三善目☆ダイエット開始

 え――マジか~! な、訳ないだろ――――!

 きっと昔からここに住んでいるから、地域の情報に詳しいんだろう。うん、そうだ! ここは取り合えず話を合わせておこう。もう会うこともないだろうし。

「凄いっすね~! 流石妖精っす!」

「じゃろ~。お主の願いを叶えるのは簡単じゃが、その前に少し体重を落とした方が良さそうじゃな」

「へ? 体重を」

 願いを伝えて終わりかと思ったら、ますます話の流れが怪しくなってくる。

「お主自身も、その体形を気にしておるじゃろ。さっきはそのお陰で助かったがな」

「は、はい。そうですけど……」

 願いごと叶えてくれるどころか、ディスられてないか?

 コンプレックスの体格のことを言われて、更にテンションが急下降する。

「だからじゃ……お前の体重を減らしてやろう!」

「マジっすか!」

 ピィィィン! おばあさんの一言で、テンションメーターが一気にフルになった。なんて単純な俺!

「そうじゃ。嬉しかろう」

「はい! 宜しくお願いします!」

 このおばあさんに俺の体重を減らすことが本当に出来るか分からないのに、勢い余ってついお願いしてしまった。

「任せておけ。ただしな、一つ条件がある。今日みたいに『一日一善』何か世の人のために善業を行うのだ。一善につき一キロ体重を減らしてやろう~。世の中のためにもなって、一石二鳥じゃろ」

「え……マジっすか?」

「マジじゃよ」

 おばあさんは、魔法のスティックを俺の前に力強く突き付けてきた。


 やっぱり嘘じゃんか――――! 新手の慈善団体なんだ!

 一瞬でもテンションが上がった自分が情けなくなって、地面に崩れ落ちそうな気分になってしまう。思いっきり落ち込んでいる俺をまるっきり無視して、おばあさんは続けて規約を話し出す。

「今日は初回限定ボーナスとして、五キロ減らしてやろう。明日からは何か一善行うことに一キロ減らしてやる。ほれ、これは『一日一善記録帳』じゃ。スタンプ押してやるから、毎日持ってくるんじゃぞ」

「そんな……毎日って~」

 痩せたいのは山々だけど、毎日おばあさんに会いに来るのも微妙な気持ちじゃないか? てかそんなこと信じる奴が、何処にいるんだよ。


「それでは、本日のボーナスイントじゃ~! ちちんぽいぽい! 体重よ五キロ飛んで行け~!」

 子供だましみたいな呪文を唱えながら、おばあさんは『魔法のステック』を左右にぶんぶんと振り回した。

「そんな呪文で体重が五キロもやせる訳……な、なにぃぃぃぃ!」

 おばあさんが呪文を唱え終わると同時に、俺の身体が眩しく光りだす。


 バチバチバチ――――まるで花火みたいに、全身から光が飛び散る。

 今度はなんだよ? 焼いて脂でも絞り出す魂胆か? それとも丸焼きとか言って、食う気なのか!?

 ファンタジーからまさかのホラー展開に、全身が恐怖で震えてくる。

 あぁぁ――――こんなことなら、本能のままに食べまくるんじゃなかった。部活もちゃんと入ってれば良かった。何より、小川さんと仲良くなりたかった――――。

 人生の終わりを覚悟して、思いつく限りの後悔を頭に過らせていた――――が。

 プッシュ~! 風船の空気が抜けるみたいな音とともに、放っていた光が収まっていく。


「あ、あれ……。今のは何だったんだ?」

 突然起きた現象に、思考が追いついていかず呆然としていると、おばあさんが体重計を持ってきて、俺の足元に置いた。

「ほれ小僧、体重を量ってみるとよい」

「あ……はい」

 言われるがままに体重計に乗ってみたら――――。

「減ってる! ジャスト五キロ、マジ減ってる!」

「ほらマジじゃったろ~。これでわしが妖精って信じたか」

「妖精かはどうかはさておき、体重を減らしてくれるのは信じるよ!」

 それは本音だった。ただ魔法のスティックという名の棒は、何か科学的作用をもたらして体重を減らす仕組みがあるんだろう。俺の頭じゃ、難しいことは解らないけど、体重が減るなら『一日一善』を実行しても良いと思えた。


「ほうほう~。ようやく、やる気になったか」

「はい! 毎日世のため人のために、善い行いが出来るように頑張るよ!」

「そうじゃよ。頑張るのじゃ」

「はい! おばあさん、ありがとう!」

「だから、妖精だと言っておるだろ」

「はい……妖精さん、ありがとうございます」

「うんうん。苦しゅうない」


 おばあさんは相変わらず高飛車な口調だった。いまいち妖精ぽく見えないおばあさんだけど、それは深く考えるのは止めておこう。


『世のため、人のために』とは言ったものの、今は先ず小川さんと仲良くなるために、体重三十キロ減を目指して『一日一善ダイエット』を始めるぞ――――!


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