13.実はこの日、バレンタインなんですよ

 






「とまあ、やる気は起きねーな」


 白蓮が俺たちの向かう先の場所を知っているということで俺たちは白蓮についていっていた。平野には水路が引かれ、透明な水がさらさらと流れている。


「フランちゃん…これは…」


「ああ。そうだな」


 水路には時おり鎧の残骸が撃ち捨てられていた。皮がはがれた骸骨が水の底に沈んでいる。上流からは古い髪の毛が流れてくることもあった。


「これは戦争の跡よ」


「言われなくてもわかる」


「ずっと昔からこの平野は戦場になっていたわ。農業に適しているということは戦場にも適しているの。特に地面の乾いた秋は最適かしらね」


「よく知っているじゃないか。旅の尼のくせして」


「…」


 白蓮は不満そうにちらと背後の俺たちを見た後、そそくさと先へと急いでいく。


 この辺りに詳しいということから旅の尼などではなく、家出してきた娘と言うのは明白だった。


「緑子。お前は知っていたのか?」


「ううん。聞いたことはなかった。ずっとこっちの国と向こうの国は外側に対してだけ戦っているものと思ってた」


「そして、困ったことに当初のプロットはここで終わりだ」


「は?何を言って――」


「ネタ切れなんだよっ。というか、作者一か月以上執筆さぼったから能力なくなったんだよ!どうすんだよ!」


「わたしに聞くなよっ!なんとかしろよというか、こういうやりとりで時間稼ごうとしてるんじゃ…」


「…」




 そう。ハイテンションで誤魔化せることと誤魔化せないことがある。


 今回短くなってすまないな。


「ところで、わたしたちは城下町に来ているわ。いかがかしら」


「せんせー。作者、文字が見えなくなり始めてます!見にくいです!むしろ醜い」


「そのくらいなんとかしなさいよ。ほら、太字にするとかで」


「おお…見やすくなったな」


「そんなことより、どうかしら。この町は」


「ああ。世紀末だな」


 海沿いの市場とは違い、人々は活気を失っている。活気を失っているどころか、まだ生きているのが奇跡みたいなほど魂が抜けていた。身なりは村人よりも粗末だった。


「なにがあったんだ……」


 緑子は辛うじて言葉を声にできていた。


「どうってことないのよ。ただ、戦いに疲れているだけ。城主が外の国との戦いのために色んなものをふんだくっているから。村はまだ自分で食べるものを作れるからいいけれど、そうでない町人は男手を奪われて、かろうじて呼吸をしている。そちらの国も同じ様な状況よ」


「…」


 緑子はショックを受けているようだった。そして俺は、ただ静かに白蓮という尼が何を考えているのかひたすら探っていた。なんらかの罠にしてはこのやり取りは無駄である。白蓮はわざわざ俺たちにこの悲惨な状況を――平野の件も含めて見せつけているようだった。


「さあ。この町を抜けた先に目的地があるわ。スリには気をつけてね」




 俺たちはうっそうとした森の中を進んだ。


 コイツは妖怪か何かで俺たちをどこかに連れ去ろうとしているのではないかなどと想像してみたりもしたが、俺だって鬼扱いされているのだから、妖怪なんて存在、信用に値しない。


 町までは陽光があたり、温かかったというのに、シダが茂るような場所では常に冷たい水気が頬を濡らした。


「さあ。到着したわ」


 白蓮の言葉に俺たちは前を見る。


 現れたのは古びた社。指定されていたのは神社ということだったが、思った以上にぼろい。


「この時代、神社ってのは仏教に負けていたな」


 確かオダノブが仏教をクソ食らえーしてた気がするけど神道がどうなったのかは今一覚えていない。修験道とか仏教と融合したんだっけ。


「そうね。あなたが言うのならそうなのでしょう」


 寒気。空気が湿っているからということもあるのだろう。でも、それ以上に目の前の白蓮――いや、得体のしれない女の出す雰囲気が辺りの温度を根こそぎ奪っていたのだ。


「お前はまさか――」


「ええ。そのまさか。わたしがあなたたちをここに呼んだの。別にそこのお嬢さんは呼んでいないけれど」


 ふふっ、と白蓮は妖艶な笑みを浮かべる。


「我が名はすい「年増」

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