愛を込めて

  人 物

宮田正(29) 会社員。未来の婚約者 

鴨田未来(28) 宮田の婚約者

宮田の友人A

宮田の友人B

宮田の同僚

女性の司会

牧師


○宮田のアパート・居間(夜)

   鴨田未来(28)、頬杖をつき、正座する。

   宮田正(29)、扉を開け、

宮田「ただいま」

   未来、真っ黒なテレビ画面を見ている。

   宮田、未来の顔に近づいて、

宮田「(未来の顔前で手を振り)ただいま」

   未来、宮田を睨む。

宮田「ど、どうした?怖い顔して」

   未来、顔を背ける。

未来「今何時だと思ってるの?それに明日は式だよ、それも最近ほぼ毎日だし」

宮田「昨日も行ったよね?男友達と独身最後の飲み会って言ったよね?昨日は何も文 句言ってなかったのに今になって」

未来「一日あれば心境も変わるわ。式前なのに私だけ式のこと頭の中でシミュレー  ションしているんだよ?あなたは呑気に飲み会って。文句も出るよ。それに飲み会 の割にお酒臭くないよね」

   宮田、未来の隣に座り、

宮田「飲み会は行ったけど、式のことを蔑ろにはしてないよ。今までそんな適当なこ としたことないだろう。それに知ってるだろう、お酒弱いこと。式前だからもあっ て飲まなかっただけだよ」

   未来、右目から涙が一粒流れる。

未来「私どうしたらいいだろう。私がナーバスになっているのもあるけど、正に対し ても腹が立ってしまう自分もいる」

   宮田、未来の肩を掴む。

宮田「恐らく、マリッジブルーだと思う。式の準備とかうちの家族とかに挨拶とかで 疲れたんだろう。今日はゆっくり休んででも後少しだから、一緒に頑張ろう」

   未来、俯いて、

未来「マリッジブルーか、私がなるんなんてね。もう少し神経質な人がなるんだと  思ったが案外簡単になるんだね」

   未来、立ち上がり、引き戸をゆっくり開ける。

   宮田、膝立ちで未来の後ろ姿を見る。

   未来、引き戸をゆっくり閉める。


◯結婚式場・礼拝堂(朝)

   左右の席には大勢の人が座っている。

   司会の女性がマイクの前に立つ。

司会「新郎のご入場です、扉の方をご注目くださいませ」

   一斉に扉に注目。拍手喝采。扉が開く。

   フロックコートの宮田が立っている。

   カメラのフラッシュが光輝く。

   周りから「おめでとう」という声が行き交う。

   宮田、笑顔でゆっくり歩いていく。

   牧師が聖書台の前で立っている。

   宮田、聖書台の前で立ち止まり、笑顔で振り返る。

   カメラのフラッシュが光り輝く。

   拍手が止まる。

司会「新婦のご入場です、扉の方をご注目くださいませ」

   一斉に扉に注目。拍手喝采。扉が開く。

   ウェディングドレスを着た未来と未来の手を取っている未来の父親が並んで

   立っている。

   フラッシュが光り輝く。

   周りから「おめでとう」という声が行き交う。

   未来と父親、笑顔でゆっくり歩く。

   宮田、未来の方を見ている。

   未来と父親、聖書台の前で立ち止まる。

   父親は未来の手を離す。

   宮田、手を差し出す。未来、手が止まり躊躇する。

宮田「(小声で)どうしたの」

未来「(小声で)何でも無い」

   未来、手を取る。二段を一緒に上る。

   カメラのフラッシュが光り輝く。

   宮田と未来、牧師の方へ向く。

   拍手が止まる。


◯披露宴会場(昼)

