第5話 アンチーブ市街でのショッキングな出来事

 次の日の朝、男性陣は研究資料を手に熱い意見を戦わせていたので、お昼にドゴール広場で待ち合わせる約束をして、先にまどかと和美はバスに乗り、海沿いにある古城を見てからアンティーブの街を散策することにした。


 砂利のしかれた海岸を歩いていると、親日家の老人とその娘に話しかけられた。

 どうやら彼が若い頃はフランスでは有名なフェンサーだったらしく、五十四年前に開かれた東京オリンピックに出場する日本の選手を教えるため、日本に来たことがあるらしい。


 思い出を語ることができる相手を見つけて喜んだ老人は、海に面したベンチに和美とまどかを誘って腰掛け、顔に刻まれたしわを笑顔でより深くした。

 復興のため、生活に余裕がなくても、一丸となって働いた日本人は、老人の心を掴んで離さず、今でもその時代にトリップさせるようだ。


 母の和美が生まれるより前、今よりずっと不便であっただろう日本を訪ねた老人に、ここで巡りあえたのは奇跡のようだとまどかは思った。

 日本に心酔してくれるフランス人がいることを、まどかは素直に嬉しく思い、改めて自分が日本人で良かったと、少し誇らしい気分になった。


 だが、和美と老人が和やかに話すの 見つめているうちに、まどかは日本について語れる言葉がないことがもどかしくなった。

 自分が日本の文化で伝えられるのは、教科書で習った歴史の一部くらいで、それは生きている知恵でなく、外国人との話には役に立たなかったからだ。


 どうして、私はもっと自分の国の良さを知ろうとしなかったのだろうと、昨日に続いて後悔をした。

 国の外へ出れば、どれだけ自分が未熟で、何のアイデンティティも持たずにいるのかよく分かったような気がした。


 1時間ほど話した後、和美とまどかは老人との別れを惜しみながら、海岸を後にした。

 あまりにも黙りこくってしまったまどかに、和美が微笑みかける。


「ぼ~っとまどかが現れたかな?フランスに来てから鳴りを潜めてたのにね」

「ぼ~っとしてるんじゃなくて、色々考えてるの。私は日本で何を勉強して、どんな風に過ごしてきたのかなって・・。なんかもったいない生き方してきたなって・・・」


「まどか?さっきのおじいちゃんに感化されちゃったの?でも、良い傾向だと思うわ。自分の行動や考え方に疑問を持つことって大切なのよ。それにまだ二十二歳の学生だもの。これからどう生きるか、真剣に人生に向き合うきっかけを与えてもらったと思えばいいんじゃない?」

「そうだね。私には尊敬できる両親がいることだし・・」

「何いきなり?気持ち悪いじゃない」


「ちゃかさないでよね。昨日アレックスとバーチャルリアリティーの世界を体験して思ったんだけど、ああいうのを治療に役立てられるように研究してるお父さんを見直したっていうか・・。ほら、家じゃ、ぐ~たらしているだけで、ほとんど仕事の話をしないし、呼び出されると、すぐ病院に行っちゃうから、家族をないがしろにしてるんじゃないかってお母さんに文句言ったことあるでしょ?だから内容が分かって、すごいことやってるんだなって尊敬したの」


 まどかの言葉を、和美は自分のことを褒められたように、嬉しそうに頷いた。

 以前、放っておかれて寂しくないのだろうかと思ったこともあるが、母は仕事をしている父を好きなんだと改めて感じ、何だか急に両親の恋愛感情に触れるようで照れ臭くなった。


「それと、さっきのお母さんはかっこよかった。日本人として、日本の良いところを知り尽くしていて、さり気なくアピールできるところが、素敵な大和なでしこだなって思ったし、私も真似したくなった」

