GAME 9 ( ゲームキュウ ) 9
――5年前(未知の世界?)
「ここは、どこだ?」
そこには、見たことのない景色が広がっていた。
私は果てしなく広がる草原の高台に居た。
大の字に寝た状態のまま動けない。
初夏の暖かい日差しが、大地を照らしていた。
ここから見える景色は、まるで、スイスのインターラーケンみたいだ。
「ここはスイスなのか?いや、違う。何かがおかしい……。これは現実か?」
何か異質な空気を感じた。
この丘をずっと下っていくと、その先には巨大な湖があった。
その遥か先の、湖の向こう岸には、何やら数多くのビルディングが建ち並んでいるのが見える。
「あの湖……、湖面に映る景色が何かおかしい……」
ここはどこだ?夢の中か?いや、もし夢なら、ここは夢の中か?と自問自答はしないはず……。
私はいったい何を見ている?
かすかだが川のせせらぎが聞こえる。
逆側は、ずっと上りで、草原が続いている。
遥か先の草原の突きあたりは、上へと続く断崖絶壁で、6000m級の山々が聳え立っている。
「身体が動かない。なぜだ?力が入らない……」
私は果てしないレベルの疲労感に襲われていた。
ここはどこだ?どこなんだ?直前の記憶が無い。いつからここにいる?いったい何がどうなっている?身体は動かないし、何が何だかよくわからない。この草原の草や土を触ってみると、普通に草と土である。感触も匂いもね……。それに空気もあって、太陽の光も、いつも通りで何の違和感もない。ただ、明らかに何かが変だ!それにしても美しい所だ。日本じゃないことは確かだけど、私はパスポートを作ったことがないから、外国にいるわけがない。本当に、スイスのインターラーケンみたいだけど、何かが違う……。日本じゃないというより、地球上の景色じゃないって感じがする。やっぱり、何がどうなっているのか全くわからない。ここはどこなんだ?
しばらくすると、リヤカーを引く音が聞こえた。
何だ?誰か来る!
丘の下から馬に乗った一人の少女がリヤカーを引きながら、こちらに近づいてきた。
私の姿を見た。
何か不思議そうな顔をしている。
意図的に私に近づいてきている。
誰だ?日本人と欧米人のハーフみたいな感じだけど……。
私の目の前まで来た。
身体が動かない。立ち上がることもできない。
「あなたは誰?ここで、何をしているの?」
少女が言った。
「誰って……。日本語、話せるの?」
私は答えた。
「日本語?日本語って何?」
「はぁ?」
会話が噛み合わなかった。
「あなた名前は?」
「名前?ああ……、カエデだけど。」
適当にハンドルネームで答えた。
「君は?」
「私の名前はルフィーネ。みんな、私のことはルネと呼んでいるけど……。あなたは、表族?それとも裏族?どっち?」
「は?言っている意味がわからない……。」
「あなた、裏族って感じじゃないけど……、その割にはヌーラの最大値があまりにも高そうに感じる。上限が無いように感じる。通常、表族にそういう脅威はない。」
「言っている意味がわからない。さっきから、何を言っている?ここは、どこなんだ?」
「ここは、プリマールの草原よ。」
やはり、何かがおかしい。会話が噛み合わない。
「身体が動かないんだ。ちょっと救急車を呼んでくれないかな?」
「救急車?そんなの、こんな所には来ないわよ。王都か商業都市ヴォイスに行かないと……。あなた、家は?」
「それが、わからないんだ。ここはどこなんだ?」
「だから、プリマールの草原よ。」
困ったな……。でも、ここままじゃ、どうにもならないし……。
「記憶が無いみたいなんだ……。だから、助けてほしいんだけど……。」
「記憶喪失?」
「ああ、そうらしい……。」
「何も覚えていないの?」
「覚えていないわけではないんだけど、覚えている内容と、この現実があまりにもかけ離れていて……、正直、よくわからないんだ。自宅への帰り方……、あと、なぜ、ここにいるのか?ここがどこなのか?直前の記憶も無い……。」
「そうなんだ。それは困ったね。まぁ、ここにおいていくわけにもいかないし……。とりあえず、私の家まで来る?この丘の上に私の家がるから。乗って!」
「乗ってって言われても、どこに?」
ルネの馬は、三方木枠付きの木製リアカーを引いていた。
その荷台に向けて、目で合図を送った。
「どうしたの?」
「身体が動かないんだけど……。」
「じゃあ、乗せてあげる。」
「乗せてあげるって……、重いからムリだよ。」
「大丈夫よ(笑)私、こう見えても、魔術学校に居たんだから……。」
「はぁ?何、言ってるの!マジ、意味がわかんない……。何ココ、何がどうなってる?」
ルネの手が、一瞬、光り輝いたように見えた。
その次の瞬間だった。
突然、空から数十匹のカラスの群れが私に近づいてきた。
カラスは私の手や足、それに来ていた服を口を銜えると、そのまま空中に持ち上げた。
私はリアカーの荷台に乗せられた。
「えっ!どういうこと?」
カラスはそれを終えると、何事もなく飛び去って行った。
「そこで寝てて……。」
ルネが馬の上から言った。
「何だ?さっきのカラスの群れは?」
「さっき、言ったでしょ?魔術学校にいたって。まぁ、単位が足りなくて、途中で退学になったけどさぁ。それでも、簡単な魔術ならできるの。」
「ふうん。魔術学校ね……。何だ?ここは?、リアルドラクエの世界?訳が分からんな……。何度も同じこと聞くようで申し訳ないけど、ここはどこなの?」