   電灯が消され、薄暗くなる。

   司会がマイクの前に立つ。

司会「新郎新婦ご入場です。拍手でお出迎えお願い致します」

   階段上がライトアップされ、扉が開く。

   新郎に手を引かれた新婦が現れた。

   拍手喝采。新郎新婦は手を振り、階段を降りる。

   ゆっくり歩いていく。

   宮田の同僚席へ行き、

同僚A「おめでとうさん。未来さん、こいつが夫になるんなら絶対に幸せになれる  よ」

未来「(引き攣った笑顔で)ありがとうございます。幸せになりますね」

   宮田の友人席へ行き、

友人A「おぉ、おめでとう。先を越されたぜ。未来さん、宮田は頼りになるし、懐も でかいし、いいヤツだから安心ですね」

未来「(笑顔で)はい、それは私も知っていますし、感じています」

   宮田と未来、ゆっくり歩き、正面の壇 上に立つ。

   壇上には純白なクロスが敷かれた卓上にはフォークナイフが綺麗に並んであ    る。

   左右には花束が飾られている。

   宮田と未来、一礼する。

   宮田と未来、後ろに引かれた椅子の前に立ち、ボーイが椅子へ座るように、手   を差し出し、椅子を前に引く。

   机の前には椅子に座る宮田と未来の姿。

   拍手が止まる。

司会「皆さま、本日はお忙しい中お越しくださいまして、誠にありがとうございま  す。只今より、宮田家、鴨田家、ご両家の結婚披露宴を始めさせていただきます。 新郎から皆さまへお礼を込めた、ごあいさつをいただきます。宮田正様、どうぞ宜 しくお願いいたします」

   宮田、立ち上がり、一礼する。

   マイクスタンドの前に行く宮田。

宮田「本日はお忙しいところ、私たちふたりのために、お越しいただきまして感謝申 し上げます」

  宮田、笑顔で話す。

   ☓  ☓  ☓

   宮田と未来の周りに人が集まっている。

   未来、ぎこちない笑顔で笑っている。

友人A「あれ?未来さん、少し顔色悪い?」

友人B「こんな日にそんな事言うなよ」

友人A「ごめんごめん、気のせいだね。でも、あとで良いことあるよ、宮田が…」

   宮田、友人Aを睨む。

   友人Bが友人Aの肩を掴み、

友人B「(小声で)おい、やめろ」

   友人A、驚いた表情で

友人A「あっやべ、まじで何でもないから」

未来「(乾いた声で)ははは」

   未来、宮田の顔をちらっと見る。

   宮田、左側にある広く空いた場所をちらっと見る。

   ☓  ☓  ☓

   司会、マイクスタンドの前に立つ。

司会「お楽しみの所恐れ入ります。突然で失礼致します。新郎様より新婦様への特別 なお披露目がございます。それではご準備があります為、少々お待ち下さいませ」

   未来、驚いた表情で宮田を見る。

   キャスター付きの台に乗ったグランドピアノを職員4人が運んでくる。

   ドラムセットとアコースティックギターを職員が運んでくる。

   友人Aと友人Bが立ち上がる。

   友人Aがドラムセットに座り、友人Bがギターを手に取る。

   宮田、グランドピアノの椅子に座る。

   グランドピアノにはマイクが付いてる。

   宮田、マイクを口元に持ってくる。

宮田「(未来の方へ向いて)やぁ、突然のことで状況がわかっていないみたいだけ  ど、ここはゆっくり聞いてくれ」

   未来、躊躇して頷く。

宮田「この曲は付き合い始めた頃にカラオケで未来の前で歌った曲で、実はこのまま ずっと二人で居ようと思って歌った曲でもあるんだ」

未来「(小声で)うん、歌ってくれたね、懐かしい」

宮田「僕は不安症だから、昨日の夜まで練習を繰り返してしまった。うまく歌えない かもしれないが、今日、新しい門出に、新しい生活に、改めてあなたに捧げます」

   宮田、ゆっくり指が動き、鍵盤を叩く。

   友人A、スティックを握り、ドラマを叩く。

   友人B、ギターを奏でる。

   宮田、マイクに向かい、声を吹き込む。

   ☓   ☓   ☓

   宮田、指が止まる。

   未来、ゆっくり拍手する。

   未来、一粒の涙を右手で拭う。

   拍手喝采する。

   宮田、友人A、友人Bが立ち上がり、一礼する。

   宮田、マイクを持つ。

宮田「ご清聴ありがとうございます。すこし、

 声が裏返ってしまった箇所がありましたが」

   宮田、笑顔で話す。

宮田「歌って思い出したのですが、僕と未来が出会った頃の話ですが、僕は未来に一 目惚れで告白したと言いましたが、実はその前から知っていました。告白する少し 前に、電車で未来が妊婦を介護している姿を見ました。とても一生懸命で、真剣  で、誠実で。そんな姿を見て、心が惹かれました」

   宮田、照れながら、

宮田このような場所で言うことではなかったですね。」

  未来、クスクスと笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る