二百二十二話焦げ焦げ

ソウスケが放ったファイヤーボールはミレアナの矢を回避するためにその場で踏ん張ったラージアスラビットに直撃する。


被弾したファイヤーボールの火は直ぐに全身へと広がり、あっという間にラージアスラビットは火達磨になった。

しかしそのまま悲鳴を上げながら自身の命が尽きるのを待つのではなく、必死になって体を地面に転がす。


転がり始めてから約三十秒後、ようやく全身の火が消える。


「・・・・・・ふ、ふふふ。さっきまでそこそこ白くて綺麗だったのに、ぶは!!! やばっ、笑いが止まらねぇ。はっはっはっはっはっはっは!!!」


「た、確かにこれを見て笑うなという方が無理ですね」


戦闘中で笑う事など基本的には無いミレアナでさえ今のラージアスラビットの姿を見て笑いを堪えるのは無理だった。


全身がこんがりと焼けて茶色くなってしまったラージアスラビット。

本人は必死になって火を消していたのだが、鎮火が完了してみれば自分と戦っていた男女が自分の方向を見て笑っている。


ラージアスラビットはソウスケとミレアナが笑っている訳が分からず、自身の体を見ると先程までの色とは全く違う色になっていた。


その事自体にラージアスラビットは何とも思っていないが、笑われている事が気に入らなかった。

先程までは慎重にソウスケとの距離を縮めていたラージアスラビットだが、怒りで我を忘れて身体強化と脚力強化のスキルを使ってソウスケ目掛けて一直線に飛びだす。


「うおっ!? いきなり速くなったな!!」


二重に強化されたラージアスラビットの脚力は初速から爆発的な加速力ソウスケとの距離を一気に詰める。

頭から突っ込んでくるラージアスラビットに対し、ミレアナからの助言を思い出したソウスケは上体を後ろに逸らす。


(確か一番耳が厄介って言っていたな。耳から繰り出される攻撃で考えられるのは・・・・・・)


上体逸らしを完了したソウスケの真上をラージアスラビットの耳が通過する。


「おわっ、やっぱりそういう感じか。中々の初見殺しの技だ。目測からして耳が伸びる範囲は四メートルぐらいか? いや、まだそれが最長とは限らないか」


意外性のある攻撃だと分かったソウスケはその威力はどんなものなのかと思い。魔力を過剰に注ぎ、大きさを七倍ほどまで大きくしたロックボールを後ろに跳びながら砲弾する。


「さてどうなるか・・・・・・いや、マジで凄くないか?」


魔力を過剰に注いだ影響で体積は多くなっても、ロックボールの固さは全く変わっていない。

だとしてもそう簡単には攻略されないだろうと思っていたソウスケは呆気にとられる。


自身の顔面に目掛けて飛んでくる巨大な岩球に対してラージアスラビットは何度もロックボールに自信の耳を突き刺した。

特にロックボールを途中までしか貫けないという事は無く、伸びる耳は全て突き抜けロックボールに無数の穴を空ける。


そして原型を保てなくなったロックボールは粉々になって地面に崩れ落ちる。


ミレアナが横から矢を放って援護するが、耳を器用に操って手加減されたミレアナの矢を弾く。

しかし鉄の矢を相手に無傷とはいかず、少しずつだが片耳に切り傷が増えていく。

もう片方の耳でソウスケの体を貫こうとするが、脚力が二重の強化で速くなったとはいえ、耳が伸びる速度が上がった訳では無いので連続で襲い掛かって来る鋭い耳を避ける事はさほど難しいとは感じなかった。


(感覚的には鋭いジャブが連続で襲い掛かって来ているって感じかな。ある程度ラージアスラビットの強さを分かったし、取りあえず終わらせよう)


ミレアナの矢を片耳で弾き、もう片方の耳が自分に伸びてこようとしている瞬間を狙ってソウスケはラージアスラビットの懐に潜りこむ。

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