11.そいやまだ35000字なんだけど、知ってた?







「必殺技とかバンバン撃ちまくる、そんなバトルロイヤルをしたい!龍騎みたいに!」


 そして俺は更なる大声で言う。


「龍騎みたいに!」


「あほでごじゃるか」


「はっ!?」


 まさか、男の独り言を聴くなんて…男の独り言ほど痛いものはないというのに――!


「乱暴するのね!エロ同人みたいに!」


「おおっと!クナイが滑って!」


「おいっ!」


 俺は農作業の休憩中だった。相変わらず俺の前にしかツキカゲは姿を見せず、月影は俺の想像の中だけのおともだち、みたいに美姫と緑子は考えているようだった。


「死ぬだろ。死んじゃうだろ?」


「しぇっしゃの役目はあんしゃちゅ…」


「いや、俺のじゃないだろ!そういえば、美姫の暗殺はどうなったんだ?」


「そんなことより、こんなところで油を売っていてよいでごじゃるか?」


「なんだ?ちょっとくらいさぼっても…」


「村に山賊が来ているでごじゃる」


「お前!なんでそれを先に言わないんだ!」


 俺は急ぎ村に戻る。今村は男が全員農作業に出ている。つまり、山賊に襲われれば元も子もない。




 息も絶え絶えながら村にたどり着く。


 村の前には刀を持った武士がいる。


 その顔はどこかで見たことがある。


 この前の山賊の一人だと思い立つ。


 向こうの方がボクになじみがあるらしい。


 ボクに向かって刀を振り下ろす。


 最優先事項は、彼女の身の安全。


 故にボクは最善の方法をとる。




 振り下ろされた刀を避ける。




 ボクが避けるのも、武士が動くのも同じことだ。




 刀は地面に突き刺さる。




 さくりとクッキーのような音が鳴る。




 ボクは武士のかたに足を乗せる。




 そのまま台に上るように力を入れる。




ボクは宙に浮く。




 それも一瞬の出来事で、すぐにボクは木にたどり着いていた。




 木の枝に上り、そのままゴムのように木と木の間を飛んでいく。




 すぐに彼女が見える。




 ボクは彼女と武士との間へと着地した――






「鬼さんこちら。手のなる方へ…」


 俺はニタリと笑いながら武士を睨む。


 驚いたことに武士は女だった。コイツも山賊行為をしていたのか、頬が汚れている。


 女武士は俺が飛んできたことに驚いているのか、目を大きく開いていた。


「お前は一体何者だ?」


「われは橘立花と申す。灘城主春原晴臣の家臣である」


「ほーん。山賊のまねごとをしてるやつが――っ」


 突如、殺気が膨れ上がるのを感じ取る。どこから発せられているのかわからない。だが、恐らく目の前の橘とかいう奴だろう。周りがむらなく殺気に包まれているので分かりはしないが、山賊まがいがこれほどの気を出せるわけがない。これほどの殺気を出せれば、隈だって殺せる。もちろん鬼もな。


「われは姫様を迎えに来た。ご苦労だったな。ついでにわれらは腹が減っている。貰おうか」


「テメェ…村の食料を貰おうかだと…」


 真っ先に反論をしそうな緑子が何も言わない。美姫の傍で抱き合っているというのに。


 こんな時に百合ってるのか?


