モヤモヤと毛玉人形

  人 物

 永倉菜々子(20) 京華大学2回生

 河合考(20) 京華大学2回生。菜々子の恋人

 円居恵美(20) 京華大学2回生。菜々子の友人


○京華大学・食堂(昼)

   席はぎっしり埋まり、学生達が食事や喋りながら過ごしている。

   窓際の丸机に永倉菜々子(20)と円居恵美(20)がお弁当を拡げ、向かい合って

   座っている。

   菜々子、箸を止め、口に入っている食べ物をごくんと飲み込む。

菜々子「ねぇ、恵美」

   恵美、箸を止め、菜々子へ顔を向ける。

菜々子「恵美、今日の講義は午前中まで?私、午前中までだから、午前中までなら駅 前まで出て、買い物しない?」

   恵美、両手を合わせ、

恵美「菜々子、ごめん。講義は午前中までだけど、今日、優子と遊ぶ約束してるん  だ」

菜々子「気にしないで、また時間合うときに遊ぼう」

   恵美、目をぎゅっと閉じ、両手を合わせ左頬に付ける。

恵美「ごめんね」

   菜々子、笑いながら、

菜々子「もう、謝らないで。なら、考でも誘ってみようかな。あいつどうせ暇そうだ し」

   恵美、目を一瞬泳がせ、

恵美「どうだろう、さっき田上君達と話し込んでたのは見たけどね」

菜々子「そうなんだ、遊ぶ話しでもしていたのかな。なら、今日は大人しく帰ろうか な」

   菜々子、溜息をつき、悲しい顔をする。


◯JR京都駅・本屋前(昼)

   菜々子、自動ドアから出てくる。

   リュックサックに袋に入った本をしまう。

   リュックサックに薄汚れた毛糸玉人形がストラップで括り付けられている。

   菜々子の周りで人々が行き交う。

   菜々子、人を避けるように歩き出す。


◯同・喫茶店前(昼)

   菜々子、軽快に喫茶店前を歩く。

   喫茶店は一面ガラス張りで、店内に人々が座り込んでいるのが見える。

   菜々子、店内を横目で見る。

   店内に河合考(20)と恵美がカップ片手に談笑している。

   菜々子、立ち止まり目を大きく開く。

菜々子「恵美と考が何で?それに恵美は優子と遊ぶはずじゃ」

  菜々子、二人を凝視する。

  菜々子を避けるように人々が行き交う。

  菜々子、死角に行き、スマホを取り出す。

  考と表示されるスマホを耳元に当て、柱の影から考を見る。

  考、スマホをズボンから取り出す。

  恵美に画面を見せて、恵美と考は困惑の表情をする。

  考、スマホを仕舞う。

  菜々子、スマホを耳元に当てながら、

菜々子「な、なんで、出ないの。やましい事があるの」

  菜々子、スマホを耳から離し、握りしめる。

  唖然とした表情で考達を見る。


◯同・食堂(昼)

