最後へ向けての…
人 物
矢吹風太郎(13)、(21)橘中学一年生、橘中学の教育実習生
中尾未来(15)、(23)橘中学三年生、橘中学の教員。矢吹の先輩。
女性教員
◯橘中学校・校舎前(夕)
矢吹風太郎(21)と女性教員、並んで歩いている。
矢吹「前日に突然訪れて申し訳ございません」
教員「いいんですよ、あなたの母校でもあるんですから、遠慮なさらずに」
矢吹「(軽く会釈して)ありがとうございます」
矢吹と教員、立ち止まり、向かい合い、
矢吹「明日からよろしくお願いします」
教員「明日から教育実習頑張ってください。それでは私はこれで」
教員、校舎に入っていく。
矢吹、教員の姿が見えなくなるまで、じっと見る。
矢吹、周りをきょろきょろ見渡す。
矢吹「(小声で)全然変わっていないな、少し校舎が小さく感じるかな」
矢吹、校舎の上を見る。
矢吹「(小声で)先輩、今何処で何をやっているんだろう」
校舎上でフェンスにもたれ掛かっている中尾未来(23)がいる。夕日で未来の顔
が影になって見えない。長い髪が風で靡く。
矢吹、目を大きく開き、
矢吹「(汗が垂れる)ま、まさか」
◯(回想)同・校舎前(夕)
矢吹風太郎(13)、俯きながら歩いている。
校舎の影がグランドに投影される。
校舎の影の上には人の上半身の影が見える。
矢吹、人の影を見た後、校舎の上を見る。
中尾未来(15)、フェンスを超えた縁で足をバタバタさせながら座っている。風
で長い髪が靡く。
矢吹「(見上げながら)お、おい、あんなところで何してんだ」
矢吹、校舎の中へ走り出す。
(回想終わり)
◯同・校舎前(夕)
矢吹、校舎の中へ走り出す。
◯同・校舎内・階段(夕)
矢吹、階段をダッシュで駆け上がる。
矢吹「あの姿は…はぁはぁ…」
◯同・校舎内・屋上扉前(夕)
矢吹、両膝に手を置き、前屈みの状態。矢吹、はぁはぁ息を切らす。
矢吹、ゆっくりと扉に近づき、ドアノブを握ろうとする。少し考え込む。
矢吹、ゴクリと喉を鳴らす。
矢吹、決心がついたのか、ドアノブを握り、思いっきりドアを開く。
◯(回想)同・屋上(夕)
矢吹、思いっきりドアを開ける。
矢吹「は、早まるな!」
未来、フェンスに片足を乗っけて、今にでもフェンスを乗り越えようとしてい
る状態。
未来、驚いた表情で、フェンスに慌てて両手で掴む。フェンスがガチャガチャ
大きく音を鳴らす。
未来「う、うわぁ、ちょっといきなり何?死ぬところだったじゃない、少年よ」
矢吹、はぁはぁと息を切らしながら、不思議そうに首を傾げる。
矢吹「あっご、ごめん、ごめん。死ぬんじゃないかと思って…」
未来、クスッと笑って、
未来「(笑顔で)そんなことないよ」
未来、フェンスを乗り越え、をパッパッとスカートについた埃を叩く。
未来「もしかして、私がフェンス向こうで座っていたのを見て、駆けつけてくれ
た?」
矢吹、未来から目を逸らし、
矢吹「ち、違うよ。無性に屋上で夕日を見たくなっただけだよ」
未来「(笑いながら)嘘下手だね。でも、ありがとう、優しいね」
矢吹「暇だっただけだよ。それにしてもあなたはここで何していたんですか?」
未来、人差し指を顎に当てて、
未来「んー、考えこと?」
矢吹「なぜ、疑問系…」
未来「(笑顔で)お姉さんには秘密がいっぱいなのさ」
矢吹「(クスッとして)なんだそれ」
(回想終わり)
◯同・屋上(夕)
矢吹、思いっきりドアを開ける。
誰も見当たらない。
矢吹、辺りを見渡す。
未来、矢吹の後ろの耳元で、
未来「わぁっ」
矢吹、前に倒れ込むように倒れかけ、
