任侠女子

  人 物

天王寺あき(17) 天満高校2年

山中景子(17) あきの友人。山中組組長の娘。

山中武市(45) 7代目山中組組長。景子の父親

男性教師(49)

女子生徒達

女子生徒1

女子生徒2

 


○天満高校・2-3教室(昼)

   黒板にコツコツとチョークで数式を書く男性教師。

   ノートに書き込んでいる、じーっと教科書を読んでいる、窓の外をぼーっと見

   ている女子生徒達。

   教科書を机に開いて置き、突っ伏して寝ている天王寺あき(17)。

   数式を書き終え、チョークを置く男性教師。

   前を振り向く男性教師。

   あきの背中をシャーペンでつんつんと突く山中景子(17)。

   ひそひそ声で、

景子「あきちゃん、先生にまた怒られるよ」

   寝ているあきを睨む男性教師。

   持っている教科書を強めに教壇に叩きつける男性教師。

   あき以外の女子生徒達がびくっとし、男性教師の方へ一斉に目を向ける。

男性教師「天王寺あき、お前はいつになればマジメになるんだ」

  あき、突っ伏したまま大声で、

あき「大丈夫です。夢の中ではマジメで優秀ですので」

男性教師「チッ、減らず口を。検事の兄がいるのに不真面目め。そんな態度だと、留 年一歩手前だろうとテスト点数を甘くしないからな」

   腕組みをする男性教師。

   突っ伏したまま目を開き、窓の外を見るあき。

   どんよりした空模様。

   グランドでテニスをする女子学生達。

   景子はあきの背中をじっと見つめる。

   ✕   ✕   ✕

   スピーカーからチャイムが鳴り響く。

   黒板を消す男子教師。

   机から立ち上がる女子学生達。

   あき、突っ伏して寝ている。

   あきの裾を引っ張る景子。

   慌てて頭を上げ、後ろを振り向くあき。

あき「おっと、何だい?景子」

景子「何だいじゃないよ。先生に喧嘩ばかり売っていたら、いざ大変な時に助けても らえないよ。去年も留年ぎりぎりだったし」

   あき、景子の顔を両手で抱き寄せて、

あき「景子だけだよ、優しいのは」

   景子、あきの腕から抜け出し、

景子「もう、話逸らさないでよ。それにあきちゃんのお兄さんの方が優しいよ」

あき「そう?この前一緒にゲームしたら、て手加減してくれなかったよ?腹が立ったから、兄貴が楽しみにしてたケーキ食べてやったけどね」

景子「相変わらず、仲良いね」

あき「違う、兄貴は友達が居ないから私が遊んであげているだけ」

   クスクス笑う景子。

   右隣の机上から消しゴムが景子の足元に転がった。

   消しゴムに目で追うあき。

   消しゴムを拾おうと屈むあき。

   女子生徒1が怯えた表情で消しゴムを拾う。

女子生徒1「ひ、拾わなくても大丈夫です」

   女子生徒2が焦った表情で手招きする。

   女子生徒1が女子生徒2へ向かう。

   ひそひそ声で

女子生徒2「や、山中組に近づいたら危ないよ」

   女子生徒1と女子生徒2は教室のから出ていく。

   その二人を眉間に皺を寄せて目で追うあき。

   俯き、息が荒い景子。

   景子の手を取り、教室から出るあき。


○同・2階と3階間の踊り場(昼)

   あきが辺りをキョロキョロ見渡す。

   景子を抱き寄せるあき。

   景子、ボソボソと

景子「私は組長の娘ではない。組長の娘ではない」

  景子の頭を撫でるあき。

あき「人から何と言われても景子は景子だよ」

   以下回想。


○山中組・大広間(夕)

   開いた襖からヒグラシの声が鳴り響く。

   向かい合って座っている山中武市(45)とあき。

   ビシッと正座の山中。3メートル離れた場所に胡座をかくあき。

   畳に両手を付き、頭を深く下げる山中。

山中「この度は、娘の命を助けて頂き、誠にありがとうございます」

   慌てる様子で立ち上がろうとするあき。

あき「い、いいのですか?組長が人に頭を下げて」

山中「今は一人の父親としての感謝です」

   胡座をかき直すあき。頭をかくあき。

あき「そ、そうですか」

   頭をあげる山中。

山中「ご存知の通り、私は裏社会で生きる身であります。そのため、悪いことをして きました。他の組からも命も狙われることもあります。だが、私の家族はそんなこ とに巻き込みたくありませんでした」