   恵美、窓際の机で本を読んでる。

   菜々子、恵美の方へ向かって歩くが、近づくに連れて、歩みが遅くなる。

   菜々子、恵美の少し後ろで立ち止まり、溜息を付く。

   菜々子、恵美の前に回り、椅子を引いて座る。隣の椅子に鞄をどんと置く。

   恵美、本から顔を上げ、驚いた表情で、

恵美「ど、どうしたの、腹の虫が収まらない感じだね」

   菜々子、恵美を睨む。

恵美「どうした、私でよければ話聞くよ」

   菜々子、両手でばんと机を叩く。

   恵美の体がびくっとする。

   周囲の人達が菜々子達へ視線が向く。

菜々子「優子、昨日はバイトだったんだって」

恵美「えっ」

菜々子「恵美とも約束なんてしてないって言ってたけど、昨日は何やってたの?」

恵美「ご、ごめんね、昨日は本当は一人でどうしても外せない用事があったんだ」

菜々子「一人で?」

恵美「そう、一人で」

菜々子「一人なら何で駅の喫茶店で考と一緒に居たの?」

   恵美、目をそらし、

恵美「そこまで見てたのか」

菜々子「どうゆうこと?なぜ隠れて、それも考と」

恵美「言わなかったのは悪かったけど、本当に個人的な用事だよ」

菜々子「そんな雰囲気ではなかったよ、笑ってたし」

恵美「話の途中で楽しい話だってするよ」

菜々子「私と考は付き合ってって知ってるよね?何で私に内緒で会うの?」

恵美「菜々子、考に意識過ぎだよ、なぜそんなに執着するの?」

菜々子「不安なの、誰かに取られるのが」

   恵美、菜々子の肩にぽんと手を置く。

恵美「あまり執着しすぎると、いつか自分が壊れるよ。まぁ、これだけは言っておくよ、昨日会ってたのは相談事を受けてただけ、内容は言えないけどね」

   菜々子、窓の外を見る。

   学生達が通り過ぎる。

菜々子「あまり腑に落ちない。でも考はなぜ私に相談してくれなかったの。幼稚園か らの付き合いでもあるのに」

   恵美、黙って菜々子を見る。

菜々子「もういい、これ以上追求しても、いう気はなさそう」

   菜々子、立ち上がり、勢いよくリュックサックを手にとった。

   笠木の端にストラップが引っ掛り、毛玉人形の頭ごと千切れる。

   菜々子、驚いた表情で直ぐ様拾う。

菜々子「あー、大切な毛玉君が。頭が取れた」

   恵美、菜々子に駆け寄る。

恵美「どうしたの?あっ頭が千切れたのか、貸して、縫って上がる」

菜々子「え?裁縫道具持ってるの?」

恵美「えー、偶々ね。大切なものでしょう、直してあげる。(小声で)たく、似たもの

 同士何だから」

菜々子「え?最後何か言った?」

恵美「何でも」

   菜々子、恵美に千切れた頭と体を渡す。

   ☓   ☓   ☓

   恵美、菜々子に毛玉人形を渡す。

   毛玉人形の首に糸で縫われた跡がある。

恵美「ほら、直ったよ。考との大切なものでしょう、大事にしてね」

菜々子「(笑顔で)ありがとう、助かった。あれ?でもこの人形と考について恵美に話したっけ?」

   恵美、裁縫道具をしまいながら

恵美「え?ま、前に言ってたよ」

菜々子「あれ?そうだっけ?まっいっか」

   菜々子、毛玉人形のストラップをリュックサックに付ける。

菜々子「毛玉君を直してくれたのはありがとう。でも考との密談はまだ心の中にモヤ がある感じがして、何とも言えない」

恵美「それで?」

菜々子「恵美が話せないなら考のところ言ってくる」

恵美「そっか」

菜々子「(後ろを向いて)バイバイ」

   菜々子、恵美から離れていく。

   恵美、菜々子の後ろ姿を目で追う。


◯同・喫茶店(夕)

   菜々子、コーヒーを見つめている。

   河合、菜々子の方へ向かってくる。

河合「やぁ、どうした、急に呼び出して」

   菜々子、気遣わしげな表情で、

菜々子「昨日、優子とここで何にしてたの?」

   河合、慌てて席に座る。

   リュックサックを机に置く。

   毛玉人形がストラップで付いてる。

河合「そ、それを何で知ってる?」

菜々子「昨日見たから」

河合「見られたか」

菜々子「まだ、あなたの口から聞いてないよ」

河合「そ、それは」

菜々子「な、なぜ言わないの?言えないこと」

河合「そんな、大したことではないよ」

菜々子「(溜息を付く)どうして隠すの」

河合「不安にさせたことは謝るよ、でも疚しいことはないよ」

菜々子「わかってるよ、あなたは悪くないと思う。悪いのは子供な私だ。この感情だ けは昔のままだ」

河合「それが菜々子の素直で良い所であるよ。 普通の人なら隠してしまう感情だ」

   河合、菜々子の手を握る。

   菜々子、手を払い除ける。

   菜々子の払い除けた手が河合のリュクサックに当たり、毛玉人形が揺れる。

   毛玉人形の首には縫われた跡がある。

   菜々子、毛玉人形を手に取る。

菜々子「この跡って」

河合「あっ、見られたか、ごめん、一昨日首が取れてしまったんだ」

   菜々子、リュックサックを机に出し、毛玉人形を河合に見せる。

菜々子「じ、実は私も昨日首を取ってしまって。昨日恵美につけて貰った。あっな  ら」

河合「俺も昨日恵美に内緒で縫って貰った。 昔この人形を買った出店の親父が紐が 取れたりしたら、別れてしまうって言ってたから慌てて直して貰ったんだ。笑って しまうよね、親父の言葉に振り回されて」

菜々子「本当よね。私も考の側に要られなくなるんではないかと考えてしまったよ」

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