百二十五話焦りこそ隙を生む

ナイトスナイプビーと数度斬り合ったミレアナはナイトスナイプビーの針に疑問を感じていた。


(・・・・・・少し変ですね。スナイプビーの上位種とはいえそこまで針の強度が変わるとは思えません。仮に強度が上がっていたとしても、ミスリルの短剣と斬り合って耐えられない筈です)


自分の疑問を解くためにミレアナはナイトスナイプビーの攻撃を避ける事に専念し、針を観察し始めた。


「なるほど、魔力を針に纏わせているみたいですね。ただ、魔力の薄さからして魔力を自分の体に纏わせるようになったのはごく最近・・・・・・又はこの戦いが始まってからかもしれませんね」


ミレアナは本当に厄介だと思いながら小さく舌打ちをした。

後者の考え正しく、ナイトスナイプビーはミレアナが自分の仲間を瞬殺した事に対して、逃げ出そうとはしなかったものの強い恐怖心を抱いた。


なんとか目の前の敵を倒さなければ、後ろにいる女王の命が危険にさらされると直感的に感じたナイトスナイプビーは、この場で新たな技能を覚えた。


生物の生存本能がナイトスナイプビーに力を与えたのか、それともナイトスナイプビーのクイーンスナイプビーをに対する忠誠心が力に変わったのか、それは本人すら分からない事だが今ナイトスナイプビーはミレアナとの一戦で全てを出し切る勢いで戦っていた。


交戦するミレアナはナイトスナイプビーに勝とうと思えば直ぐに勝つ事が出来る。身体強化のスキルを全力で使っている訳では無く、並行詠唱もしていないので一気に戦いを終わらせようと思えば終わらせる事が出来るが、それではソウスケから受けた指示が達成出来ない可能性が大きかった。


(さて、どうしましょうか・・・・・・狙う箇所は先程までと同じで頭部か腹部、ただ腹部は針に触れる可能性があるのでこの後の事を考えると少し躊躇いますね。やはり狙うは頭部が一番みたいですね。ただ、この動きが面倒ですね。というかずるいと思います)


ソウスケがミレアナの考えを聞けば、お前のスキルの数の方が完全にズルだろと盛大にブーメランなツッコミを入れるだろうが、それでもミレアナはズルいと思えてならなかった。


スナイプビーとその上位種を含めるモンスター達は、最高スピードに入ってから、速度の方向転換するのに減速する必要が全くなかった。

勿論最高スピードに達するまでに時間はかかり、そもそもの速さはそこまで速い訳では無いが方向転換が直線でなく曲線な為動きが捉え辛かった。


(倒す事は出来る。ただ・・・・・・ソウスケさんからの指示を完了する為にはもっと攻撃の範囲を狭めなければなりませんね)


胸腺を描いて移動するナイトスナイプビーの頭部を斬る、又は穿つ場合には必ず攻撃を当てるためにはどうしても力を込めて攻撃の範囲、広げる必要があった。

思わぬ反撃を受けないために必ず行動不能にする、それをソウスケからの指示をこなす為にはどういった攻撃をすべきか、ミレアナはナイトスナイプビーと何十合と斬り合う中で頭をフル回転させながら考えた。


そしてミレアナは最近頑張って作業をしていた内容を思い出した。


(・・・・・・もしかしたらいけるかもしれませんね。ただ、魔力の操作だけでなく動きにも正確さを加えた方が良さそうですね)


決め手の攻撃は突きを選択し、そこまで得意ではない体術を意識しながら何度も頭の中でシュミレーションを行った。


そんな余裕なミレアナに対し、絶対に負ける訳にはいかないと全力で攻撃を続けているナイトスナイプビーの体力と魔力は限界に近かった。


そんな時、わずかだがミレアナの態勢が崩れた。


自分との戦いで疲れて集中力を切らしたのか、それとも足元が崩れていたのか、それとも・・・・・・等とナイトスナイプビーに考えている余裕は無く、ミレアナの脳天目掛けて針を突き刺そうとした。


最後に残された逆転のチャンス、これが決まれば死合の状況がひっくり返る!!! しかし現実はそう甘くは無く、全てミレアナの掌の上だった。


「虫型のモンスターなのであまり表情は分からないですけど、何が起こったのか分からない・・・・・・そう思っていそうですね」


一歩横に跳んだミレアナは、短剣の刃先から風の魔力を細く鋭く伸ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る