   額の汗をハンカチで拭う山中。

   頬に汗が流れる山中。

   腕を組み山中の目を見ているあき。

山中「私の家族の存在を他の組から悟られないように別々に遠くに住まわせました。 だが、どこで嗅ぎつけたか不明ですが、最近そのことに気づいた組がいました。そ して、昨日、娘が襲われました。今回はあなたが居たため、難を逃れました」

   山中の目に涙を貯め、右目から涙が頬を伝い、畳に雫が落ちる。

山中「ここからが今回あなたをお呼びした本当の目的です。どうか、今後も娘の、景 子の身を守って頂けないでしょうか?」

   両手を畳につき、頭を深く下げる山中

あき「どうして、私なんですか?まだ私は15なんですよ?」

   頭をあげる山中。

山中「うちの副組長が現場に来た時、あなたの戦う姿を見ていたのです。彼が言うに は武術の達人と思わせる動きだったそうです。そして、ナイフを突き付けられても 眉一つ動かず、冷静に対処していたと」

あき「組長さんは見ていないんでしょう?副組長の言葉だけでなぜ納得したんですか?」

山中「そう、私はその場を見ていないが、武術を極めた彼がそこまで言わせたのだ、 それだけで納得しました」

あき「そんなにも信頼があるんですね」

山中「彼とは付き合いが長いし、もっとも信頼できる男だから、言葉だけれも鵜呑み ができるのです」

あき「そうですか」

   目を瞑り、うーと唸って考え込むあき。

あき「最後に確認を。自分で言うのはなんですが、強さはお墨付きをくれましたが、 でもなぜ私なんですか?警護なら私なんかよりも副組長の方が修羅場を潜ってる  し、そちらの方がいいと思うが」

山中「うん、先程もお伝えしましたが、景子には普通の生活をしてほしいと思ってい ます。学校にいる時も部下達が張り込んでいたら、周りが怖がりますし、組の関係 者と周りに知られてしまいます」

   腕組みし、頷いているあき。

あき「なるほど」

   額を畳につけるぐらい頭を下げる山中

山中「まだ、子供のあなたに頼むなど可笑しいと重々承知ですが、どうかどうかお願 いできないでしょうか」

  満面の笑みで

あき「いいですよ。私の唯一の親友だし」

山中「あ、ありがとうございます」

あき「但し、条件がある」

   頭を上げ、驚いた表情の山中。

山中「な、何でしょか?」

あき「私の両親を殺した奴らを探してほしい」

山中「両親が殺されたのですか?」

あき「10年前にね。まだ捕まっていないんだ。警察が言うには裏社会の人間の仕業 なんだって。もう警察を当てにできないので一層自分で探そうと思っていたが、ど う探そうと悩んでいた所」

山中「そうでしたか」

あき「蛇の道は蛇、組長ならその辺り知っていると思って、頼んでみた。どうかお願 いします」

   立ち上がり、頭を下げるあき。

山中「分かりました。身命を賭し探します」 

あき「一般人に対して命掛けなくても」

   から笑いのあき。

山中「あなたが命に関わるにこちらも命掛けなくては不釣り合いでしょう」

   口角を上げる山中。

回想終わり。


◯元の同・2階と3階間の踊り場(昼)

  あきの腕の中で眠るように持たれているいる景子。

  息遣いがすーすーとしている景子。

あき「落ち着いたか?」

景子「うん。いつも、ありがとうね。やっぱ

り、あきちゃんと居ると安心するわ」

あき「そ、そんな事ないよ」

   頬が赤くなるあき。

   クスクス笑う景子。頭をかくあき。

あき「それにしても、なぜ景子が組長の娘ってことが知れ渡っている?教師側も知ら ないはずなのに」

  俯き、右袖で涙を拭う景子。

景子「わからない。なぜ?誰が?」

   景子と同じ目線まで屈むあき。

あき「私が何とか犯人探すから、めそめそするな。それにしても、景子太った?」

あき「あきちゃん…」

   目が頬を膨らませる景子。

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