 その言葉に和美は嬉しそうに頷くどころか、照れまくって、何をヨイショしているのと慌てて誤魔化したので、まどかはかわいいね~と揶揄った。


 待ち合わせのドゴール広場に着き、噴水前に立っている男性3人を見つけたまどかが、隣を歩く和美に耳打ちした。

「ねぇ、あの二人と並んでも、お父さんって引けを取らないね」

 和美は笑いながら肘でまどかを突っつき、囁き返した。

「まどかはアレックスが一番かっこいいと思ってるんでしょ?」

「え~っ、何でそうなるの?顔に出てる?」

 和美が身体を折って笑い出したので、まどかは引っ掛けたわねと腰に手を当てて、笑いの止まらない母を睨みつけた。


 姿は見えているのに、じゃれ合ってなかなかこちらに歩いてこない妻と娘にしびれを切らし、登吾がダニエルとアレックスに断りを入れ、二人を呼びにやってきた。

「おい、二人とも1m歩くのに何分かかってるんだ?」

「あなた、まどかがね・・・」

「わぁ~~っ、何でもない!早く行かないと、ダニエルおじさんと、アレックスが飢えちゃうわよ」


 迎えに来た登吾を置いて、まどかは和美を引っ張り、十mほど先にいるアレックスたちに向かってずんずん歩きだした。

 アレックスがその様子を面白がって、何があったのかを尋ねても、まどかが知らぬ存ぜぬを通すので、和美が意味ありげな視線をまどかに送った。


『マダム.カズミとマドカは、母と娘というよりも、姉妹みたいだね』

 ダニエルが二人の仲がいいことを褒めると、まどかが調子にのって和美の肩に

手を回し、ぽんぽんと和美の頭を叩く。

『手のかかる妹で、姉の私は世話を焼くのが大変なんです』

 まどかの大げさな物言いと、突っぱねようとする和美の様子がおかしくて、男性3人が大笑いしたので、何人もの通行人が振り返った。


『さぁ、そろそろ行こうか。この先の坂を下った左手に大きなレストランがあるから、そこにしよう』

 案内役のダニエルを先頭にして、登吾と和美、アレックスとまどかが歩き出した。

    

 商店街の間のなだらかな坂道を下りながら、まどかはディスプレーに飾ってある

南フランスらしい色彩豊かな服やオブジェを楽しんだ。

 魚屋や肉屋、八百屋やベーカリー、総菜屋やレストランなどが立ち並らぶ通りに出ると、道を挟んだ公園の前のスペースに並べられたテーブルとイスで、何組かの家族が食事をしていた。


 公園には小さなメリーゴーランドが設置され、幼児が美しく飾られた馬に乗ってはしゃいでいる。その幼児の写真を撮ろうと、父親が名前を呼んだり、手を振って注意を引こうとしている姿を見て、まどかは、国が違っても、親が子供に向ける愛情や仕草は変わらないんだと微笑ましく思った。


 行きかう人たちはダニエルやアレックスと同様に、明るい髪と様々な色の目を持っていて、通常まどかたちが外国人と呼んでいる人たちだったが、その中を泳ぐように歩く自分自身が、ここでは外国人なんだとおかしくなった。


 道の突き当りに来て、目の前に大きな広場が開けると、アレックスが右手に見える屋根のついた広いステージのような場所を指した。

『あそこは、土日の午前中、生鮮食品や土産物などが並べられて市場マルシェになるんだ。正面に見えるのはピカソ美術館だよ』

『へ~っ、 美術館と言っても近代的なものじゃなくって、お城なのね』

 まどかが、感心して建物を見上げると、アレックスが説明を続けた。


『元は十七世紀に栄華を誇ったグリマルディ族の城をそのまま美術館にしたものなんだ。アンティーブ岬に建っているから、地中海やオレンジ色の屋根が連なる街並みが見えるよ。あとで行ってみるかい』


 アレックスの誘いにまどかが頷いたとき、アレックスの目が一点を捉え、表情が強張った。

『父さん。あそこにいるのはエリクじゃないか?』

    

 奥行のあるマルシェのステージと向かい合うようにレストランが立ち並んでいる。

 その間の細い通りを人波に紛れ、派手な赤いワンピースを着た栗毛の女が、痩せたブルネットの男にしな垂れかかるようにして、こちらに向かって歩いてくる。


 アレックスの言うエリクと、その横の女に目を止めたダニエルは、いつもの物静かな顔と打って変わって、驚きの後に、はっきりとした怒りの表情を浮かび上がらせた。

『アレックス、悪いが皆さんをレストランへ案内してくれ。失礼皆さん。あとで合流しましょう』

 そう言い残すと、大股でつかつかと二人に向かって歩き出した。


 緩慢な人混みの流れを掻き分けて、近づこうとするダニエルに気付いた赤いワンピースの女が、男の袖を引っぱって元来た道を戻ろうとする。


『待て、二人とも!ルイーズ、君はエリクに接近禁止命令が出ているはずだ。またエリクをたぶらかす気か?』

 エリクと呼ばれた男は苦渋に顔を歪め、ダニエルが追い付くのを待とうとしたが、ルイーズが耳元で何かを囁くと、頷いて身を翻し、人混みへと走り去った。


 アレックスも一緒に追いかけたかったが、まどかたちを置いていくわけにもいかず、そこから近いレストランへと三人を案内した。

 注文を済ませても、気もそぞろなアレックスに登吾が話しかける。

『エリクと呼ばれていたのは、ダニエルの患者なのかい?』

 はっと我に返ったアレックスが、上の空だったことを謝り、事の顛末を話した。


『今は違います。ムッシュー.トウゴは父と共同研究のパートナーだったので、この際、守秘義務を置いてお話します。エリクは父が帰任した昨年2015年の4月から3か月ほど父の患者だったことがあります。私も一度、彼のバーチャル治療に携わりました』


『なるほど。君がコンダクターを務めたのか。それは興味深い。最先端治療を受けるということは、かなり裕福な家庭なんだろうな。彼が治療を受けるに至った理由と結果を教えてもらえるだろうか?』


