四善目★スタンプをゲットしろ!

「一日一善って、何をすればいいんだ?」

 昨日はたまたま帰り道に出くわした引ったくりを体当たりで倒したけど、本当に偶然の産物でしかない。

 とにかく何でもいいから一善すればいいのか? 今日はいつもより遠回りして帰ってみるか。

  

 鞄のポケットから、妖精のおばあさんに渡された『一日一善記録帳』を取り出す。ノートの中は昨日の初回ポイントスタンプが押されているだけだ。

「これ本当に必要か?」

 おばあさんの道楽に付き合わされている感が否めない。渋々とノートを鞄に戻し、俺は『一善探し』を開始した。


 ――――歩き始めて二十分が経過した。

 普段通っている道から途中で逸れてみるが、特に人助け的なことは起きない。元々学校から家もそんなに離れていないから、このままだたと同じところをグルグル回ってしまいそうだ。

 却って俺が、不審者に思われないか?

 普段より歩いたせいか、お腹もやたら空いてくる。コンビニに寄って食べ物を調達し、公園で一息入れることにした。


「ぷっは~。一汗かいた後のジュースは格別だな~!」

 ダイエットをしているくせに、甘いものは止められない。空きっ腹なのもあって、甘いジュースを一気飲みする。まるで全身の細胞に潤いと糖分が染み込むような感覚に、うっとりとしてしまう。

「さてと次は大好きなメロンパンでも食べるか~。ん?」

 大口を開けてメロンパンに食い付こうとすると、目の端にあるものが入ってきた。


『ゴミ』――――。

 公園には一応ゴミ箱が設置されているが、何故か周りにゴミが散乱していた。

「ゴミを眺めながら、メロンパンを食べる気分じゃないな~」

 折角美味しいのが、半減するような感覚になる。そう思った瞬間――――。

「ゴミ拾いも、ありじゃないか?」

 そうだよ! 人助けばかりしか頭になかったけど、こういうのも『世のため』になるよな。

 やっと見つけた『一日一善』に、一気にテンションが上がる。食いしん坊の俺が珍しくメロンパンを鞄にしまい、善は急げとゴミを拾い始めた。

 拾い始めてみると、綺麗になっていく光景が清々しく感じる。この際だからと、公園を一周してコンビニ袋にゴミを集めていった。


「ママ~。あのお兄ちゃん、何してるの?」

「ゴミを拾ってくれてるんだよ。偉いお兄ちゃんだね」

「エライんだね~」

 遠巻きに聞こえてくる俺への賛辞も、気分が良い。身も心もスッキリさせてくれる『一日一善』悪くないじゃないか!

 悦に入って空を見上げると、世界がとても輝いて見えた――。


「もう良いだろ!」

 ゴミも見当たらなくなり、時間も大分経っている。

「そろそろおばあさんの所に行かないとな。こんだけ頑張ったから、二キロくらい減らしてくんないかな」

 なんて思いながら、ワクワクして記録帳を覗いてみると――。

「え? スタンプが半分になってるんだけど!」

 そう――何故か記録帳の一善押印欄には、中途半端に押された半円状態のスタンプだった。

「どういうことだ……? ゴミの量が足りないのか?」

 ルールがいまいち、まだ分からない部分が多い。これは一旦、ばあさんに確認したほうがよさそうだ。

 記録帳にルールが書いていないか、ページを捲りながら公園を出ようとすると、自分の横を何かが横切った。


 ――――サッカーボールだ。

 俺がボールを認識した数秒後、今度は子供がボールを追いかけて道路に飛び出そうとした。


 瞬間、嫌な予感が全身に走る。

「ちょっと君、危ないよ!」

 俺の呼びかけなんて気にも掛けず、子供はボールを必死に追いかけていく。そしてこのタイミングで車が走ってきた。

 まさか――今日はこれですか!?


「危なぁぁぁ――――い!」

 キキキィィィィ――――!!

 俺の叫び声と、甲高いブレーキ音が同時にハモった。


 ドッスン! ボヨヨヨォォォン!

「きゃぁぁぁ――――!!」

 公園から悲痛な悲鳴が、響いている。

「大丈夫ですか! 意識ありますか!」

「わぁぁぁん!」

 車の運転手だろうか、緊迫した声で話しかけてくる傍で、子供の泣き声がサイレンみたいに聞こえた。


 あぁ――俺、死んじゃうのかな?

 折角痩せて、小川さんと仲良くなれると思ったのに、夢見れたのは一日だけだったのかよ。悲しいな――。

「小川……さ……ギュゥ~ギュルギュル!」

「え?」

「んん?」

「ギュルギュルギュル~!」

 腹の虫が大声で、主の無事を告げたのであった――。



「ふぉ~ふぉっふぉ! 今日も愉快な奴じゃの~」

「笑い事じゃないですよ。本当に危なかったんですよ!」

 結局、分厚い脂肪がクッション代わりになって、車との接触の衝撃を和らげたようで、命に別状ももないどころか怪我もしていなかった。車の方も早めにブレーキを掛けていたのも功を奏したのであった。

 てか、俺の脂肪どんだけ頑丈なんだよ!

 無事だったけど、妙に複雑な気分になる。それをお笑いネタのように、爆笑するばあさんの態度が余計にモヤモヤを増幅させた。

 だけど子供を助けたあと、記録帳にはくっきりとスタンプが押されていたので、取り敢えず目標は達成だ。


「まぁ取り合えず、ようやったのう。約束通り今日のポイントをやろう」

「はぁ……ありがとうございます」

 色々言いたいこともあるけど、今は先ず『魔法のスティック』のパワーを頂くのが先だ。

「ちちんぽいぽい! 体重よ一キロ飛んでいけ~!」

 昨日と同様、おばあさんが陳腐な呪文を唱えると、俺の身体は眩しく光を放ちだす。


 キラキラ光る身体を眺めながら、ふと記録帳のことが頭を過る。

 ゴミ拾いだけだとスタンプは半押しだったのに、子供を事故から助けたら全押しになっていたよな。それは何でなんだろ――?

 結局、疑問のままである。

 でもまぁ、明日も『一日一善』頑張れると良いな。


 無事に一キロ減量して帰ろうとした俺に、おばあさんは楽しそうに話しかけてきた。

「そうじゃ小僧。明日からポイントが倍になるイベントやるからのう。気を引き締めてゆくのじゃぞ」

「え、何それ!? イベントって!」

「最大ボーナスで十キロ減じゃぞ。美味しかろう~」

 そう言ってニンマリ不敵に笑うおばあさんの顔に、胸の奥の不安は膨らむばかりなんですけど~。


 本当に俺のダイエットは、成功するのだろうか。

 小川さぁぁぁん! 待っててね――――!

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一日一善☆ダイエット 藤見 暁良 @fujimiakira

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