを全て放つ前に動きが止まってしまう。

そして男の動きが止まった瞬間を好機と捉えたソウスケは男の後頭部に剣先をそっとあてる。


「これで・・・・・・俺の勝ちだな」


「ソウスケ君の言う通りだね。そこまで、勝負あり」


ロウはソウスケの動きに拍手を送りながらソウスケの勝ちを宣言する。

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