 ダニエルのただならぬ様子に、普通の患者ではないことを感じ取った登吾は、コンダクターを務めたアレックスから理由を聞こうと、身体を乗り出した。

 和美が失礼よと肘で登吾を突っついたが、アレックスは大丈夫だと、和美に笑いかけた。


『エリクの親は資産家です。兄が会社を継ぎ、エリクは画家を目指していました。先ほど一緒にいた赤い服の女の名前はルイーズと言って、エリクの絵のモデルでしたが、エリクが資産家の息子だと知り、色仕掛けでエリクを落としました』


 まどかは、深い胸の谷間が覗くように、胸元で布がエックス状にクロスされた煽情的な赤いワンピースを着た女を思い浮かべた。


『ルイーズにのめり込んだエリクは、ねだられるままにお金を渡したそうです。でも、ルイーズには遊び人の恋人がいて、その男に貢いでいたことを知ったエリクは、ショックで一昨年の秋自殺を図りました』


 登吾、和美、まどかの顔に驚きと同情の表情がよぎった。


『エリクは命を取り留めたものの、両親がルイーズに対して裁判を起こし、裁判官から接近禁止命令が言い渡されました。エリクは心身症と診断されて心療内科にかかりましたが、あまり変化が見られず、両親の希望で昨年4月に新設された治療を受けることになりました。それが父のバーチャル治療だったんです』


 そこまで話すと、アレックスは大きく息を吐き、緊張を和らげるように、額を片手でもみほぐした。

 登吾も和美もまどかも、アレックスが話すのをじっと待った。

 やがて決心したように顔をあげ、アレックスが続きを語りだした。


『ご存知のように、バーチャル治療は、その患者によって治療に必要なストーリーのベースがプログラムされます。自由にイメージできるプログラムに切り替えても、大抵はベースに沿ってストーリーは展開されます。それは殆どの人が、日々映像などを受け取る側で、想像する訓練を受けていないからです』


そこでアレックスはまどかをじっと見つめた。

『ただ、芸術肌の人間や、自由に想像できる人にとっては、プログラムされた垣根を超える場合があります。マドカもその一人で、彼女が想像して作り出した紋章は素晴らしく、訓練などしなくても、精神の投影世界をあの中に作れるかもしれないと思いました』


 バーチャル施術中、コントロールルームにいる人間は、元のプログラムされた映像を見ることはできるが、コンダクターと被験者、または患者が体験している内容は見えない。

 前日、アレックスとまどかの二人が体験プログラムに入った時、まどかが作った紋章を見ることができたのは、電極を繋いでいたアレックスだけだった。


 登吾はまどかがリアルな紋章を作ったと聞いて、想像力豊かな娘を誇らしく思ったが、今の話の続きからすると、その兆候は決して喜ばしいものではないらしい。


『アレックス、君は精神の投影世界を覗いたことがあるんだね?それはエリクのかい?』

『ええ、そうです。彼は実業家の両親とは違い、芸術家であり、ピュアで繊細でした。それゆえに心の傷は深く、荒れた心が作り出した闇の世界は、どこまでも荒涼として不気味で、飲み込まれるようでした。闇の中で彼を探し、光りの世界へ導こうとしても、沼地に足をとられ、ずぶずぶと沈んでいくような恐ろしさを体験しました』


『深層心理の中に足を踏み入れてしまったわけだ。脳や意識などにはまだ解明されていない部分がある。地図のない未開の地で迷ったら、君も戻れなくなる可能性があった』

『ええ、無謀だったと思います。ただあの頃はまだ父の助手になったばかりで、少しでも成果を出したくて無理をしたのだと思います。でも、強引にエリクを連れ戻した結果、彼は快方に向かいました。そしてバーチャル治療を離れ、心療内科に戻った後、経過観察の通院にまで回復しています』


『それは、著しい研究の成果をあげたことになる。ダニエルは君を褒めただろう?』

『いえ、それが・・・。喜んでくれると思ったのですが、父にひどく怒られて、2度と無茶をしないようにきつく言われました。あんなに怒った父を見たのは初めてです』


 暗い雰囲気を明るくしようとして、アレックスが首を大げさにすくめたので、

それを見たまどかが調子を合わせて笑ったが、登吾と和美は、研究者としての成果より、親の感情を優先させたダニエルの気持ちがよく分かり、黙って頷いた。


 それから間もなく、走り回って疲れ果てた様子のダニエルが、戻って来て席についたので、アレックスがすかさずどうだったと聞くと、ダニエルが悔しそうに首を振った。

『だめだ、逃げられたよ』


 溜息をついたダニエルを気遣うアレックスは、いつもまどかを揶揄う明るい男性とは違い、優しい息子の表情を見せていた。

 そんなアレックスを見たまどかは、彼が築く思いやりに満ちた将来の家庭を重ねて想像してしまい、なぜそんなことを・・・と焦ってしまった。


 ダニエルが食事に加わり、五人は太陽の日差しを遮るパラソルの下で、テーブルに並ぶ鴨料理やムール貝の白ワイン煮などに舌鼓を打った。

 美味しい食事は会話をも弾ませる。先ほどのことを頭から追いやって、日本やフランスで話題になったことを交互に話して楽しんだ。


 当然楽しい話ばかりではなく、ヨーロッパ、とくにフランスを狙って起こされるテロの話にも触れられ、それは異国の神への風刺画が発端ではなかったかと、登吾がダニエルに尋ねた。


