立松と報道戦争

人 物

立松和弘(45)週刊文秋の記者

小柳未華子(51)青山芸能プロ所属。女優

新山学(55)週刊文秋編集長

八木清代(25)青山芸能プロ所属。女優

大河内衛(60)東京テレビ取締役

若頭

◯同・会議室内(昼)

   立松和弘(45)、睨みながら、左手で持ったボールペンを膝にペチペチと叩いて

   いる。

立松「世間の人、ファンの人に何か一言ありましたら、お伝え下さい」

 立松の周りには大勢の記者達がノートPCに一心不乱にキーボードをカチャカチャ

 と打ち込んでいる。

   八木清代(25)が壇上の机の前で少し俯き気味に、

清代「(少し棒読み)私は相手方の家族の関係を壊したことをしたことはもちろん、フ

 ァンの皆さんも裏切りました…(頭を下げる)」

立松「(威圧気味に)あとは?」

清代「…(長い沈黙)。(号泣)本当にすみませんでした」

立松「おいおいおい、相手の家族の関係を壊しといて、泣いて詫びるだけで済まそう

 と思っているわけ?テンプレート通りというか、あんたの言葉ではないというか。

 もっと言うことはないんですか?誠意はないんですか?」

   大勢の記者がこそこそ話をし、横目で立松を見ている。

清代「ど、どうすれば…?」

立松「土下座でもしたら?」

   大勢の記者がざわつく。

   清音、目を大きく開き、悲しい表情や不安な表情を繰り返す。ゆっくり机の横

   まで歩き、ゆっくり腰を下ろし、正座する。床に手を置き、深々と頭を下げ

   る。

清代「も、申し訳ございませんでした」

   大勢の記者が一心不乱にカメラを構え、

   会場中がフラッシュで光り輝く。

   立松、悲しく、虚無な表情で清代をじっと見て、カメラで一枚撮影する。


○週刊文秋編集室(夕)

   書類だらけの机が島のように並べられている。ほとんど、席を空けているが、

   立松と他に一人、机に突っ伏して寝ている。

   立松、椅子の背もたれにもたれて、机に足を置いて寝ている。袖まくりされた

   右腕には痛々しい手術跡が見られる。

   新山学(55)、扉から入ってき、立松に近づく。

   立松、新山を横目で睨むように見る。

新山「今回もいいスクープだったわ。ははは、以前、読売新聞の社会部で汚職事件を

 追ってた正義感の塊だった奴とは思えないな」

立松「昔のことはよしてくださいな。まぁボーナス弾んでくださいな」

新山「まぁ上にかけあっておくわ。今のスクープの連続でうちの週刊誌はうなぎ登り

 だが…その…他方では不倫記事ばかり、書いてて恥ずかしいのか?とかクレームが

 多いんだ…だから申し訳ないが、次からは不倫以外のスクープをとってきてくれな

 いか?」

   立松、ドンと立ち上がり、新山に迫る。

立松「はぁ?それはおれがここでは用無しになったって、遠回しに言っているの

 か?」

   新山、落ち着けと言わんばかりに両手を前に出す。

新山「いや、そうではない。お前の記事はよく取材されて、真実味もある。それは評

 価している。しかし、もう今の世の中、不倫記事だけでは食っていけないようにな

 りつつある。方針変更と思ってくれ。ただ、これからも不倫記事ばかり書くような

 ら、ここにはいられないかもね」

立松「俺のスクープでどれだけ、儲けられたと思う。世間がどう思っているか知らん

 が、不倫記事は書くぞ」

新山「ちょっと落ち着け。お前はここに必要だ、お前を切らせないでくれ。今日はも

 う帰っていいから、少し頭を冷やしてくれ…あっでも小柳未華子の不倫スクープな

 ら考えるかも」

   立松、舌打ちし、机の脚を蹴る。どかどかと歩いて出て行く。


○立松自宅・リビングダイニング(夜)

