靴底を減らして…

人 物

 上田真司(30)神奈川県警察本部刑事部組織犯罪対策本部薬物銃器対策課・巡査長

 谷崎雅也(40)神奈川県警察本部刑事部組織犯罪対策本部薬物銃器対策課・警部補。

 上田の相方

 刑事

 課長

 売買人1

 売買人2


○同・扉前(夜)

   大勢の警官達が扉の周りで取り囲んでいる。谷崎雅也(40)、扉を蹴破る。

谷崎「(大声で)確保!」

   大勢の警官達が一斉に入り込む。

   上田真司(30)、押されて、転ぶ。靴底は擦れている。


○同・部屋内(夜)

   警官達が売買人達を取り押さえる。

   谷崎、売買人1を取り押さえる。

   売買人2、扉へ走る。

   扉前で転んでいる主人公。

谷崎「おい、上田、そいつを捕まえろ!」

   上田、オロオロとしながら立ち上がる。

上田「あわわ」

売買人2「そこ、どけ」

   売買人2、殴りかかる。

   上田、目を瞑る。だが、売買人2を一本背負で床に叩きつける。

売買人2「ぐはっ!」

上田「うわあ、ご、ごめんなさい」

谷崎「(大声)謝るな!」

上田「ひぃ、ごめんなさい」

谷崎「たくっ…(零れた白い粉を指差し)おい、その粉を至急調べろ」

刑事「はい」

   ☓   ☓   ☓

刑事「だめです、こいつは唯の小麦粉です…」

谷崎「な、なんだと…そんなはずは…」

売買人1「(不敵に笑う)ははは、小麦粉を渡していたのが何が悪い、早く離せ」

谷崎「くそっ」

上田「そ、そんな…」


○神奈川県警本部・薬物銃器対策課内(朝)

   課長、机をドンと叩く。

   ビクッとする、上田。

   隣に谷崎がビシッと立っている。

課長「おい、またか!これで何度目だ?麻薬売買の情報を掴んでいながら、なぜ空ば

 かり遭遇する?」

上田「(おどおどと)こ、今度こ…」

課長「何度、今度こそを聞かさられればいいんだ、私は?もっとまともな捜査してこ

 い」

   上田、深くお辞儀して、

上田「も、申し訳ございません」

課長「谷崎ももっとちゃんと、上田を見とけ」

   谷崎、軽く会釈して

谷崎「申し訳ございません、課長。今度はガセじゃないネタを持ってきます」

課長「頼んだぞ、お前ら。次、ガセを掴ませられたら、減給か異動を考えておるぞ」

上田「そ、それだけは…」

課長「なら、しっかりしろ。もっと靴底をすり減らして、捜査しろ」

上田「は、は、はい…」

課長「以上、もうどっかいけ」

課長、手でシッシッと払う。

谷崎「失礼します」

   谷崎、上田の腕を掴んで、引きずるように引っ張る。


○同・休憩室

   上田、ベンチに座り、項垂れている。

   谷崎、缶コーヒーを渡し、隣に座る。

   谷崎、プルを開け、グイッと飲む。

上田「ぼ、ぼく、この職は向いていないんですかなぁ…」

谷崎「上田さ…親父さんの無念を晴らすんではなかったのか?今やめたら、水の泡

 だ」

上田「そ、そうですが…」

谷崎「なあ、なんかおかしくないか?どうも情報が漏れているとしか思えないんだ。お前なりに

 入念に捜査しているのは知っている、でもこうも5回とも空振りになるのはおかし

 い。なんか、あるぞ、これ」

上田、食い入るように見つめ、

上田「そ、そうですよね!聞き込みとかしていても手応えはあったのに、裏がありま

 すよ、絶対」

   谷崎、上田の肩をポンと叩く。

谷崎「お前が捜査を頑張ってるのは知っている、俺は何が起きてるか、調べてみる。

 お前はいつも通り、売人の聞き込みをしろ。こっちは任せておけ」

上田「す、すみません、お手数をお掛けします」

   上田、何度もお辞儀をする

谷崎「(笑う)謝らなくてもいい、年は上だけど、相棒なんだから、色々頼れ」

上田「は、はい!」


○繁華街(夕方)