『テロが起きる原因は、宗教問題だけとは限らない。学歴や階級社会が重視されるフランスで、浮上できない移民の不満も根底にあると思う』

ダニエルが呟くと、アレックスがまどかに説明をした。


『フランスは小中学生でも、学科を理解できない者は上の学年には上がれない。

高校や大学も全員が行けるわけでなくて、試験の結果次第では、もうそれ以上先に

進めないと決められるんだ。進学しない者たちは、当然ホワイトカラーがやりたがらない仕事に就くことになる。学歴、資格、免許がなければ、一生その底辺から抜け出すことはできないんだ』


 研究や政治の話にはついていけなかった和美がほっとした様子で、ようやく口を挟んだ。

『日本なら、自分の学力にあった高校と大学に進む・・というか、進めるの。でも、あまり偏差値の低い大学に行けば、高卒より就職が困難だから、何でもいいから進学というのも考えものだけれど、その選択さえできないなんて、フランスは厳しいのね』


 それを受けて、ダニエルが日本の大学と違う点を和美に説明した。

『フランスはバカロレアという大学入学資格の試験をパスすれば、基本はどの大学に入ってもいい制度なのですが、授業単位は厳しくて入るより卒業する方が難しいんです』


 まどかも興味深く聞いてから、先ほどダニエルが言った、浮上できない移民の不満について質問した。

『学力があれば、移民でも大学へも行けるのですよね?それとも移民には上に行けない弊害か何かがあるのですか?』

 まどかの質問に、アレックスが、学力があれば上に行けるし、弊害なんてないと言ってから、移民の現状を話して聞かせた。

    

『中学校の時に移民の友人がいたんだけれど、彼は祖国へ帰れば、お前たちはフランス人だと言われ、フランス人からは移民だと言われて自分の居場所が見つけられないと悩んでいた。ヘッドハンティングでやってきて、良い職種に就いた優秀な移民ならまだしも、

技術も何もなくただ生活保護を求めて来る移民だと、その子供も進学はおろか、

生活さえ安定しない。フランス人が払う税金で、生活保護を受けながら職を探せば、当然フランス人がやりたがらない仕事に就くことになる。いつまでもよそ者扱いで底辺の仕事をしていれば、やがて全ての不満がフランス人社会に向くことになる』


『なるほど、そこへインターネットを使って軍人や警察官を狙えと呼びかけがあれば、昨年の事件のように、鬱憤を晴らそうとする移民が出てきてもおかしくないわけだ』

 登吾が納得すると、アレックスがまどかにその事件を話して聞かせた。


『ネットの呼びかけに反応したイスラムの若者3人が、空港の警備員を警官と間違えて、ニースのラファイエットデパートの前で、ナイフを持って襲ったんだ。それを見た路面電車トラムの運転手が、トラムを停止させて、切りつけた男を取り押さえた。警備員は腕に負傷しただけで済んだのだけれど、深い信仰心もない若者が、インターネットで操作されたことが、社会に大きな衝撃を与えた事件だった』


『日本ではそんなに詳しくニュースにならなかったけれど、トラムを止めて、その男を取り押さえた運転手さんは、すごく勇気がある人ね。その若者たちは、自分達の犯した軽率な行為が、差別や怒りになって、フランスで暮らしている同族に向くことを考えなかったのかしら』

『考えられたら、こんな行動は起こさなかっただろうね』

 ダニエルが悲しそうな顔で首を振るのを見て、まどかはフランスの持っている華やかな外見に隠された闇を考えたのだった。



 食事が終わり、ダニエルはもう一度エリクを探してみると席を立った。

 アレックスが代わりに行こうと言ったのを、エリクは自分の元患者だからとダニエルが制した。


 不承不承頷いたアレックスを気遣って、まどかが自分達は大丈夫だから探しに行くよう促すと、アレックスは、申し訳なさそうに首を振り3人に謝った。

『すみません。せっかくのバカンスを、ふいにしてしまうようなことをして・・・』

『いや、こちらこそ、私たちに付き合わせてしまって悪かったね。それにしても、

君は真面目で本当に良いドクターだ。自分の仕事に最後まで責任を持とうとしている。こんな有能な助手を持ってダニエルが羨ましいよ』


 登吾がアレックスの誠実さを褒め、謝る必要なんかないと肩を叩いているところへ、まどかが間に割り込んで登吾に向かって唇を尖らせた。

『すみませんね~。完全な文系で…』

 思わず噴き出したアレックスにつられ、和美や登吾も笑い出した。

 まどかが機転を利かせたおかげで、気まずい雰囲気はさっぱりと消え去り、

4人は目と鼻の先にあるピカソ美術館へと談笑しながら歩いていった。

 