   小柳未華子(51)、キッチンでお酒を作っている。

   立松、ソファーで足を組んで、新聞を読んでる。

未華子「今日、八木清代の不倫記者会見でまた暴れたらしいね」

   立松、後ろ向かず、横目で、

立松「おれなんかにネタ渡したりして、いいのか、お前ん所の事務所の後輩だろ

 う?」

未華子「いいのいいの、あの子最近現場行っても態度悪いし、スタッフから苦情が多

 いの。いいお灸になったと思うわ」

立松「(薄気味悪い笑顔で)お前も意地悪やな。まぁ、おれはお金が貰えるからいいけ

 どな」

未華子「それにね、あの子、私にも態度悪いし、裏で悪口言ってたし、嫌いだったん

 だよね。ありがとう、すっきりしたわ。」

立松「まぁおれはスクープ取れるしでいいんだけどな。またいいネタあったら教え

 て」

未華子「あっ、そのことなんだけど…もうネタがあっても、教えることできくなって

 きて…」

   バッと後ろを振り向く、立松。

立松「はぁ?どうゆうことだ?」

未華子「(そわそわと)まぁ、その、こう立て続けにうちの事務所のタレントがスクー

 プされてきて…事務所側が勘付き始めてきたんだ…」

   キッチンから慌てて出てくる未華子。

立松「そんなこと、関係ないぜ。(顔の前で両手を合わせて)いいだろう、ネタがあっ

 たらくれよ」

未華子「(頭を下げて)ごめん、もう協力できなさそう…」

   未華子、ソファーに置いたバックを持って、

未華子「じゃ、今日は帰るわ。また埋め合わせさせて」

   バッと駆け出して、扉を開けて出ていく未華子。

立松「(怒気を混じりながら)おい、待て」

立松、仏頂面でゴミ箱を蹴飛ばす。

立松「クソッ!今に見てやがれ…」


◯ハイアットセントリック銀座玄関前(夜)

   一眼レフカメラを首にかけ、電柱の影に隠れている立松。口に加えたタバコが

   煙が空に向う。

立松「クソッ、未華子め、おれを無下にしやがって。お前の俳優人生を滅茶苦茶にし

 てやるぜ…」

   ☓   ☓   ☓

   立松、加えタバコで腕を組み、指をとんとんさせている。

立松「遅えな、今日はここにいると聞いたんだがな、ガセか!?」

   ☓   ☓   ☓

   立松の足元には何本のタバコが落ちている。

   ☓   ☓   ☓

立松「ん?未華子か?」

   自動ドアから凛とした佇まいで現れる

   マスクとサングラスで変装した未華子。

   スゥーと角を曲がっていく未華子。

立松「やっといたか。あいつ、変装しているが、すぐに分かったぞ」

   火が付いたタバコを靴で踏んで消す立松。

立松「でも一人か。男はどこだ?」

   追いかける立松。

   ☓   ☓   ☓

   立松、角を曲がると、未華子が黒いセダンに乗り込む姿を見る。

   すっと電柱の影に隠れる立松。

   バックドアを開け、大河内衛(60)と話し込んでいる未華子。

立松「だ、だれだ?あいつ」

   カメラを構え、ズームさせた画面を見る立松。

   画面には大河内の横顔が映る。

   目の瞳孔が開き、驚きの表情の立松。

立松「こ、こいつは…大河内」

   カメラを手から離し、右腕を押さえ、がくがくと震える。

   大河内、車から降りる。

立松「おいおいおい、大河内は青山芸能プロまで手を出し始めたのか…」

   立松、手が震えながらも、カメラで二人を撮影する。

   未華子が大河内の腕を組んで、ホテルに入っていく。

   立松、バケットハットとマスクを付けて、こっそり入っていく。


◯同・ロビー(夜)

   未華子と大河内、対面で座り、話している。

   大河内の後ろ席に静々と座る、立松。

   机の上に置いてあるボイスレコーダーを大河内達に向けている。

大河内「(意気揚々と)いつもの通り、明日は枕を用意してくれ」

立松「(小声で)やはり」

   立松、ガクガクと震える右腕を掴む。

   立松の前の席に若頭が座る。

   若頭、ハンカチが被せられた銃身を立

   松の前に重々しく構える。

若頭「(にかっと微笑む)まさか、お前がいるとはな」

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