返信が来ないと変な想像をしてしまうのは心が弱いからだろうか
起き出して朝ご飯を食べたもののトシヤは出かけるでも無く部屋でゴロゴロしていた。もちろん頭の中はこの後ハルカと会う事……と言うか、会ってどんな展開になるのかという不安でいっぱいだ。そしてゴロゴロウダウダしているうちに時間は過ぎ、お昼前となった。
「そろそろ行くか」
トシヤはボソッと呟くとノソノソと着替えを始めた。ちなみに今日はレーパンにサイクルジャージではなくジーパンにTシャツだ。そして愛機リアクトではなく通学用のママチャリに跨るとハルカとの約束の地、駅前のショッピングモールへと向かった。もちろん前カゴにはハルカの分のサイクルジャージを入れて。
同じ頃、ハルカは補習を受けながら、教室の窓から青い空を見ていた。ただ、昨日の様に「あー、良い天気」と恨めしそうに呟くことはなかった。そう、今日は補習が終ったらトシヤとショッピングモールで二人だけで会うのだ。遂に告白されちゃうかも……などと思うとソワソワしたりニヤケたりと一人で忙しい。
そしてやっと補習の時間が終り、ハルカは補習の担当の先生が教室を出るや否や立ち上がった。
「あれっ、ハルカ。どうしたの? そんなに急いで」
「うん、ちょっとね」
一緒に補習を受けていた同級生のトモミにすかさず突っ込まれた。しかしハルカは誤魔化す様に笑い、手を振ってそそくさと教室を出ると駐輪場でスマートホンを取り出した。
『補習終ったよ。今からモール行くね』
本当はもっと気の利いたメッセージを送りたかった。しかし、この後の事を考えればとてもじゃないが長文なんか打ってはいられない。一秒でも早くショッピングモールに向かって走り出したいハルカだった。
そんなハルカをじっと見つめる視線があった。もちろん竹内君だ。だが、モールに早く出発したいという一心のハルカはそれにまったく気付いてはいなかった。
*
トシヤがショッピングモールに向けてママチャリを漕いでいるとジーパンのポケットの中でスマートホンがブルブルと振動した。
「ハルカちゃんかな?」
ママチャリを道の脇に停めてメッセージを確認したトシヤにはハルカからのメッセージが何とも味気ないものに思えた……そう、出会った頃の伝達事項のみが書かれたメッセージの様に。もちろん前述の通りハルカにはそんなつもりはないのだが、トシヤはハルカの本当の気持ちなど知る由もない。しかも一昨日プールから帰ってからのメッセージでは二人で渋山峠を上ろうと盛り上がっていただけに、トシヤにはその落差がツール・ド・フランスに出場している選手が使用しているバイクのハンドル落差よりも大きく感じられた。
だが、ヘコんでいる場合ではない。この後、ハルカと会ってからが勝負なのだ。
トシヤは気持ちを落ち着かせるため大きく息を吸い、一旦溜めてからゆっくりと吐き出した。
「ふうっ……よし、行くか」
トシヤはスマートホンをポケットに突っ込むと気合を入れる様に自分のほっぺたを両手でパンっと叩き、ペダルを踏んでママチャリを発進させた。
程なくしてショッピングモールに到着したトシヤはスマートホンをポケットから取り出した。ハルカからメッセージが入ってないかと期待したのだ。だが、残念ながらハルカからの連絡は入っていなかった。もっともママチャリで走っている時にスマートホンが振動する事は無かったので期待はしていなかったのだが。
駐輪場にママチャリを止め、ショッピングモールへと入ったトシヤはハルカが来るまでジュースでも飲んでいようとフードコートへ向かった。
フードコートに到着したトシヤだが、そこは既に人がいっぱいで空席など一つも見つからなかった。これではジュースを買ったところで飲むところが無い。もっとも夏休みのお昼時にショッピングモールのフードコートが大盛況なのはちょっと考えたらわかりそうなものなのだが。
やむ無くトシヤはハルカにメッセージを入れることにした。
『フードコートは人いっぱいで座るとこ無いよ。場所変えようか?』
そこは空席が出来るのを待って、席を確保してハルカを待つところじゃないか? と突っ込む声が聞こえてきそうだが、席が確保出来たところで今日の話は人でいっぱいのフードコートなどで出来る話では無いのだ。
トシヤはフードコートから離れてハルカからの返信を待ち、五分が経ち十分が経った。
「やっぱ俺よりアイツの方が大事なのかな……?」
沈黙したままのスマートホンを片手にトシヤが呟いた。『アイツ』というのはもちろん竹内君だ。昨日のハルカと竹内君の様子を思い出したトシヤの頭にとんでもない考え頭が過ぎった。
「まさかハルカちゃん、竹内と一緒に来たりしないよな……」
人間というのは良くないことを考えると、更に悪い方へと考えてしまうものだ。トシヤもご多分に漏れず考えが悪い方へ悪い方へと向かってしまった。
「それどころか、すっぽかされるとか……?」
正に負のスパイラル。トシヤは不安に押し潰されそうになり、吐き気すら催した。そんな時、誰かがトシヤの背中をツンツンと突っついた。
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