「ああ。ぬしらはわが城主によって守られている。ならば、その見返りとして飯くらい渡すものだろう」


「テメェらが持ってくから飯なんざ…」


「立花」


 背後から冷たい声が聞こえる。声の主は分かる。でも、俺はその声の主がそいつであることを認めたくなかった。認めてしまえば何もかも崩れてしまう。


「その態度は妾をかくまった恩人に対し無礼ぞ」


「姫…さま?」


 立花は怒られたことがショックだったのか、間の抜けた顔をしている。美姫はずかずかと俺と立花の間に割って入る。一度も俺の目を見ずに…


「褒美は城から出す。だから、こやつらに食い物を分けてくれないだろうか」


 美姫は俺たちに向かって頭を下げた。


 美姫の背後がどよめく。


「姫様!頭を下げる必要など…」


 美姫は頭を上げ、背後を向く。


 立花を含めた武士たちは誰一人何も言わなかった。


「おい、美姫。お前は――」


「妾は姫じゃ。次に名前を呼べば打ち首じゃ」


 俺に背中を向けたまま美姫はそう言った。




 武士たちは飯を食い終えた後、去っていった。


 美姫もまた、武士の一段とともに村から去っていく。


「緑子…何故止めようとしなかった!」


 俺が必死で美姫を振り向かせようと罵詈雑言をまき散らしている中、緑子は何一つ言わなかったのだ。


「お前が頼めば美姫だって――」


「無駄だよ」


「なに?」


 俺は緑子の胸倉を掴んでいた。


「あの子は言ったんだ。もう大丈夫だからって。帰るからって!だから!だから!」


「だからって美姫をみすみす返したのかよ!お前はそれで――」


「いいわけないだろ!」


 緑子は俺の頬を思い切り叩く。おいおい、青春ドラマの見過ぎだろうが…思いっきりはたいたぞ。死ぬほど痛いぞ。


「わたしはあの子とずっといたかったんだ!でも、あの子には帰る場所がある!だから!」


「お前は…美姫が帰りたいと思ったってーのか?アイツはどんな顔してたよ。俺には何一つ顔を見せやがらねえから分からなかったんだよ」


「笑ってたよ」


 胸が痛む。


「無理矢理笑顔を作って、悲しくないって顔して。でも、泣きそうだった。そんなの誰だってわかるさ。悲しいのを我慢してたんだ」


「そうか」


 まあ、そんなことだろうと思ったけどよ。


 美姫が本当は帰りたかったんじゃないかと思って無理矢理戻すことをためらってたんじゃないぜ?違うんだぜ?


「それじゃあ、無理矢理にでも――」


「待たんかい」


 俺たちの前にはだかったのは村長だった。


 次回…村長の正体が明らかに…


「ふざけておる場合か」


 ちっ。単なる尺稼ぎだったのに。この回、これ以上やることねーから尺が稼げねぇぞ…


「ぬしら、勝算はあるのかの?」


「そんなもの…」


 俺は立花の殺気を思い出す。力の差ははっきりしていた。


「じいさんはどうなんだ」


「わしにも勝てん。ありゃ、昔会ったやつの目によう似とる。達人の目じゃ」


「じいさんに勝てないなら俺にも勝てない」


「そりゃ間違いじゃろう。ぬしに勝てんもんはわしにも勝てんじゃろうに。いや、ぬしの中のそ奴か」


「じいさんお前は…」


「いいや。ようわからんわい。でも、ぬしの中におるものはひどく恐ろしい。それ自体は誰の心の中にもおるが、ぬしのはそれを何倍にも濃くしたようなものじゃ。ただ、白い色で塗られておるだけ」


「そうか」


 話が長いので適当に聞き流していた。


「となるとどうするかだな…」


 まあ。こういうイベントを駆使しないとラブコメ主人公にはなれないよね!目指せ、ハーレム!




 俺は一人森の奥に来ていた。


 女をメロメロにする美声を森に響かせる。


「おい!ツキカゲ!いるんだろ?」


「自分で美声とかきしょい」


「語尾忘れてるぞ」


「死ぬほどきしょい。死ね」


 俺は心が折れてその場にうずくまる。


「それで?なんでごじゃるか?」


「力を貸せ、ツキカゲ」


「なんでしぇっしゃがちきゃきゃきゃかや」


「逆に噛むだろ…」


 こういうイベントは親密度アップだぜ。利用しない手はない。


「なあ、後ろに隠れてる謎子さんよぉ」


「あら。何もかもお見通しって訳ね、でごじゃる」


「いや、適当に言っただけだ」


 なんとなくどこかでずっこけたような気配があった。


「そ、そう…で、何の用かしら、でごじゃる」


「利害関係は一致しているだろう」


「あてずっぽうにしては恐るべき正解率ね、でごじゃる。まあいいわ、でごじゃる。あなた一人ではあの女には勝てないのが分かっていたし、でごじゃる。指定する場所に来なさい、でごじゃる」


 俺は場所の説明を受ける。


「…むちゃとおくない?」


「遠いわね、でごじゃる」


 いや、遠いわね、じゃなくてでごじゃるよ。


「マネするなでごじゃる」


「平野突っ切って向こうの山じゃねえか…何日かかると思ってやがる…」


「そのくらいの時間を消費しても問題はないわ、でごじゃる。というか、ツキカゲ、でごじゃる。あなたがごじゃるごじゃるつけるから時間がずれるの、でごじゃる」


「てっきり年増がごじゃるごじゃるしゃべってるんだと思ってた。若作りに」


「誰がごじゃるなんて言いますかでごじゃる、でごじゃる」


 さっきのは言ったな。ノリか?


 とにかく俺は、ちょっとした冒険を繰り広げることとなった。




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