 美術館へ入ると、和美が気を利かせ、登吾と一緒に回るから、まどかを案内してくれるようにアレックスに頼んだ。

 まどかは変な勘ぐりをされるのを恐れ、余計なことをしてと、アレックスに見えない角度で、和美に拳をつきあげる素振りを見せたが、そんなことを気にも留めないアレックスが、二人で回ることを快く了解したので、和美と登吾は手を振って二人から離れて行った。


 まどかが辺りを見回していると、この城はどうしてピカソ美術館になったのかを、アレックスが話して聞かせた。


『1946年ピカソがこの地に滞在した時に、大きな作品を手掛ける部屋を探しているのを聞きつけたアンディーブ市が、当時博物館だったこの城の一角をアトリエとして、ピカソに貸し出したんだ。歴史ある城をアトリエにできたことを喜んだピカソは、ここで2カ月間創作した作品を、市に永久に貸し出すことを約束した。翌年から市はここでピカソの作品を公開したのが、ピカソ美術館の始まりだ』


『アレックスは医学だけでなく、こういうことにも詳しいのね。私なら自分の故郷の博物館にある作品や由来なんて語れないわ』


 まどかがしきりに感心する様子に、コホンと咳をして、アレックスが傍らのフランス語と多言語で書かれている説明文を指した。

 黙っていたら分からないのに、正直に言うなんてと、まどかはアレックスの虚栄心の無さに半ば感心し、半ば呆れ、いたずらっ子のように、片方の眉をあげるアレックスに気持ちがかき回されて落ち着かなくなるのを感じた。


 フランスに滞在するのはあと十日しかない。アレックスを思ったって、不毛な恋に終わるだけだと分かっていても、ひんやりした館内の中、隣を歩くアレックスの体温を意識しないではいられない。


 壁に掛けられた絵や作品に集中しようと、まどかは努力をしてみたが、うまく行かなかった。

 絵画とは違うけれど、漫画を描くまどかには、印象派の絵の方が感情移入しやすい。

 キュビズムを始めたピカソや、追従した芸術家たちの現代美術には、いまいちピンと来ないのも作品に集中できない理由の一つだった。


 床の上に無造作に置かれたような捻った塊や、目と鼻がずれてしまった人物や、落書きみたいな絵は、まどかにはただグロテスクに感じられ、アレックスには理解できるのかしらと、横眼でその表情を追ってしまう。

   

『まどか見てごらん。ピカソも最初は普通のデッサンをしていたって知ってるかい?』 

 まどかが、どうも作品に集中していないと見抜いたアレックスが初期の作品を指した。 

 これ幸いと、落ち着かない気分にさせるアレックスの側を離れ、まどかがいそいそと色あせた小さな紙に描かれたピカソのデッサンに近づいた時、アレックスのスマホが振動した。

 アレックスは着信を確認すると、まどかに父からだと断り、ダニエルと話すために建物の外へと出て行った。


 暫くするとアレックスが戻ってきて、館内にエリクとルイーズが入ったようだから、父が警察へ連絡を入れる間、二人を探して足止めしなければならないと説明し、まどかに謝ってから階下へ降りていった。


 まどかは、アレックスが二人を見つけられるように願いながら、アレックスとは反対に階段を上って、館内から広いバルコニーに出た。

 3階にしつらえられたバルコニーは、城の各階の天井の高さが合わさって、普通の3階よりはかなり高い位置にあった。


 眼下には防波堤と城に挟まれた海沿いの細い道が走り、その向こうは真っ青な地中海が広がって、悠々と白い客船が進んでいくのが見える。

 石を組んだ分厚いバルコニーの壁に上体を預け、まどかは目の前の美しい景色を心の底から堪能した。


 まどかが目の情景に、ぼ~っと心地よく浸っていたのを邪魔したのは、突然、背後のドアからテラスに出てきた男女の言い争う声だった。

 エレガントさに重きを置き、マナーに厳しいフランス人が、公共の場で大声を出すのを初めて耳にしたまどかは、どうしていいのか戸惑って動けない。。

 女性が感情的に声を荒げ、男性の声もそれに応戦して、どんどん激しく大きくなっていく。

    

 思わず振り返りそうになったが、失礼に当たると思い、ぎりぎりのところで踏みとどまって我慢していると、その二人はまどかの横に置かれた大きな鉢植えに植えられた木の反対側に回ったようだった。


