第22話 疑惑
カミラに友達ができた。
おさげの少女リリーちゃんだ。彼女はカミラをいたく気に入ったらしい。しきりに、カミラのもとに遊びに行く。
実に喜ばしい。
カミラもカミラでリリーちゃんと遊ぶ事に抵抗がないようだ。普通にリリーちゃんと遊んでいる。時折、あぶなかっしい場面もあって冷や冷やするが、おおむね及第点と言えよう。
うんうん、来てよかった。ここは、俺達にとって聖地であったよ。
……
…………
………………
はぁ~そう百パーセント言えたらどんなによかったか。
ここにきて数日……。
俺のカンというか、もう誤魔化しきれなくなっている。
聖人ビトレイ……。
奴は聖人じゃないね。
いや、わかりきった事を言っているのかもしれん。たださ、信じたかったわけよ。見たくない真実から目を背けてきた。
でも、もう……無理だ。
ここの施設は、慈善団体を唄っているくせに、妙に金回りがいい。神父もその幹部も醜く肥え太っていた。
私財を投げうってでも、貧しい者を助ける。そんな姿勢ではない。困窮をよしとしながら救済しているわけではない。
ビトレイ・グ・シャモンサキ……。
もともとはやり手の会社経営者である。シビアな面もあって然るべきだとは思う。
でも、シビアすぎだろ!
教会の中、特に、神父の部屋! 豪華すぎんぞ。どれだけ金かけてんだよ。銭ゲバもろだしじゃん。
はぁ、はぁ、はぁ、ちくしょう!
もう信じるのは限界であった。俺は、裏付けを取るべく神父を少しばかり調査する事にしたのである。マキシマム家一才能ある俺にとって、教会のセキュリティーなどあってないようなものだ。
あっというまに忍び込み、金庫の前に到着。
金庫を見る。
昔ながらのツーシークの鍵穴タイプだ。
俺のピッキング技術はそこそこ。俺は殺し屋であって泥棒ではない。最新式の錠前は開けられないのだ。
うん、このタイプなら……。
針金を鍵穴に差込み、ちょちょいといじくる。
カチリと音が鳴ると、金庫のドアがパカッと開いた。
旧式でよかった。でなければ
中には宝石に現金、そしていくつかの書類があった。
宝石、現金は調査の対象外なので、書類を取り出す。
ペラペラと書類をめくり中身を考察していく。
……予想通りだな。この神父さん、なかなかやりやがる。
国からの援助金を着服してやがった。ちょっと書類を見ただけだが、使途不明金の移動が多々見受けられた。
おっ!? こいつ、慈善団体を隠れ蓑にして、脱税までしてやがる。
ふつふつと怒りが湧く。騙されたという感が強い。
とにかく裏付けは取れたのだ。
俺は書類を金庫に戻すと、そっとその場をあとにする。
はぁ~やっぱりか……。
俺の足取りは重い。
陰鬱としながら部屋に戻ると、カミラが神父と一緒にいた。
「カミラ君、ここでの生活は慣れたかね」
「は――い♪」
カミラが元気よく挨拶をしていた。
脱税野郎が気安く俺の妹に声をかけてんじゃねぇ!
こいつは、金儲けのために聖人の名を利用しているのだ。善人ぶってるその面をひっぺがしてやろうか?
黒い感情が心を支配する。
「カミラさん、トリートメントの時間ですよ。こちらに」
「はーい♪」
俺がビトレイ神父に手を伸ばそうとした、その時、麗しの美女ソフィアさんが現れた。どうやらカミラの髪のお手入れの時間になったらしい。
相変わらず美しい。
にっこりと笑みを浮かべるその顔は、天使そのものである。
「ソフィアさん……」
「あら、リーベルさん、そこにいらしたんですね」
「は、はい」
「ふふ、どうしたんですか? そんなに照れなくてもいいんですよ」
ソフィアさんの天使の声に俺の黒い感情は、いつのまにか霧散していた。
そうだよ。俺は何を考えていた。
ビトレイを脱税で糾弾――いや、余計なことは考えるな。ぶんぶんと頭をふって否定する。
シュトライト教の教示、いや、ソフィアさんの言葉を思い出せ。
人の善を信じなさい。さすれば道はひらかれんってね。
そう、ものは考えようだ。
結果として、これだけの人を救ってるんだ。多少、ビトレイが私服を肥やしたからって、それがなんだ。人を殺して金を稼いでいるわけでもあるまい。
脱税は糾弾すべき、それは青臭い主張のように思えてきた。黙認するべきかもしれない。
いわゆる必要悪という奴だ。純粋な善意じゃなかったのはがっかりだけど、まだ普通だ。殺し屋一家よりはマシマシ。
それにだ。真実は、誰にもわからないよ。
例えば、脱税してまで金を稼いでいるのも、一人でも多くの子供達を養うためなのかもしれない。正義を振りかざしても、腹は膨れぬ。子供達のために、あえて汚名を被っているのなら立派だよ。
ま、まだだ。まだ俺は信じるぞ。ソフィアさんの笑顔を思い出せ。
俺は一旦、ビトレイの脱税については忘れ、真摯な目で神父を見つめる。
余計なフィルターをかけてたら真実はわからない。
ぎろりと神父の脂ぎった顔を見る。
たらふく食っているな。節制してその分を貧しい人達に分け与えようとは思わないのか。
いやいや違う。リーダーたる者、体力が大事だ。倒れたら経営も何もあったものじゃない。
おぉ、そう考えれば幹部達のでっぷりとした肉つきにも一応の理由があるではないか!
他にも俺が知らないだけで何か理由があるのかもしれない。なんたってあのソフィアさんがいる施設だ。あの大女優が全てを捨ててまでいる聖地だぞ。
「ソフィアさん、俺ここでの生活に満足しています。子供達が笑顔に溢れているこの場所を守りたい。だから、もっともっとお手伝いをしたいと思っています」
「あらあら、リーベルさんは本当に敬虔な人ですね。お若いのに感心します。ねぇ、神父様もそう思いません?」
「まことに。将来楽しみな若者です」
ビトレイ神父とソフィアさんがふっふっと笑っている。
なんだろう。この下卑た笑い。
信じろ、信じるのだ。そう自分に言い聞かせても、ゲロ以下の臭いがプンプンしてきてたまらない。
俺を称賛しながらも、二人の目が怪しく光っているのは気のせいだろうか。
ソフィアさんは、似合っているからいいんだけどね。ビトレイ神父、てめーはだめだ。うん、やっぱり脱税野郎は、糾弾すべきだね。査察が入って、ソフィアさんや教会の子供達まで巻き添えになる可能性がある。
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