ルネはあきれ返ったような顔をした。
「だから、プリマールの草原……。」
「プリマールの草原ね、うん、そうか……。まぁ、それはわかったから、どこの国なの?」
「やっぱり、あなた、病院に行った方がいいわね……。」
「頼むよ。病人扱いしないでくれ。奇妙だと思われるかもしれないけど、質問に答えてくれないか?」
「ここは、都市国家ヌヌララよ。」
「都市国家ヌヌララ?」
私は思わず大声を出した。
「あ、思い出した?(笑)」
ルネは歩きながら笑った。
「いや、そうじゃないんだ……。都市国家ヌヌララ……。初めて聞く言葉じゃないな。どういうことだ?」
「思い出せそう?」
「ああ、そうだ!あのゲームだ。『GAME9』だ。あれのストーリーにそういうエピソードがあった。あれのせいで、おかしくなったんだ。都市国家ヌヌララ……。あれは、夢じゃなかったのか……。そうだ。あれのせいで、そのあと透明人間になったんだ……。あのあと、すでに何年も経過しているのに、全く思い出せない。これも、あのゲームのせいなのか……。あのゲームのせいでこんな目にあっているのか……。一つ聞くけど『GAME9』って知ってる?」
「何それ?知らないよ。」
「でも、この世界は、そのゲームと何らかの関わりがあるはずなんだ。」
「いや、聞いたことないね。ゲームセンターなら商業都市ヴォイスに行かないとないわよ。ここは田舎だから、とにかく文明という言葉とは無縁だから……。」
「ここはゲームの中なのか?」
「そんなわけないでしょ(笑)大丈夫?」
「ルネさんは、どこで日本語を覚えたの?」
「は?日本語?」
「そうだよ。っていうか……、ずっとしゃべってるでしょ?」
「私は、私の言葉を話しているだけだよ。」
「ちょっと言っている意味がわからないなぁ。じゃあ、他に日本語を話す人はここに何人くらいいるのか調べることはできるの?」
「その日本語という言葉の意味がわからないから、どうにもならないけど……。何か、調べものをしたいならここでは無理だと思うよ。ここは、とてつもない田舎だから……。」
「じゃあ、さっき言っていた表族と裏族って何?」
「あなたねぇ……。」
「頼む、教えてくれ!」
「表族は、現行地球にルーツを持つ人で、裏族は、惑星ルネロンにルーツを持つ人のこと……。」
「今、地球って言った?」
「言ったけど、何?」
「そこに行くにはどうしたらいいの?」
「はぁ?どうしたらって?なんでそんなこと聞くの?あなた……、ひょっとして時間の海を渡って来た人?そんなわけないか……。」
「時間の海?」
「もう、何も覚えていないの?そんな基本的なことも?」
「ああ、そうみたいだ。」
「困ったわね。ここ都市国家ヌヌララは浮遊島で、縦・横・高さの3辺が70キロメートルの正立方体のケースの中にあるの。今の季節は、地球上空5000メートルを飛んでいる。まぁ、ケースそのものは見えないけどね。そのケースが時間軸を調整している。そのケースの外は時間の海と言って、もはや異次元の世界なの。ここでは普通に現行地球の空が広がっているように見えるけど、実際にはケースの枠があって、そこから先には行けないの。無理に出ると時間の海に流されて二度と戻ってこれない。まぁ、死んでしまうわね。当然、時間軸がズレているから向こうの世界(地球)からも、この浮遊島を見ることや触れることはできないわ。あの湖の下の景色が見える?」
「ああ、見えるよ。」
「あれが現行地球の地上の景色よ。湖の水は無色透明、底のケースも見えないけど無色透明……、だから、湖や川からは下の世界の景色が見えるの。もちろん、見える景色はケースの外だけど……。今は『青の刻』と言って、毎年4月から10月までは地球上空にいるの。逆に11月から3月までは『黒の刻』と言って、惑星ルネロンの上空にいるの。この都市国家ヌヌララは、現行地球と歪地球と呼ばれる惑星ルネロンとを結ぶドアなの。つまり中間領域と言ったところね。この都市国家ヌヌララは、もともと惑星ルネロンの一都市だったから、時間軸そのものはルネロンの方に同期させている。だから、調査船(宇宙船)では『黒の刻』の期間中にルネロンにしか降りられない。地球に降りようと思ったら、『青の刻』の期間中に魔術で行くしかない。ちなみに惑星ルネロンは死の星と呼ばれていて、氷で覆われた無人の岩石惑星なの。黒雲の下には永久凍土の大地が広がっているわ。大気は黒、雲も黒、『黒の刻』のときは、この浮遊島とそれを覆う正立方体のケースは、その間に陣取るから、半年間はずっと夜ね。」
「じゃあ、地球に行こうと思えば行けるんだ?」
「まぁ、簡単じゃないけどね。そんな時空を超える魔術なんて、女王様か、そこに仕えている高位の神官くらいしか使えないと思うよ。」
「その人たちはどこにいるの?」
「どこにいるって?王都に決まっているでしょ。この巨大な湖の向こう岸にあるよ。遠いから見えるかな?ビルディング群があるでしょ?その奥に、女王様が住んでいる城があるわ。そこにいると思う。」
「そうか……。夢じゃないのなら、とりあえず、そこを目指すしかなさそうだな。」
私は、荷台に揺られながら、草原を上がっていった。
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