 かなり生い茂った大きな木なので、まどかからは二人の姿を見ることができない。

ということは、あちらからもまどかの様子は見えないだろうと、テラスから退散するつもりでそっと移動しかけたその時、相手をののしるような女性の怒鳴り声が聞こえて、まどかはすくみ上った。


 興奮した女から発せられるスラング交じりの早口のフランス語は、理解しようにも、ところどころしか分からない。

 喚き散らした女がようやく口を閉じた時、まるで堪えていた感情を吐き出すかのような男性の震え声が聞こえた。


『でも、君は僕の全てだったんだ』


 まどかはその言葉に胸が締め付けられた。

 女性の反応に期待したが、無情にも女性の靴音が、ドアに向かってコツコツと遠ざかるのが聞こえた。


 遠ざかる靴音に神経を集中させていたまどかの耳に、突然階下の道からNon!という叫び声が届いた。

 まどかがテラスから下を覗き込むと、二人の男性がこちらを見上げ何か叫んでいる。そして二人は腕で顔を覆った。


 女性の悲鳴が階下と背後から同時に聞こえた時、薄っぺらな板ではなく、空気を内包したスーツケースを落下させたら、こんな音がするのではないかと連想させるようなバーンという大きな音が辺りに反響した。


 まさか!とある思いにかられ、まどかはテラスから身を乗り出してみたが、テラスの厚みに邪魔されて真下は見られない。後ろを振り返ってみると、赤いワンピースを着た女がその場にへたり込んでいた。

    

 まどかの腕や背中がざわつき、急にぞくぞくと体温が下がったように感じた。

 ルイーズという美しいモデルは、驚愕のあまりがたがたと震えている。


 階段を駆けのぼる複数の足音が響き、アレックスと警官が飛び込んできた。

 アレックスは、腰が抜けたルイーズが震えながら指しているバルコニーの先に、

まどかがいるのを見て顔色を変えた。

 警官にルイーズを任せると、アレックスが側にやってきて、真剣な顔でまどかを見つめながら、何があったのかを聞いた。


『分からないの。音だけが聞こえて・・・。この横の木が邪魔をして私は何も見ていないの。言い合いが聞こえて、階下から女性の悲鳴と、後ろからルイーズの悲鳴が聞こえて、その後、バーンってすごい音がして・・・』


 分からないのと繰り返しながら、本当は分かっているのに、知りたくない結末を想像しそうになり、まどかは震えてアレックスにしがみついた。

 アレックスは信じられないと首を振り、まどかを抱きながら階下を覗いた。


 だが突き出ているバルコニーの真下は見ることができず、ルイーズを振り返り、エリクはどこに行ったと詰問した。

 同時に警官の無線から、緊急事態発生のメッセージが流だす。


『ピカソ美術館から男性が飛び降りたもよう。近くにいる警官は至急現場に直行すべし!繰り返す。ピカソ美術館3階テラスから男性が…』


 その途端、まどかを支えていたアレックスの手から力が抜け、テラスの壁に背中をこすりつけるようにアレックスは崩れ落ちた。

    

 まどかはテラスの床にうずくまったアレックスの横にひざまずき、アレックスの頭をそっと抱きよせた。

 第二外国語で習ったフランス語の語彙はそんなに多くはないのに、どうしてこんな時だけ分かってしまうんだろうと、まどかは唇をわななかせた。


 警官がまどかに、事の一部始終を見ていたかどうか尋ねたが、まどかはただ首を振って、フランス語がほとんど分からないことを伝えた。

 そして、立ち上がったアレックスに頼んで、内容は分からないが男女が言い争ったのを聞いたこと、聞き取れた男性の呟き、木が邪魔をして何が起こったのか見ていないことを伝えてもらった。


 ルイーズは警官に両脇を支えられるようにして立ち上がり、しきりに何かを呟いている。

 そのルイーズを、アレックスのブルーグレーの凍るような瞳がするどく射た。


『いいや、君のせいだ。君がエリクの命を奪ったんだ』


 いつもユーモアに輝く瞳が、こんなにも冷たい怒りに燃え上がったのを見てまどかは胸が痛んだ。

 危険を顧みず、エリクを荒涼とした心の闇から救い出したアレックスは、自分の手から離れても、エリクのことを気にかけていた。

 市街でエリクを真っ先に見つけたのもアレックスで、まどかたちがいなかったら、二人を追いかけて行っただろう。

 まどかには、アレックスの後悔や悲しみが伝わってくるようで、肩を落とした背中を労わるようにそっと撫でた。

 

 城の出入り口から出たアレックスは、城の側面の脇道を通って海に面した道へ行く途中で、まどかを脇道の石垣に座らせ、ここで待つようにと言った。

 だが運悪く、二人は、側道が防波堤沿いの道に合流するT字部分に、まるで城の壁から突き出たように道路に投げ出された2本の脚を見てしまった。

 アレックスが急いでまどかの前に立ち視覚を遮ったが、まどかの目にはその生々しい映像が焼き付いてしまった。

 

 そこへ息せき切って走ってきたダニエルが、アレックスに詳細を聞くと、大声で悪態をついた。

 まどかにここに居てくれとアレックスが言い残し、ダニエルに続いて三十mほど先の現場に向かったが、すぐに警官に留められ、エリクの元担当医だったダニエルだけが確認の為に現場に通され、苦渋の表情を浮かべたアレックスが戻ってきた。


 城の側道には、どんどん集まる野次馬の驚きの声がざわめき、その中でまどかの耳に届いた言葉は、フランス語の授業で習った交通事故の場面を思い出させた。


Il est mortイレモ― ?″ー彼は死んだの?

 こんなフレーズどこで使うわけ?って友人と笑っていたのはいつのことだったろう。

 あまりにも安全な日本で、死は自分たちから一番遠いところにあると信じて疑わなかった自分自身が愚かに思えた。


 こんな時に限って、なぜか真剣に覚えたわけではないフランス語の会話の続きが、しつこく頭に浮かんでリピートする。

Il est mort彼は死んだの?″

Nonノン,ilイル n'est pas mortネパモー″―いいえ、彼は死んでいません

 今か今かと続きを期待するのに、誰もレッスン通りの否定の返事をしてくれない。


 野次馬の声を裂くように、サイレンを鳴らした救急車がやって来て、海沿いの道に停まった。

 警官が運転手に何かを告げると、中から降りた人物が現場を確認した後、銀色のシートを警官に渡し、サイレンも鳴らさず静かに去っていった。

 警官がその銀色のシートを広げ、ここからは脚しか見えない横たわったままの男性にかけるのを、まどかは見るともなしに見ていた。

    

 まるで映画の撮影現場にいるような気分だ。周囲を見回しても異国人ばかりの知らない街で、ドラマの中でしかお目にかかったことのない出来事が、まどかに現実味を失わせていた。

 銀色のシートからはみ出している男性の膝から下は微動だにしないが、きっと今にも「カット」と言う監督の声が聞こえてきて、見えない上体が起き上がるんじゃないかとまどかは待った。


 その取り止めのない想像からまどかを引き戻したのは、アレックスが漏らした押し殺すようなうめき声だった。

 まどかがはっとして横に座ったアレックスを見ると、両手で額を支え表情を隠したアレックスが、辛そうに息をしていた。


『救えなかった』

 まどかの身じろぎを感じ、アレックスは小さく呟いた。

『闇から彼を連れ戻したと思ったのに、俺は何て無力なんだろう』


 堪らなくなったまどかは、腰掛けていた石垣から立ち上がり、座ったままのアレックスの肩を強く抱きしめた。

 肩に置かれたまどかの手を、アレックスが上からぐっと握り締める。まどかは頬をアレックスの頭に寄せて、アレックスの悲しみや苦しみが少しでも和らぐことを願った。


 いつの間に傍へやって来たのか、登吾が二人をそっと見守っているのに気付き、まどかはアレックスを包んでいた腕を解いた。

『お父さん。お母さんはどこ?』

『怖がらせたくないからね、和美には中で待つように言ってある。フランス語が分からないから、周囲が騒いでる理由を聞かれて、交通事故か何かだと誤魔化しておいた』

    

 普段なら親同士のことに口を出さないまどかも、今は目の前のことに動揺しまくり、気が高ぶったまま、登吾をなじった。


『どうして母さんをいつも蚊帳の外に置くの?いくらお母さんが家庭的だからって、話せばわかることもあるでしょ?』

『研究には秘密事項が絡むから、話せないことが多いんだ。それに研究者でもない和美が聞いても、内容は完全には分からない。そして何より、研究に関連する事故が起きた時、理解不十分なままでは、マイナスイメージしか持たなくなる。それを防ぎたいんだ』


 昼食の時あれだけ喋っておいて、今更それはないでしょうとまどかは思ったが、もし今回の事件を母の和美が知って、目の前の項垂れたアレックスを見たとしたら、まどか以上に動揺するのは目に見えていた。


 そして、登吾の仕事に関しても、余計な不安を持つだろうことが容易に想像でき、父の判断はあながち間違いではないかもしれないと思いなおす。

 だから交通事故として誤魔化したことをまどかとアレックスに伝え、暗に和美には内緒だと示唆したことを責める気になれなくなった。

 ダニエルやアレックスにとっても、今は元患者のことを語らなくて済む方が、気が休まるに違いない。


『分かった。今回は仕方ないとして、これからは差しさわりの無い程度でいいから、仕事のことお母さんに話してね。疎外感を感じるわよ』


 まどかの意見に登吾は苦笑しながら頷くと、アレックスに話しかけた。


『係員たちが話しているのを聞いた。自殺したのはエリクだね?』

『ええ、美術館に二人が入ったと父から連絡が入って、探していた矢先に・・・。マドカには怖い思いをさせてしまって、申し訳なく思っています。普段は事件も何もないような田舎の街なのに・・・。南フランスのイメージを悪くして、ここに来なければよかったと思わせたら、自分にも責任があると落ち込んでしまいそうです』


