二百二十三話本家がやったら

(こいつの反応は完全に遅れている。どんな攻撃をしても取りあえず決まるだろうけど・・・・・・そうだ、あれをやってみるか)


足を曲げ、腰を落としたソウスケは力を溜め、一気に放って左アッパーをラージアスラビットの腹にぶち込む。

ソウスケの拳が深々と突き刺ささり、比較的体格が丸いラージアスラビットの体がはっきりとくの字に曲がるのが分かる。


拳が突き刺さるだけでは終わらず、そのままラージアスラビットは上に吹き飛ばされ、地面に落ちて数回ほどバウンドする。


「良い感じに入ったな。名前は・・・・・・ガゼルパンチだったっけ? ほぼ思い付きでやったパンチだけど随分と上手く決まったな」


ソウスケのガゼルパンチをもろに受けたラージアスラビットは折れた肋骨が肺に刺さり、口から何度も血を流している。

まだ完全に息絶えてはいないが、それも時間の問題だろうと思い無理に止めを刺そうとはしない。


しかしザハークとオークとの戦いに水を差す様な真似はさせない様にとソウスケはラージアスラビットから視線を離そうとはしなかった。


「見事なパンチでしたね。ガゼルパンチ、でしたっけ?」


「ああ、それで合ってるぞ。まぁ、正確なうち方を覚えてる訳じゃないから本家程威力は無いだろうけど」


(現実世界の本家は知らないけど、漫画の世界でガゼルパンチを使ってた幕〇内 〇歩がこの世界に来て俺ぐらいのレベルに達していたら・・・・・・拳がめり込むどころか貫くだろうな。先輩の鷹〇 守も大概バケモノだったけど、〇歩も普通に考えれば十分にバケモノレベルで強いよな)


異世界に来てしまったためボクシング漫画の主人公がどういった道を辿っているのか知る術はないが、まだまだボクシング人生は終わっていないだろうとソウスケは願う。


「さて、ラージアスラビットは放っておいても死ぬからあともう少しで終わりそうなザハークの戦いを見届けよう」


「そうですね・・・・・・というか、本当に最終局面ですね」





ザハークの目の前にいるのは自身の何倍もの体積を持つオーク。


まだソウスケの従魔になる前、ザハークはオークを数度見た事がある。

自分は同族と違って何か違う強さがある。そんな風に調子に乗っていた時期がザハークにもあったのだが、オークは戦いを挑まないモンスターリストの中の一体だった。


しかし自分はゴブリンからホブ・ゴブリンへと進化し、体も大きくなった。

主人であるソウスケやその仲間であるミレアナに鍛えられたお陰で強くなった自信がある。

そしてなにより自らからソウスケへ自分が倒すと申した。


だから絶対に負ける事は出来ない。

そんな思いを持ちながらザハークはオークに戦いを挑む。


対してオークはザハークを侮るような表情をしておらず、血に濡れた棍棒を構えてザハークが繰り出す攻撃に対処しようと対策を立てる。


「ギャアアア!!!」


ザハークはオークに向かって突っ込むと同時にソウスケから貰い、腰に付けていた小さな壺から小石を取り出してオークの眼に向かって投擲を開始する。

体や腕などにザハークの腕力から放たれる投擲を受けても大したダメージにはならないが、目に投擲を喰らった場合は視界を一時的に失い、最悪視力を失う可能性がある為左腕で投擲を防ぐ。


その隙にザハークはオークの視界から外れ、死角からオークの体を傷つける。


その一撃で決着が着く事は無いが、それでもオークの皮膚は確かに斬れ、確実にダメージを与える。

そしてオークが短剣で斬り裂かれた痛みによって振り返るが、そこでまた石を使った投擲。


その攻撃を防ぐ、もしくは躱したオークの視界から外れてバックかサイドから攻撃を加える。

ザハークの目標としては目の前オークを正面から倒す事だが、今の自分ではまだまだ体格差が有り過ぎる為、小さなプライドのために無茶な行動は取らない。


投擲からの短剣による攻撃、それらを繰り返した事でオークの体には多くの切り傷が出来、血がダラダラと流れている。


オークも始めは表情を崩していなかったが、徐々に自身が攻撃出来ないことと、何度も付けられた切り傷によって苛立ちが溜まり、雄たけびを上げながら棍棒を地面に叩き付ける。


途中まではザハークの考え通りに戦いが進んでいたが、頭の中に響く警報に従ってオークの死角には潜り込まず後ろへ大きく飛び跳ねた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る