孤龍の碑~14~
謁見後、青籍は早々に働かねばならなかった。将軍達を招集し、情報を仕入れて今後の方策を練らねばならなかった。そのために青籍は、趙奏允を予備役から現役に復帰させた。
「やれやれ、予備役にまわされゆっくりとできると思ったが、短い眠りを妨げおって」
「別軍を動かす時が来た場合は、お願いできるのは将軍しかおりません。しばらくご容赦ください」
「お前さんの下で働けるのなら我慢するとするかね」
憎まれ口を叩く趙奏允であったが、表情は実に嬉しそうであった。
さらに青籍は副官として袁干を召集した。青籍が考える作戦を実行させるには、袁干の能力が必要であった。
「やっぱりこうなりましたね。お呼びいただき光栄です」
袁干は招集をかけるとすぐに駆けつけてきた。これで青籍が望む体制がなんとか揃った。
「いきなりですが凶報です。今しがた開奉が陥落したとの報せが届きました」
作戦会議が始まって早々、袁干が報告をした。諸将から重苦しいため息が漏れた。
「敵の戦力と当方が準備できる戦力を教えてくれ」
「開奉に駐屯している敵戦力はおよそ四千。それに対して我々は一万の兵を用意することができます」
袁干が淀みなく青籍の問いに答えてくれる。三年余り軍務を離れていたが、袁干の才は衰えていなかった。
「数の上ではまだまだ我らの方が上にも関わらず、開奉を失陥するとは……」
趙奏允がぎろりと居並ぶ諸将を睥睨した。青籍、趙奏允がいない間に何をしていたのかと言わんばかりであった。
『数はまだ上か……』
数的優位は今後の作戦を進めていく上でも幸いであった。それだけではなく、青籍は極国軍の動きの鈍さを感じていた。
『今の極の戦力で開奉を落とすには時間をかかりすぎている。それに開奉を落としたのならば、その勢いのまま攻め寄せてもいいものだが……』
袁干の報告では、開奉を落とした極国軍が動き出す素振りはないという。その動きの鈍さは、本国から遠く離れているからだと青籍は推察していた。
『ということは、今の極軍は広範囲での連携が取れていない』
青籍はこの状況を最大限に利用すべきだと判断した。
「青将軍、ここは鱗背関を閉じてこれに篭り、攻めて寄せる敵を疲弊させて、疲れ切ったところを一気に押し返しましょう」
趙奏允の提案はひどく常識的で有効な作戦であった。単に開奉を奪還するだけなら趙奏允の提案した作戦を採用すべきであろう。だが、青籍はその先を見ていた。
『こちらの兵力が上なのを利用して一気に領土を奪還したい』
青籍の頭脳にはその方策が整いつつあった。
「袁干、開奉に駐屯している以外に敵の戦力はあるのか?」
「炎城にはある程度の兵力を篭めているようですが、数は分かっていません」
炎城と開奉の間には距離はあるが、青籍達が開奉を奪還しようとすると炎城から当然援軍を出してくるだろう。
「趙将軍、こちらの数的優位を利用して打って出ようと思います」
青籍が作戦の詳細を述べると、趙奏允の表情が緩み、挙句には笑い出した。
「はははっ!面白い、実に面白い。流石は青籍だ。これは年老いて引っ込んでいる場合ではなかったな」
急に趙奏允が笑い出したので他の諸将は目を丸くしていた。青籍の作戦を理解できたのはどうやら趙奏允だけらしい。
「青将軍、別働隊の指揮は儂に任せて欲しい」
「勿論、趙将軍にお任せするつもりでした。趙将軍には四千名の兵を率いて、炎城へ向かう。その他は私が率いて開奉を奪還する」
諸将の中で異論を挟む者はいなかった。彼らは青籍の作戦の本旨を理解していなかったが、青籍の実力を知っている以上、その成果に疑いを持っていなかった。
龍国軍は二手に分かれた。まずは趙奏允に率いられた四千名の一軍が先発し、鱗背関を抜けた。この一軍は開奉奪還の戦略かと思われたが、開奉のある東に向かわず、進路を南へと向けた。
趙奏允の出撃を見届けた青籍は、残りの軍勢を従えて鱗背関まで進み、そこでひっそりと息を潜めて待機した。将軍に復帰した青籍の戦いが始まろうとしていた。
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