流星を掴んで
人 物
綾瀬あやの(19)高山の恋人
高山誠二(28)京都大学大学院生
○岡山天文台付近の山の上(夜)
夜空に流れ星が1つ流れる。
綾瀬あやの(19)と高山誠二(28)、並んで手を握り、寝転がっている。
あやの、空に向かい手を伸ばす。
夜空に流れ星が一つ流れ始める。
あやの、流れ星を掴もうと手を握る。
握った手の後ろを流れ星が通過し、流れ落ちる。
あやの「あー、また掴めなかった」
高山、笑いながら、
高山「残念。まだまだ俺達の仲は進まない…かもね」
あやの、そっぽを向く。
あやの「(怒り気味に)もう!」
高山「そんなに迷信を信じるの?」
あやの「女の子はそうゆうのに弱いんだからね」
あやの、勢いよく起き上がる。
あやの「あっ今更だけど、隆史さん、これって人工流れ星じゃないよね?」
高山、起き上がる。
高山「違う違う。方角も違うし、人工流れ星の方が比較的に暗いから違う」
あやの、寝転がる。
あやの「それなら安心…」
高山、寝転がり、あやのの手を握る。
お互い笑顔で向き合う。
○荒木書店・雑誌売り場(昼)
様々な雑誌が棚に並べられている
あやの、歩きながら雑誌をじっくり見る。ある棚の前に立ち止まる。棚の上の札には「科
学雑誌」と記載。
あやの、迷いなく「サイエンス誌」を手に取り、前からページをめくる。
あやの、高山の写真が載るページで手が止まる。写真の下には「高山誠二氏」と記載。不
思議そうな顔で、ページを凝視する。
あやの「たかやませいじ…?」
あやの、ページに記載の文字を目で追う。「高山幸治の息子」の文字に目が
止まる。
あやの「ど、どうして…そんな…こんなことって…」
あやの、雑誌を床に落とす。涙を一粒頬を伝う。そして、雑誌を拾い、走り
出し、レジに向かう。
○倉敷市内商店街路(昼)
人々が往来していて、賑わっている。
高山、あやのの前を歩いている。
あやの、暗い表情でとぼとぼ歩き、肩に掛けたハンドバッグの持ち手をぎゅ
っと握る。
高山、後ろを振り向く。
高山「どうした?暗い顔をして」
あやの、俯いたまま立ち止まる。
高山、駆け寄る。
あやの、顔を上げ、作り笑いで、
あやの「昨日、食べ過ぎちゃって、お
腹がむかむかしちゃって…」
高山「無理するなよ。そうなら、今日のデート、やめたのに」
あやの「大丈夫だよ。今日はせいじさんに会いたかったから」
高山、恥ずかしそうに
高山「そ、そうか…うれしいな」
あやの、笑顔からすっと真顔に戻る。
あやの「否定しないんだね」
高山、不思議そうにあやのを見る。
高山「ん?何を否定するんだい?」
あやの「やっぱり、たかやませいじが本名だったですね」
高山「ど、どうして、それを…(口を自ら押さえる)」
あやの「これを読みました」
あやの、ハンドバッグから「サイエンス誌」を取り出し、高山の目の前でペ
ージを開いた。ページには、高山のインタビュー記事が載っている。
高山、口から手を離し、あやのの顔をじっと見る。
人々が二人を避け、往来する。
あやの「あなたの口から真実を聞きたいです」
高山、顔をそむけ、唇を噛む。
あやの、じっと高山の顔を見る。
高山、覚悟を決めたような顔で振り向く。
高山「ここでは何だから、俺の家で話そう」
あやの「どこへでも」
高山とあやの、歩き出す。
○高山自室(昼)
あやの、ソファーに緊張した面持ちで座っている。
高山、引き戸を開け、手に表彰状と丸くゴツゴツの一ミリ程度の大きさのプラスチックを
持ち、暗い顔で部屋から出てくる。そして、引き戸を閉める。
高山、あやのの隣に座り、表彰状を渡す。そして、プラスチックは机に置く。
あやの、表彰状をじっと見る。
表彰状には、「人工流れ星アイディア賞」「高山誠二殿」と書いてある。
あやの、プラスチックに目を移し、手に取る。
高山「それが人工流れ星の素だ」
あやの「これが…お母さんを…」
高山「いや、この大きさでは地表までは落ちて来ない。事故の時はもっと大きいものが」
あやの、プラスチックを強く握る。方が震える。
高山、床に土下座する。
高山「ご、ごめん」
あやの「どうゆう意味で?」
高山「偽名を使っていたことも…親父のことも…人工流れ星のことも、全て」
あやの、蔑んだ目で高山を睨む。プラスチックを高山に投げつける。
高山、微動だにせず土下座のまま。
あやの「(大声で)私の想いはどうすればいいの。(泣き崩れる)あなたを…あなたを…知ってしまっ
た後に…」
高山、顔を上げる。駆け寄ろうとするが留まる。
高山「子供時に初めて見た流れ星に感動して、
いつでも流れ星を見られたらと思い、人工流れ星のアイディアを思いついたんだ。そこで、
JAXAの技術者の親父にコンテストに応募を勧められて、応募した。そして最優秀賞を取り、そ
のアイディアを基に親父が作ったんだ」
高山、正座する。
あやの、涙を零し、目を擦る。
高山「君のお母さんは事故に。俺も罪悪感はある。あんなアイディアを出さなければ、あんな
事故には…」
あやの「あなたは開発には携わったの?」
高山「おれはアイディアだけ。作ったの親父
のチームさ」
あやの「(素っ気なく)そう」
高山、あやのの手にそっと手を重ねるが、あやのは払い置ける。
高山、あやのの顔を見る。
高山「ずっと言おうと思っていたんだ。だけど、勇気がなく、君を傷つけてしまうのが怖かっ
た」
あやの「私のせいにしないで」
高山「ご、ごめん」
沈黙が続く。
高山「なぁ許してくれとは言わない、ただ、人工流れ星のことだけは嫌いにならないで欲しい。
あれには罪はないから」
あやの「なら、誰に罪があるの?あなた?あなたのお父さん?」
あやの、立ち上がる。
あやの「私は分からないの、あなたのことも私の感情も」
あやの、ハンドバックを手に取る。
あやの「少し考えさせて」
高山「ちょっ」
あやの、部屋を出ていく。
高山、唖然としてその場に立ち尽くす。
◯岡山天文台付近の山の上(夜)
夜空、一点から放射状に流れ星が流れている。
あやの、体育座りで蹲っている。顔は夜空に向いている。目には涙を溜めている。
流れ星があやの方へ飛んでくるように向かう。
あやの、目を瞑り、顔を反らす。
鈴虫の音が鳴り響く。
あやの、顔を夜空に向き直し、安堵するが顔は青ざめている。
あやの「どうしたらいいの、私…」
あやの、膝に顔を埋め、鼻をすする。
☓ ☓ ☓
あやの、袖で涙を拭く。顔を上げると目が赤くなり、涙跡が残る。
夜空、一点から放射状に流れ星が流れている。
あやの、その流れ星を呆然と見る。
あやの「お母さん…私をどうしたらいいの?自分の気持ちがわからない」
夜空、一点から放射状に流れる流れ星が流れる場所とは異なる場所から流れ
星が流れる。
あやの、手を伸ばし、流れ星を掴もうとするが、握った手の後ろを通過する。
あやの「やっぱり…掴めない」
あやの、手をゆっくり下げ、膝に顔を埋める。
夜空、一点から放射状に流れる流れ星が止まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます