15. 久々の戦闘シーン

 






「さて。しばらくぶりの再会ね」


「しばらくぶりつったって、2000字くらいじゃねーか」


 俺は白蓮、いや、水鏡と名乗った女を睨む。しかし、女はどこ吹く風といった様子で取り合おうとはしなかった。


「で?年増さんよぉ。婚期を逃した腹いせにこんな所まで歩かせたわけじゃあるまいな」


「あなたロリコンなの?わたしはまだ10代なのだけれど」


「知らねーよ」


 そもそも俺はこうやってのんびりしている暇はない。急がなければ。早く美姫を取り戻さなければ。


「何を焦っているのかしら。あなたにとってあの駄目姫は本当に必要なの?」


「どういうことだ」


 なんだか嫌なものが俺の中に入り込んでくるようなそんな気がして必死で頭を振る。


「あなたの望みはなにかしら。その望みのためにあの姫は必要なの?」


「何を言って…やがる…」


「誤魔化さないで!」


 水鏡はぴしゃりと言った。一瞬で頭が真っ白になった。


「望みなんてねぇよ」


「そんなはずないわ」


 水鏡は鼻で笑った。


「人は生きるためには望みが必要なの。そしてあなたは死を選ばず生きることを選択した。あの平野の骸たちを見たでしょう?あれは生きることではなく死ぬことを選んだものたちの末路なのよ」


 俺は一体何を望んでいる。




 何故


 生きている?


          何故


            死ななかった?




「俺にゃあよくわかんねーよ」


 考えることをやめた。でも、それは間違ってない。


「夢とかそんなものよく分からねえし、より分からなくなっちまった。そもそも俺にはそんなものねぇわけだしよ。だから、知りたいと思った。何故人間ってのは望むのか、をな。何を望むかじゃない。何故望むのか。でも、結局そんなのはすぐに答えが出せるもんじゃねぇよ。ただ目の前に小さな花が咲いていた。その花は風で吹き飛ばされそうなくらい弱いくせに、いつも誰かを喜ばせようと必死で咲いている。そんな花を俺はほっとけなかっただけだ」


「話を二転三転させるんじゃない!この軟弱者!」


 バチン


「おい、緑子!なんで俺を殴るんだよ!」


 俺はぬかるんだ地面に転がった。修道服が汚れたじゃねーか。


「いや、だって出番がなかったし」


「真顔で言うな!」


 ったく、コイツは。


「それにな。水羊羹。貴様も苦しそうに話してるんじゃねーぞ。そういうのはもう長いページ費やしてやってんだ。お前はあの骸を必死で見ないようにしていた。目を背けていた。俺たちには顔を見せないようにしながらな。泣きそうだったんだろ?そんくらいわかんねーと思ったのかよ」


「あんたに何がわかるっていうのよ!」


 羊羹は急にキレた。


 この時代水羊羹なんてないわな。砂糖なんて南蛮渡来で来たようなもんだし。


「それ、何回もやってるんだが」


 地面から、何かが出てくる。土を膨れ上がらせて白いものがいくつも顔を出してきた。


 それは骸骨だった。くたびれた鎧を身に纏った骸骨がわらわらと沸き立ってきている。


「幻術使いか」


 なるほど。興味深い。だがまあ、そんなことどうでもいいのさ。


「おい、ツキカゲ。お前はどっちの味方なんだ?」


 姿なき声が俺にだけ聞こえてくる。


『しぇっしゃは…』


「お前が美姫を殺さなかったのは羊羹の意思だけじゃねぇんだろ?お前はコイツも、この年増も救いたかった。暗殺なんてガラじゃねえんだ。止めちまえよ、そんなこと」


 なんだかんだでアイツとつるんでるとこっちも楽しかった。べ、別にロリコンじゃないんだからねっ。


『ろりこん』


「うっせぇ!」


 骸骨の頭にクナイが刺さっていく。全く、素直じゃない野郎ばかりだ。


「行くぜ!緑子!」


 俺は背後の緑子に声をかけるが、緑子は泡を吹いて倒れていた。


「おーい、緑子さん?ありゃ、失神してる」


『それをいいことにろりこんするのでごじゃるな』


「お前意味わからず使ってるだろ」


 まあ、緑子は放っておこう。とりあえずは目の前のバカ野郎を素直にしてラブコメ要員にするだけだ。


「あ、俺ラブコメしたかったんだ。前言撤回な。俺はラブコメするために生きている。だから、負けねぇ!」


『いきなり主人公の格がおちたでごじゃる』


 ま、そんなもんだろうよ俺たちは。


「真面目にやるなんてガラじゃねえんだ」


 俺は目の前に迫り刀を振り下ろそうとする骸骨を蹴飛ばす。バカみたいに軽かった。まあ、幻なのだろうが。


「おい、ツキカゲ。もっと頑張れよ」


『うるさいでごじゃる。さっさとようかんしゃまのところにいくでごじゃるよ!』


 人使いが荒いぜ全く。


 俺は骸骨を蹴飛ばしながら羊羹のいる場所へと進む。俺を拒むかのように骸骨は次々に地面から這い出てくる。あれか。心のバリケードってやつか。


「テメェ、デレねーとラブコメできねーじゃねーか。お前の心にかかった幻術を俺様が解いてやるよ」


 軽い。軽い。


 こんな軽いものにアイツは囚われている。そのくせ、そのことに野郎は気付いていないときた。


「音速を超えろ、我が拳!ペガサス流星拳!」


 音速を超えた俺の拳が骸骨を一掃する。羊羹への道が開けた。


 一気に羊羹の傍まで間合いを詰める。


「来ないでっ!」


 羊羹は水を手に纏い、俺に投げつけようとする。


 その水を俺は手で受け止める。ジュウジュウと手が嫌な音を立てる。肉の焼ける嫌なにおいが漂った。


「はっ。痛くもかゆくも…あー、薄皮めくれてひりひりする」


 ったく、魔法ってのも困りもんだ。防ぐ手はあるが、そうしてしまえば羊羹は救い出せねぇし。


「俺はな、テメェを見てるとイライラするんだよ。1/2美姫くらいイライラする。だから、テメェの幻想ぶっ殺す!」


 そして、俺は弓のように大きく拳を引いて突き出した。




「女の子を殴って気絶させてその後犯すだなんてサイテーね」


「おい、羊羹。人聞きの悪いことを言うな」


「あら。本当じゃない。わたしは大切な処女を奪われたのだけれど。実刑判決ね」


「いや、俺は何もしてませんよ読者のみなさん。信じて!俺ろりこんだから」


『さいてーでごじゃる』


「最低だな」


「最低ね」


「いや。いやいやいや」


 本当のところを言うと俺は寸止めにしたのだ。なんか羊羹は不満そうだったけれど本当にこいつを殴ってたら何を要求されるのかわかったもんじゃない。


「で?お前はどうするんだ?これから」


 俺たちは美姫を助けに行く。というか、寄り道する意味なかったんじゃね?


「ふん。あなた一人では難しいでしょうからわたしも協力するわ。貸しね」


「いや、借りを返してくれよ」


「わたしがいつあなたに貸しをつくったのかしら」


 この野郎…


「まあ、いいか。とりあえず後ろから刺すんじゃねーぞ」


「刺されたいの?変態ね」


「なぜそうなる!」


 こうやってしゃべっている時間も惜しいのだ。


 俺は足早に茂みを抜けようとする。


「そっちじゃないわ。反対だけど」


「………」


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