17.長いこと書かないと色々忘れちゃうよね

 





「前回のラブライブ!サンシャイン!! なんと年増が一人残って死亡フラグを立てちゃった! どうなっちゃうのかな? これから。でも、私たちは諦めない! みんなのためにも絶対にラブライブで優勝してみせる!」


「そんなこと言ってる場合か!」


 緑子が俺に意見する。


「でもな、作者が全部この小説のことを忘れてしまってるんだ。じゃくねんせーけんぼーしょーなんだ」


「フランちゃんは色んなことを知ってるね」


 おお? なんだ? こんなところで告白か? モテる男はつらいぜ。


「とりあえず一度捕まって拷問受けるか?」


「はい、すいません」


 流石にシビア展開で調子に乗り過ぎた。


 でもよ、もう五万字だぜ? この小説長くない?


「50万字も続けておいて何を言う」


「まあ、そうなんだけどさ」


 でもまあ、これの10倍だと思うと短いような気もしないでもないな。


 とかく俺たちは追ってから逃げていた。向こうも野戦のプロだから森にも詳しいから油断できない。


「まだ半分か」


 やっと山の半分まで来たところだ。


「ところで、今回プロットが一切ないんだがどうしよう?」


「わたしが知るか!」


「あっちだ!」


 武士たちに気付かれたらしい。


「緑子。お前が大きな声を出すから」


「それよりも急ぐぞ!」


 見つかったら即終了だ。これまでなんとか見つからずに行けたが、今は大分ヤバい。


「そして、作者の眠気もヤバいので寝る」


「おいおいおい――」




 作者お眠りたーいむ。




「おい、作者五日間眠り続けてんじゃねーか!」


「見つけたぞ!」


「何してるんだ! フランちゃん!」


 俺が悪いのか!?


 だって、だってよぉ…


「仕方がない。フランちゃん。わたしを置いて先に行け!」


「緑子…」


 緑子なら安心して置いて行ける。


「なんかひどくないか?」


「だって、キャラぶれてるし」


 俺は急いで茂みから出る。追いかけてくる武士たちから逃げる。緑子が陽動で引きつけてくれるはずだ。流石、長い付き合いだけある。


「………あれ? おかしいな。俺、囲まれてますんですけれど」


 逃げようとした先にも武士が。後ろにも武士が。あれ? 俺を置いて先に行けは?


「頑張れ。フランちゃん」


「テメェ! 緑子ぉ!」


 やっぱこうなるのか…


 くそっ。覚えてやがれ。


「ふぅ。仕方がねぇな。相手してやるか。男の相手なんて嫌なもんだがな」


 この時代、同性愛が当たり前だったという嫌な知識がよぎる。


 いやだわー。


「美姫のことは頼んだぜ。緑子…」


「誰が頼まれるか!」


 遠くになった緑子の叫びが聞こえる。


 反抗期かよ、ったく。


「むさいおっさんども。行くぜ――」




「誰が頼まれるか!」


 心の底の叫びがわたしの口から出た。


 多分いくらかの武士がわたしの方へと向かってくるだろう。


「美姫を助けるのはフランちゃん。お前の役割だろうがっ!」


 バカ。


 バカバカバカっ。


「ばっきゃろーがぁあぁあぁ!」


 心の底から叫んでやる。本当にバカ。バカバカバカ!


