キリング オン ザ バースデー
人 物
清川薫(25) 会社員。香織の兄
清川香織(22) 清川の妹
相生健(25) 清川の親友。
大井猛(45) 警視庁の刑事
横井敦(30) 警視庁の刑事。大井の部下
警察官の声
○清川家・玄関前(夕)
右靴の踵をとんとんとする清川香織(22)。
香織の後ろ姿を見る清川薫(25)。
香織、清川の方へ身体を向き直す。香織の胸にはロケットペンダントが掛かっ ている。
香織「今日、誕生日祝って貰うはずだったのに、急に明日に変えてもらってごめん ね」
清川、顔を横に振り、
清川「いいって。毎年祝ってるし、一回ぐらい次の日に祝ったって構わない。それに 親友の健からお願いだしな。気になるとしたら、今日健に祝ってもらって次の日、 おれが祝っても嬉しさが半減してしまうことさ」
清川、寂しそうな表情をする。
香織、微笑み、清川の肩を何度も叩く。
香織「あはは、寧ろ2倍嬉しいよ。私の心配ばかりだね。相変わらずのシスコンぶり だ」
清川「シスコンではないよ、ただ大事にしているだけだ」
香織、笑顔で、
香織「健と話す時だって、私のことばかり話すし、すぐ頭を撫でるし、妹に兄貴の顔 写真付きのペンダントを渡すし。まぁもう慣れたからいいけどさ」
清川、笑顔で
清川「嫌ではないなら、これからも続けるね」
香織、顔が引き攣る。
香織「笑顔で気持ち悪いこと言われても。こんな事してたら健との待ち合せ時間に遅 れるし、もう行くね。」
清川「うん、健によろしくね。駅前のイタリアンに連れて行って貰うんだっけ?な ら、明日は僕も負けじと良いところ連れていかなくては」
香織「そんなに無理するなよ、私はファミレスだろうと嬉しいから」
清川「そんな、年に一回の大事な日にファミレスな」
香織、清川の口を遮る。
香織「わかった、高い所でいいから。押し問答してたら遅れるから行くね、じゃ」
香織、手を振って、扉を開ける。
清川「うん、行ってらっしゃい。遅くならないように」
扉が閉まる。スボンの右ポケットに入っているスマホが鳴り出す。
清川、スマホを取り出す。
画面には「健」と表示される。
清川、耳に当てる。
清川「もしもし、どうした?」
相生の声「急にすまん、香織はもう出たか?」
清川「今さっき家を出たよ」
相生の声「今出たんだな、ありがとう。それだけの確認だけだ、すまん」
清川「別にいいさ。それなら、香織に直接確認すればよかったのに。それにしても
少し息でも切れているのか?」
相生の声「ん、少しな。実は少し寝坊してな、遅れそうだったから、香織が今どの辺 りか気になったんだ」
清川、笑いながら
清川「おいおい、大丈夫か?」
相生の声「すまんな、ダッシュして向かうわ。香織には言わないでくれ」
清川「さぁ、うっかり言うかもね」
相生の声「妹以外には優しくないな、お前は。まぁ、いいや。急にすまんな、また飯 にでも行こう、じゃ」
清川「うん、じゃ」
清川、スマホを下ろす。スマホをポケットにしまう清川。
壁にカレンダーがかかっている。
12月24日に「香織誕生日」と赤文字で記載されている。
◯同・居間(夜)
テレビが点いている。
ソファーに座っている、清川。
ソファー前の机の上に置かれるスマホ。
スマホが震え、画面に「080-xxx-xxx」と表示される。
スマホを手に取り、画面に目を向ける、清川。
清川「知らない番号だ」
清川、スマホを耳に当て、
清川「も、もしもし」
警察官の声「もしもし、私、北警察署のものです。清川さんの携帯でよろしかったで しょうか」
清川「はい合っていますが、えっ警察ですか」
警察官の声「落ち着いて聞いてください、清川香織さんが刺さ、病院に搬送されまし た」
清川「えっ」
清川、スマホを手から離す。
◯竹島病院・集中治療室(夜)
心電図画面には小さい波形と脈拍30と表示されている。
香織はCPAPマスクを装着し、ベッドで眠っている。
