二百四十六話俺じゃなくこいつの

「・・・・・・これ、本当にお前さんが造ったのか?」


「ああ、さっきも言った通りそれは俺が造った。ダンジョンの宝箱の中から手に入れたマジックアイテムじゃない」


「そうか・・・・・・まぁ、お前さんとその仲間を見れば色々と解る」


何が解るのかソウスケは気になったが、そこは敢えて聞かないでいた。


「お前さん。いや、ソウスケは錬金術ギルドには入っているのか?」


「入っていませんよ。俺が入っているギルドは冒険者と商人だけです」


「ほぅーーー。商人ギルドにも入っているのか。確かに頭はそこそこ回る様には見えるが、腹芸はあまり得意じゃないんじゃないのか?」


そこそこ頭が回ると判断されたのは嬉しかったが、その後の指摘は的確だったため苦笑いになるソウスケ。

ミレアナやザハークもそれはそうかもしれないと思い、心の中で頷いていた。


「ツールさんの言う通り、俺は腹芸が得意じゃありません。けど、自分の仕事は商品を造る事なんで。それに相手が嘘をついているかどうかは何となく解るんで」


地球に居た頃とは体験できなかった刺激ある日々のお陰で相手の動きや表情に敏感になったのかとソウスケは思っていたが、実はそういったところが無い訳では無い。

しかし大部分はソウスケの力では無く、指輪状態にしている蛇腹剣のお陰であった。


(相手が嘘をついているとこいつが何と言うか、警報みたいなのを頭に送って来るんだよな)


多様過ぎないかとツッコみたくなるが、有難い性能ではあるためそんな事はしない。


「なるほど。若いわりには本当に優秀みたいだな。さて、このスパイロードの価値はどれぐらいなのかという話だが・・・・・・こいつに使われる素材にもよるが、最低で片方金貨一枚。両方で金貨二枚だな」


「・・・・・・そ、それは本当ですか」


「ああ、何年も錬金術師をやっているから目は肥えている。言っとくが、さっき片方金貨一枚に二つで金貨二枚というのはこのスパイロードを造るのに使う素材が低レベル物の場合だ。素材の質が上がればそれだけ値段も当然上がる」


(てことは俺が造ったスパイロードは日本円で一つ二百万もするって事なのか!? 嘘だろ、これ一つで大体給料三か月分になるのか?)


ソウスケとしては趣味の範囲で造っていたため、ツールが予想した値段に語彙力が無くなりそうな程驚いている。


「なんというか、発想が一般的な物とからズレているのが良い。冒険者が扱うマジックアイテムといえばポーションを筆頭に魔剣や魔槍、身体能力を上げたり状態異常の耐性を上げるアクセサリー。そういった物が殆どだ」


ツールは目の前にあるスパイロードへ目を向ける。


「ただ、お前さんが造ったスパイロードの様に森の中を自由自在に動き、相手を鞭のように拘束する事も出来る。雑魚のモンスター相手にはぶん回して攻撃する事も出来る。他のマジックアイテムと比べて使える性能が圧倒的に多い。慣れるまでの操作が難しいとしても、こいつにはそれだけの価値がある」


自分が造った物に価値がある。

それを真正面から言われると心にぐっと来るものがあり、ソウスケは嬉しさのあまり少し涙を流しそうになった。


「それを使うのは全く構わないだろう。お前さんが造ったマジックアイテムなんだからな。しかしそもそも錬金術を扱える冒険者というのが稀だ。というか殆どいないと言っても良いだろう。お前さんレベルの物はいないと断言できる。だからこそ、背中には注意しておいた方が良い」


嫉妬には注意しろ。

それがツールからソウスケに最も伝えた言葉だった。

ツール自身も今よりももっと若い二十代や三十代ならソウスケの才能に嫉妬していると解る。


歳をとった今だからこそ、その才能に感心する事が出来ている。


ただ、後ろのミレアナとザハークを見る限りその心配も無用かと思えた。

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