「美姫を助けられるのはフランちゃんだけだ。だから、わたしは――」


 地面が少しぬかるんでいる。この辺りがベスト。


「おい、出てこい! 今出てこれば命までは――」


 そんな生半可な気持ちで誰一人天下の武士様に喧嘩を売ってはいない。


 わたしの父は足軽として戦場に出た。病気の母を残して。


 そして、父は帰ってこなかった。母はずっと父を待っていたというのに。


 父はわたしにこう言った。


「男には守らなくちゃいけないもんがあるべ」


 と。


 わたしにはそれがずっと理解できなかった。病気の母を置いて、わたしも一人にして、守りたいものなんてあるのか、と。


 でも、最近はなんとなく分かった気がした。


「なあ、あんたら。五平って足軽、知ってるか?」


 わたしは武士たちの前に姿を現す。


「わたしの父で、戦場で命を落とした」


「そんなヤツのこと、知らん!」


 だろうな。


 父は何のために死んだんだか。


 本当にバカな奴だ。


「そんなこと言ったらフランちゃんが怒るよな。先に美姫が怒るか」


 この時代、みんな死んだような目をしていた。


 先の見えない戦いの時代。きっとこの時代が終わるのはもっともっと先のことだと思う。みんな、希望なんて失っていた。でも、決して希望の光を失わないバカもいたんだ。


 フランちゃんと美姫が来てから、村のみんなにも笑顔が戻っていった。最初はみんな警戒してたのに。敵だと思って何度も家を襲おうとしてたのをわたしが必死で止めたんだ。


「それがなくなってちょっと寂しいのはあるかな」


 そういえば、父も戦場に行くとき、フランちゃんと美姫と同じような、バカな目をしていた。


「この、バカな村人が。今のうちに降参しろ! 悪いようにはせん!」


「このわたしはバカか?」


 なんだ。わたしもバカに見えていたのか。


「こうやってバカになるのもいい。いや、人間っていうのはこうあるべきなのかもな」


 バカってのはとっても必死なんだと思う。他の人にはちっぽけに思えるものを必死で守ろうとして戦っている。それはとっても愚かだけど――


「バカは世界で一番美しい! なら、バカのまま一生を終えたわたしの父は戦場で一番美しかったんだ!」


 父が死んだと聞かされても、母が目の前で死んでしまっても涙が出なかったというのに。


 今、わたしは大粒の涙を流しているようだ。


「降参なんかするか! かかってこい! こんな小童も捕まえられないのか!」


「言ったな!」


 大勢の武士がわたしに向かって駆けだす。


 バカだな。


「うおっ!?」


 地面はぬかるんでいる。武士は鎧を纏っている。つまり思いから泥に足をとられては動けなくなる。


 でも、武士もまたバカではない。見方が足をとられているのを見ると、大回りして泥を避けてこちらへと向かってくる。足を取られた武士はすぐさま弓を引いている。


「頭のいいガキは嫌いだよ!」


 これがわたしの戦いだ。


 たった一人のともだちを救うための、命を懸けた戦い――




「ふぅ。これまた多勢に無勢か」


 武器さえなければ勝てる自信があるが、ハポネルゼの刀は切れ味がいいと聞く。


 あれ? 普通に絶体絶命だ。


「でも、俺は引くわけにはいかないんでな」


 最高のラブコメをするためには、誰一人犠牲を出すわけにはいかない。そんなバッドエンド、俺が許さない。


 決して。


 もう二度と!


「なあ、おっさんども。お前らは一体何のために戦っているんだ?」


「お前こそ、何のために戦っている?」


 武士の一人が俺に投げかける。それは純粋な疑問のようだった。彼らもまた、俺たちが理解できないらしい。


「そんなの、簡単だ。俺は、いや、俺たちは、ただ一人の少女の笑顔が見たいだけなんだよ。ボケが」


 美姫の笑顔が気に入らなかった。


 時々心から笑っているのに、ほとんどが人の顔色を気にしたような、胸糞悪い笑顔だった。


 アイツ一人がまだそんな笑顔のままだった。


「俺だって笑顔が作れはしないさ。でもな、笑うことができる。でも、アイツは違う。笑顔が作れても笑うことができなくなってたんだ」


 俺はアイツの笑顔を見ていたいと思っていた。いつの間にか思っていてしまったんだ。


「さ。俺は言ったぜ? お前らは何のために戦ってる? 姫様のためか? 違うだろ? お前らは姫さまの顔なんか見たことない。でも、お前らは俺らと同じくらいバカだぜ? よっぽどバカな奴を守りたいんだろう?」


「立花様をバカにするな!」


 立花、か。多分、あの女武士だな。


「立花様はいつも我々を心配してくださった。自らの危険を顧みず、戦場へ立たれた。自らの心が壊れていくのを恐れずに――そして、我々の家族のことさえ気にかけてくださって――」