右横に清川が香織の右手を握り、涙を流している。
香織、ゆっくり目を開く。
香織「あ、兄貴」
清川「香織、だ、大丈夫か?」
香織「な、泣かないで、いつもみたいにヘラヘラしてて、そうじゃないと安心して逝 けないよ」
清川、涙が溢れる。
清川「そ、そんなこと言うなよ」
香織、細々とした声で、
香織「今までの人生は楽しかったな、心残りは兄貴を一人残してしまうことかな。あ と、もし犯人が分ったとしても受け入れて」
清川、立ち上がり、
清川「か、香織、犯人の顔見たのか?教えろ,僕が敵を討ってき」
香織、微笑みながらで顔を横に振り、清川の腕を掴む。
香織、腕が力尽きるように腕が降りる。
心電図から電子音が鳴り響く。
画面には心拍数は0と表示される。
◯清川家・居間(昼)
ソファーに清川と対面に大井猛(45)と横井敦(30)が座っている。
清川、俯く。
大井「事件から半年ですが、犯人の足取りが未だ掴めていません、申し訳ございませ ん」
大井と横井が頭を下げる。
清川、大井の襟を両手で掴む。清川の目は血走っている。
横井「お、おい」
大井が横井の前に腕を出し
大井「構わん」
清川「いつまで掛かっている、無能共」
大井「申し訳ございません」
清川、大井を睨む。襟を乱暴に離す。
清川「もう、帰ってくれ」
大井と横井は立ち、深くお辞儀する
大井「失礼致します」
横井「し、失礼致します」
大井と横井は居間を出る。
清川、ソファーに座る。
机のスマホが鳴る。画面に「健」と表示される。
清川、スマホを耳に当てる。
清川「はい」
相生の声「おお、出たか。今どうしてる?」
清川「別に」
相生の声「まぁ気持ちはわかるが、いつまでもその調子じゃ、香織が悲しむぞ」
清川は怒鳴りながら
清川「うるせぇ」
相生の声「すまんすまん、そう気を張り詰めるのは身体に毒やし、たまには気晴らし にうちに来て飲まないか」
清川「行くわ」
相生の声「よし、なら酒用意して待ってるし」
◯相生のアパート・居間(夕)
相生、大きい声で
相生「散らかってるけど適当に座ってて」
机の上にビール缶と酎ハイ缶がたくさん並んでいる。清川、ソファーに座る。
ソファーの隙間に銀色のペンダントが挟まっている。
清川、手に取り、青ざめる。
清川「こ、これは」
ペンダントとの蓋を開けると清川の写真が入っている。
清川の後ろに相生が立っている。
相生「見つかってしまったか」
清川、立ち上がり相生の襟を掴む。
血走る目の清川。
清川、怒鳴りながら、
清川「な、なぜ、お前がこれを持っている」
相生「なぜって、俺が香織を殺したからだ」
清川「な、なぜだ」
相生「おれ、子供時に母親亡くなったて言ったよな。実は事故で死んだんだ。事故の 日、俺の誕生日で祝ってくれるはずだったが、居眠り運転の車に轢かれて死んだん だ。それを境に誕生日に祝ってもらう奴らが憎くなって、この二、三年は殺したい 衝動に駆られるんだ」
清川「それで、俺に香織の誕生日祝いをズラすお願いして、香織を殺したんか」
相生「香織に恨みがないが、そうだ。時々殺人衝動を抑えるためにな。ここだけの 話、香織以外も何人か殺してんだ」
清川、掴む腕が震え、唇を噛みしめる。
相生「だが、知られたからには返さない」
相生がポケットからナイフを出し、清川に腹を何度も指す。
清川、口から血を流し、その場に倒れ込む。
相生、窓を開け、ベランダに出る。
相生「薫、恨みはないが、すまん」
相生、手には血がべっとり付いている。
相生、外を見つめる。
清川、相生を後ろから首を締める。
相生「ま、まだ、生きてい」
清川「な、なぜ香織が死に際、犯人が分かっても受け入れろって言ったかわかった。 でも、親友だろうと受け入れるのは無理だ」
清川、相生と共にベランダから落ちる。
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