第5話 特訓

朝、市民テニスコートへ行くと未生がすでに待っていた。紺のジャージをきてラケットを2つ持っている。

「未生、ごめん待たせた?」

「おと・・お兄ちゃん、大丈夫だよ。さあ準備運動からはじめよう!」

十分な準備運動をしたけどそれだけで疲れそうだ。


未生はジャージを着たままコートに立つ寒がりなのかな?

「行くよーお兄ちゃん。まずは、ボールをよく見てラケットに当てる様にしてね。相手コートに入れるのはその後だから」

なるほど、さすがエースと言われているだけあってわかりやすい。

未生がサーブをしようとする。

スカッ

空振りだ、緊張しているのかな?

「もう一度行くよー」

スカッ

あれ?

スカッ

「未生?エースなんだよね」

未生は目をそらしながら、

「そうよ、エースよ。『球拾いのエース』って」

「それって補欠だよね。球拾いって」

「だって、『未生は球を拾うのが一番早いから助かる』って言われるから、『球拾いのエース』って・・」

「犬じゃないんだから・・」

「えへへ・・」


ベンチに座って未生と話す。

「未生、ところでなんでテニスなんだ?」

「美紀さんがね、日本のテニス選手の世界優勝の影響を受けてテニスに興味を持つの、そして、お兄ちゃんがテニスが上手いって誤情報を信じて誘ってくるの」

「なるほど、だから練習するために呼んだのか、でもどうする?二人ともこんなんじゃ・・」

「あれー、渡辺君と見知らぬ美少女が二人でテニスデート?」

声のする方向を見ると小野さんがそこに、ニコニコしながら立っていた。


「小野さんどうしてここに?」

「どうしてって・・渡辺君、私が何部だか覚えてる?」

「えーっと、いつも面白いこと言っているから落語研究部?」

「『なんでやねーん』って違うわよテニス部よ察してよね」

「『なんでやねーん』は落語じゃなくて漫才だよね、小野さん」

そのやり取りを見た未生が吹き出して笑う。

「で、ここで吹き出している美少女は誰?うちの学校の人じゃないけど」

あ、そうだ設定だ。忘れるところだった。


「小野さん、この子は僕のいとこの『渡辺 未生』小さいころから会っていて仲がいいんだ」

「未生、こちらは『小野 優子さん』おなじ高校で遊びに行く人の一人なんだ」

「よろしく、渡辺さん・・って同じ苗字だから『未生ちゃん』って呼んでいい?」

「はい、お、小野さんよろしくお願いします」

「私の事も『優子』ってあー、渡辺君が『友介』で紛らわしいね渡辺君、

 改名しなさい」

未生がまた吹き出して笑う。

「大丈夫です。『小野さん』って呼ばせて下さい」

「あら、礼儀ただしいわね。よろしくね、ってなんでテニスしないで座ってるの?休憩?」

「実はテニスをしようとしたら二人とも上手くなくてどうしようかと」

「なるほど・・じゃあ私も一緒に参加して特訓してあげるわ。今日はサーブの練習で一人で来てたところだし」


そして、未生には優しく、僕には厳しい特訓が行われた。軽いラリーくらいは出来るようになった。小野さんには感謝!

「はーい、これで終わり。未生ちゃんも渡辺君もお疲れ様」

「ありがとう、小野さん」

「お、小野さんありがとうございました」

「じゃあ、せっかくだし3人でハンバーガー食べに行く?」

「おなか減ったしいいね。未生も行く?」

「お、小野さんごめんなさい、門限に間に合わなくなるのでまた今度誘って下さい」

あれ?門限なんてあったっけ?まあ、未来の人間が現在の人間に関わらないようにしているのかな?

「わかった、未生ちゃんまた今度ね。渡辺君は未生ちゃんを送っていく事!ハンバーガーは今度行きましょう」

「わるいね小野さん、付き合わせておいて今度ハンバーガー奢るから」

「あ、言ったね渡辺君。楽しみにしてるわよ。未生ちゃんもおなか空かせてから行こうね」

「はい、楽しみにしています」

未生の笑顔は嬉しそうでもあり、悲しそうにも感じたのは僕だけだろうか?


1週間後、日本のテニス選手が優勝をした翌日、杉田さんが僕のところにやって来た、

「友介君!昨日の大会凄かったね!私もテニス初めてみたくなっちゃった!私にテニス教えてくれるかな?」

「ええ?杉田さん何で僕に頼むの?テニス部の人とかいるじゃない」

「そのテニス部の小野さんが教えてくれたの、友介君がテニスやってるって」

誤情報の発信元は小野さんか・・ハンバーガーの奢りはやめようかなと少し思ってしまった。

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