「なーんだ。立花ってのもバカじゃねえか」


「バカにするな!」


 こいつらも一緒なのかよ。


 やりづらいな。


 そして、向こうもまた、やりづらいのだろう。


「ったく、やりづらいな。お互いバカなロリコンなわけだ」


 少女たちに課せられた宿命が当たり前、の時代。でも、当たり前じゃダメなんだ、と俺もこのおっさんどももそう思ってる。


 しかし、俺たちは男だからな。


「男は戦いに飢えてるもんだ。そういうしがらみ無しにして、本気でいこうじゃねえか」


 しかし、俺の前に出てきたのは一人の武士だけだった。


 この中では一番のやり手みたいだ。


「我一人が相手になろうぞ。我を倒すことができればこの先へと通す」


「どういう了見だ?」


 誰も異論はない。つまり、総意ってことか…


「武士の魂ってやつか。でも、情けも無用だぜ? 刀は引けよ。男と男の真剣勝負だ」


 武士の一人が俺に刀を投げてきたが、蹴飛ばして明後日の方向へとやる。


 誰かを殺すものなんて持ちたくもない。


「俺にはこの拳で十分だ。誰かを傷付けることしかできないこの拳でな」


「我が名は佐々木小次郎」


「いいねぇ。お前、伝説になるよ」


 確か江戸時代の剣豪だったかな。でもいいや。そんなこと。


「俺はフランチェン・シグノマイヤー。通りすがりの宣教師だ」


 ラブコメ教を布教に来た。


「いざ、尋常に――」


「勝負!」


 小次郎はさお竹を抜き、俺に向かってくる。


 俺は拳を構える。


「見様見真似! ウルトラ拳法!」


 小次郎の一閃。早いなんてもんじゃなくて、本当に一瞬だった。俺を縦に真っ二つにせん太刀筋。つまり俺は避けねばならないし、避けた。なんとか避けれた。


「うそだろっ」


 同時にまた二閃。合計三閃が俺を襲いに来る。死ぬ。


「わけにゃいかねぇ!」


 必死で地面を転がり避ける。


 口から血が滲んだ。


「いや、肩からめっさ血が出てるんですけど!」


 左肩が多分すっぱりとやられている。白い修道服が赤く染められている。しかし、小次郎は剣戟をやめるつもりはない。真剣勝負だからな。


「俺の本気が足りないのか。自分を信じるしかないか」


 避けていてはやられる。流石秘剣。どれだけ距離を置こうともどこまでも太刀は伸びてくる。


「俺は負けるわけにはいかないんだ!」


 俺が戦う理由。


 それは罪を償うため?


 いいや、違う。


 罪を忘れるため?


 それも違う。


 罪はずっと背負わなくちゃいけない。


 そして、罪を背負っているからこそ、新しい世界をよりよいものにしたいと願うんだ。


「いけぇえぇえぇえぇえぇ!」


 またも秘剣燕返し。


 それを俺は拳で弾く。


 理屈なんてどうだっていいし、説明したらすっごく時間がかかる。ただ、俺の拳は決して折れないし、斬れない。


 ガキンガキンガキン!


「これ、批判されるやつだ」


 がっしんがっしんがしんがしん。


 がっしんがっしんがしんがしん。


 吸って吐くのは深呼吸。


 吸って吐くのは深呼吸。


「俺の愛! うけとれぇえぇえぇえぇ!」


「いや、そういうのマジ勘弁です」


 武士にすっごく現代風に拒否られた!


 血に塗れた拳は小次郎の顎に突き刺さり、そして、小次郎の顔は血まみれになった。


「痛いじゃねえか。小次郎」


 倒れた小次郎はうんともすんとも言わない。やっぱガキンガキンガキンではダメかな。


「大丈夫か? 貴様」


 武士の一人が俺に声をかける。よっぽど俺もヤバいらしい。


「俺は死なねえよ。なにせ、神様だからな」


 皮肉だな。神様でも今の俺は死ぬと思うけど。


「フランちゃん…」


 小次郎が意識朦朧の中俺に声をかける。


「そなたの拳、硬く、重く、何より熱かった。この戦いの終わりには一夜を――」


 倒れている小次郎の顔を踏み潰す。


「あぁ! らめぇ! いけない性癖に――」


「今すぐぶち殺すぞ!」


 なんなんだ、この世界の住人は!


「冗談はさておき」


「そんな状態で冗談なんて言ってんじゃねえよ」


 かっかっか、と小次郎は笑った。


「我は四天王最弱――」


「これ、話進まないパターンだぞおい」


「そなたなら、立花様を救えるであろう。立花様を救ってくれ――我らではあの子を助けてやることはできない」


「甘えてんじゃねえよ」


 全く。死に際じゃねえんだから。


「救おうとすれば誰でも救えるんだよ。救おうとしなかったのはお前らだろ。救うのには理由もきっかけも必要ねえんだよ」


 ただそこに、風で吹き飛びそうなか弱い花があった。それを大事に育てようと思った。


 それだけだろうが。


「荷物をしょい込むのは趣味じゃねえが…仕方ねぇ。一夜はお預けってこった」


「では、機会があれば――」


 今度は確実に意識を刈り取った。


 バカか。お前らは。


「しかし、そなた、その体では――」


「心配ねぇよ。それより、この国を乗っ取ろうとしている水羊羹って妖術師とその手下のツキカゲってニンジャ、そして、風雲児たる緑子ってやつがいてだな――」


 ふっ。因果応報だ。バカやろう。


「そいつらが全て悪いんだ」


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