『君は本当に真面目で責任感が強い青年だ。でもこの仕事で優しさが過ぎれば、君自身を傷つけるんじゃないかと心配だ』


『多分、父も自分の頼りなさを知っているから、エリクのことに立ち会わせてくれなかったのかもしれません』


『それは違うと思うわ!』

まどかは思わず叫んでいた。


『日本じゃ病は気からって言って、本人が心配ばかりして沈んでいれば、ホルモンバランスを崩して要らない病気にかかると言われているの。医者がどんなに手をつくしても、本人に助かろうという意思がなければ、軽い病だって重病になるわ。でも、エリクは一度はアレックスの手を掴んだんでしょ?アレックスの優しさに助かりたいってすがったのよ。アレックスは優しいけど弱くない。だからエリクも頼ったのよ。悪いのはルイーズで、アレックスは過去にエリクを救ったの。ちゃんと救ったのよ!』


 あまりにも興奮して、まどかの指先はぶるぶる震えた。

でもそんなことを気にするより、不可抗力の出来事で、アレックスが自信を喪失する姿を見る方が耐えられなかった。

 アレックスが苦しみを抱えた人を、必死で救おうとするように、私もアレックスの力になりたいと、まどかはその一心で思いのたけをぶちまけた。


 まどかの真剣な訴えに、登吾もアレックスも気圧されて言葉を失った。

 アレックスは少し赤くなった鼻をうごめかせ、潤んだものを飛散させるように目をしばたかせてから、Merciメルシーと掠れ声で言った。

 まどかをまっすぐ見つめる瞳に影をさす長い睫毛には、小さな水滴が光っていたが、アレックスを決して女々しいとは思わなかった。

 それどころか、こんな大変な時なのに、自分を制して他人を気遣えるアレックスを、まどかは大人の男性として心から尊敬した。


 あと10日間ほどしかここにいられないからと、アレックスに向きそうになる気持ちを、必死で逸らそうとしていたまどかの努力は、どうやら無駄に終わったようだ。

 防御した壁を破って湧き出た思いは、勢いのある流れを作って川となり、アレックスを目指すのを止められはしないのだとまどかは悟った。


 大勢の人混みの中、まるで二人だけの磁場ができたように感じるのは、アレックスの瞳にも熱がこもっているように見えるからだろう。

 登吾は若い二人の邪魔をしないように、そっとその場を去ろうとしたが、ダニエルが戻ってきて磁場はあっけなく崩れた。


『アレックス。せっかくの休みだが、明日は警察と病院に同行してくれ』

 ダニエルが疲れた表情でアレックスに告げた。

『ようやく存在を思い出してくれて嬉しいよ』


 皮肉をこめたアレックスの言葉に、ダニエルは俯いて、押し出すように言葉を発した。

『お前が追いかけていたら、こんなことにならなかったかもしれない。でも、バーチャル治療で、エリクを深追いしたお前が危なくなったのを思い出すと、堪らなくなって…。これ以上関わらせたくなかったんだ。私は医師失格だな』


 アレックスがくしゃっと顔をしかめ、ダニエルの肩に手をかけた。

『美術館では俺が一人で探したけれど、見つけられなかった。父さんのせいじゃない。あなたは俺が尊敬し目標とする医者で、かけがえのない父親だよ。ありがとう。それと心配かけてごめん』


 抱き合った二人に涙を見せないよう、まどかは登吾を引っ張って、和美を迎えに行った。

 色々なことがあり過ぎて、一生分の経験をしたんじゃないかと思うぐらいハードな一日だった。


 まどかは、時には強く結びつき、時には脆く崩れ落ちる人の絆の不思議さを思った。

 アンチーブの海岸で会った老人のように、何十年経っても日本のフェンシング仲間を思い続ける強さがあるかと思うと、まやかしの絆が解けたエリクとルイーズのように残酷な終わりを告げる。


 そしてダニエルとアレックスのように、息子を思いやるあまりに不器用になる父親と、父に認められたくて、無理をしてでも邁進しようとする息子との違えた絆もある。

 その軋轢あつれきが解けた時、親子の絆は強くなって愛情に溢れるのだと知った。


 私のこれからの人生は、誰とどんな絆が結ばれるのだろう。そこにアレックスの姿はあるだろうか?

 それを知るために、まずアレックスへの気持ちから目をそらさず、残った時間でどんな絆を結べるのかを見極めよう。


 何十年も続く友情の絆になるのか、断ち切りたい絆になるのか、愛情溢れるものになるのかは、まだ分からない。

 でも、私がここでアレックスに出会ったのは、何かしら意味があるはずだとまどかは思ったのだった。




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