   客引きの男性、気怠そう。

   上田、メモを取りながら、

上田「(指を指す)あそこの廃ビルに人の出入りが頻繁にあるってことてですか?」

男性「あぁ、そうっすよ。てか、もういいっすか?仕事あるし」

上田「あっ、すみません。ご協力ありがとうございました」

   男性、がに股で人混みへ入っていく。

   上田、覚悟を決めたような表情で、

上田「(声が裏返って)よーし、行くぞ!」


○繁華街の廃ビル・扉前

   上田、曲がり角の奥で隠れ、扉を見つめる。腕時計を見る。短針が5を指す。

   ☓   ☓   ☓

   腕時計の短針は7からズレた箇所を指す。

   ☓   ☓   ☓

   腕時計の短針は9を指す。上田、疲れた表情。

   売買人1が歩いてくる。

   上田、角から少し顔を覗かす。

   売買人1、扉を開け、入っていく。

上田「き、聞き込みどおりだ…この前の逮捕しそこねた、売買人だ、ん?」

   谷崎、歩いてくる。

上田「た、谷崎さん?」

   谷崎、扉を開け、入っていく。

   上田、忍び足で扉に近づく。

売買人1の声「いやー、この前はあざっす、あんたの前情報がなかったら、捕まって

 ましたわ、これ情報料っす」

   上田、扉に耳を当てる。

谷崎の声「あー、サンキュ。金じゃなくて、薬がよかったが、金も底をついてきたか

 ら、今回はこれで」

   上田、青ざめる。

上田「た、谷崎さん、そ、そんな…」

売買人1の声「そんなに薬やってたら、警察でバレますよ。あんたに捕まっら、情報

 貰えなくなるし、こっちも困るんすよ」

谷崎の声「ははは、バレるわけ無いだろう、俺の相方はトロくて鈍くさいこら、気づ

 きっこないない」

売買人1の声「(笑い声)頼みましたよ」

谷崎の声「(笑い声)ははは」

   上田、一粒涙を流し、その場をゆっくり離れようとするが、滑って転ぶ。靴底

   を減っている。

上田「うわぁ」

売買人1の声「誰かいるのか!?」

   上田、慌てて起き上がり、走る。

   谷崎、扉を強く開ける。

   遠くからカツカツと音がする。

谷崎「(大声で)誰だ!」

   売買人1、谷崎の脇から出てくる。

売買人1「クソ、話聞かれたかもしれない、追いかけるぞ」

谷崎「おう」

   谷崎と売買人1、青筋を立て、走る。


○繁華街・廃ビル前(夜)

   谷崎、売買人1、あたりを見渡す。

谷崎「おれはこっち、お前はあっちへ行け」

売買人1「おう」

   谷崎、売買人1、反対方向に走リ出す。


○繁華街(夜)

   上田、徐々にスピードを落とし、足を止める。

   上田、息を切らし、後ろを振り返る。

   人達が歩いてる。安堵の表情。

   上田、息を整え、あるき出す。

谷崎の声「おい、どけ」

   上田、ビクッと後ろを振り向く。

   谷崎、人を避け、走ってくる。

   上田、慌てて辺りを見渡す。路地を見つける。路地に入り、身を潜める。

   谷崎、路地を通過する。

   上田、路地から顔を出し、谷崎の背中を見る。安堵の表情。

   上田、谷崎と反対方向に歩き出す。

谷崎「おい、上田じゃないか」

   上田、ビクッと後ろを振り向く。

   谷崎、上田の肩を組む。

上田「(引き攣った顔で)き、奇遇ですね。非番でしたはずですか、こんなところで

 飲みですか?」

谷崎「(笑顔で)そうなところ。いやー上田、こんなところまで、捜査か?仕事熱心

 だね」

上田「あ、ありがとうございます。い、今さっき終わりまして、今日はもう帰ろうか

 なと思ってまして…」

谷崎「そうか、そうか。話変わるけど、そこの廃ビル知っているか?おっと肩に砂み

 たいなのが付いてるぞ」

   谷崎、右手で上田の肩の砂を払う。

上田「(目をそらす)ははは、廃ビル?気づかなかったですね…」

   谷崎、ポケットに左手を突っ込み、ポケットナイフを取り出す。

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