矢吹「(驚いた表情で)うわっ!だ、だれ?」
矢吹、振り向き、未来に見惚れるように固まる。
未来「(笑顔で)やぁ、どこかで見た顔と思ったら君だったか」
矢吹、驚いた表情から笑顔に変化し、口元が緩む。
矢吹「なんだ、未来さんか。まさか会えるなんて奇遇だね」
未来「息切らしながら、ここに来たのにそう返してきたか」
矢吹「急に夕日が見たくなったから、来ただけです」
未来「(ニヤニヤしながら)本当?私に会いに来たんじゃないの?」
矢吹、フェンスに前向きに肘を掛け、
矢吹「あー、夕日が綺麗だな」
未来、後ろの夕日を指差し、
未来「夕日はこっちこっち」
矢吹、後ろを向き、
矢吹「(間を置いて)未来さん、遊んだ時から全然変わらないですね」
未来「(笑いながら)そこは嘘でも綺麗になったねと言わないとだめだよ、これ常
識」
矢吹、頭を掻いて、
矢吹「(頭を下げる)すみません。(頭をあげる)話変わりますけど、まさかこの学
校にいると思わなかったですね」
未来、矢吹に近づき、指を指す。
未来「私は前からあなたがこの学校に教育z実習に来ることは知っていたけどね」
矢吹「そうなんですか…。それにしてもいつこっちに帰っていたのですか?」
未来「二年前、教員になるためにここにまた引っ越してきた。あなたに会えた思い出
の地だからね。あの二日間は生涯で一番楽しかったし。それに…」
矢吹「それに?」
未来、もじもじしながら後ろを向き、
未来「最後にあなたに会いたかったし」
矢吹「えっ…?最後と…いうのは?」
未来「私、後一年くらいしか生きられないの。だから、人生の最後にあなたとまた過
ごしたくなったわけ」
矢吹、尻込みし、この世の終わりのような表情で、
矢吹「えっ…あっ…」
未来、腹を抱えて笑って、
未来「面白い顔」
矢吹「(食い気味に)わ、笑わないでください。(俯きながら)心配なんです」
未来「やっぱり優しいね。あの時も私のわがままを何も不満を言わず、聞いてくれ
て、一緒に遊んでくれたしね」
矢吹「そ、それは普通の反応だよ。それにあの時と今は状況が違うって…あの時はな
んか流れで…」
未来「じゃ、今回も流れで付き合ってくれる?」
矢吹、暗い顔で考え込む。決断したような顔で、
矢吹「僕なんかで良ければ…いや僕にさせてください」
未来「うん、よろしい。あの時行けなかった
場所も行こう。じゃ、手始めに水族館行こうか」
矢吹「水族館はあの時行ったし、それに最初でいいの?」
未来「いいの、まずは思い出に浸りたいの」
矢吹、首を傾げる。
◯(回想)東京水族館・クラゲ館内(昼)
未来、はしゃぐように水槽を見つめる。
フロアは暗く、水槽の中はたくさんの自ら光るクラゲがふわふわ漂うに泳いで
いる。
未来「綺麗ね。水槽の中を漂っている姿は見ると私みたいと思っちゃう」
矢吹「どうして?」
未来「つまらなさそうもふわふわ漂うように転校ばかりして、地に足がついていない
感じが」
矢吹「今は漂っているかもしれませんが、いつかこのクラゲのように光り輝き、生き
がいを感じるときがあるんではないかと思いますよ」
未来、目を大きく開き、そして、口元が緩み、目が笑う。
未来、思いっきり矢吹の背中を叩く。
矢吹「い、痛い!」
未来「いいこと言ってくれるね。そうか、輝く時が来るか…」
(回想終わり)
未来「(笑顔で)また、クラゲ見に行こうね」
矢吹「え?なんでクラゲですか?」
未来「(頬を膨らませ)忘れたの!もういい」
矢吹、首を傾げる。
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