8. やきゅうけん!
「あけましておめでとう。諸君。作中では季節なんて特には考えてないが、多分春から夏にかけてだ。そして、とうとう作者は2019年を迎えてしまったようだぞ。ちなみに、この作品、作者が一か月も手をつけていなかったので、内容は覚えていない」
「なにを分からないことを言っているんですか!」
息も絶え絶えの美姫が真面目に俺のボケに突っ込んでくる。
「いや、こうメタ発言を自由にできる作風ってうれしいなーと」
「そんなことより!」
「この野郎。何がそんなことよりだ」
俺は鬼の形相で美姫を睨みつけるも、美姫には俺のコワモテボディは通用しないようだった。
「緑子ちゃんが!緑子ちゃんが!」
「まあ、落ち着けって」
これほど必死な美姫を見たのは初めてだった。梅干しの時と同じくらいひっ迫してるっぽい。
「フランちゃんはどうしてそんなに落ち着いてるんですか」
「いや、事情とか知らないし。それより、風呂」
「まだ家の前じゃないですし、風呂なんてもの、この村にはないですよ!」
この村には――ということは、コイツは風呂なるものを知っているということか。
「混浴……うへへへへへへ」
「なんだか変な妄想してますよ、この人」
「アライッコ、アライッコ」
「男の人って、股の間の宝物を蹴り上げると正気に戻るそうですね」
「マジですんませんでした!」
俺は空中アクロバティックヴィクトリー土下座をする。
「で?緑子がどうしたって言うんだ?」
「緑子ちゃんが村長さんと決闘するって…」
美姫は急に思い出したのか、不安で体を震え上がらせる。俺がスーパー極上のギャグで紛らわせてやっていたというのに。
「そうか。やっぱりな」
「あなたがそそのかしたんですか!」
「待て待て」
美姫は俺の首を掴み、締めようとする。
リアルガッシュベルの首絞めは勘弁だぜ。でも、釘宮さんには絞められてもいいかも…
「一体私はどうすればいいのか」
困り果てたように美姫はその場に座り込む。
ったく。まだ何もしないうちから座り込むのはまだ早いと思うぜ。
「それはね、キミがどうしたいかだよ。キミの望みはなんだい?キミは未来をどう変えたい?」
美姫はボクの顔を神妙な顔つきで眺めていた。
「緑子ちゃんはどうなっちゃうの?」
「知らねえよ。でも、村で一番偉い奴に逆らったんだから、ただ事では済まねえな。依日があるだけマシだと思わねえとダメかもしれない」
あのクソジジイだと何を言うか分かったもんじゃねえしな。
「でも、お前もただじゃ済まねえかもしれねえ。お前はどうしたいんだ?」
俺はどうする、ではなくどうしたいのかと訊いた。
「そんなの…緑子ちゃんを助けたいに決まっているじゃないですか!」
「んなら、悩んでる暇なんてなかっただろうが」
まあ、それが人ってもんなんだろう。
俺は美姫の小さな頭をポンと叩く。
「ほれ、行くぞ。おチビちゃん。戦争をおっぱじめようじゃねえか」
どこで騒動が起こっているのかは一目でわかった。村長の家の前に人だかりができていたからだ。
「まったく、緑子のヤツ、何を考えているのだか…」
まあ、煽ったのが俺みたいなものなので、なんとなく理由は分かっているのだが。
「緑子。おぬし、わしに逆らおうというのじゃな」
「えっと……そのお言葉、大分前に聞いたのですが…」
緑子は困惑気味に村長に言った。
「ほら、読者さんに話の内容が分かるようにというご都合主義じゃよ」
「はあ、読者さん…」
緑子が困惑してるじゃねえか。というか、そういうメタ発言は俺の十八番だったのに!
「わしに逆らうというのであれば、力づくでもわしを納得させることじゃな」
村長が構える。すると、体から世紀末オーラが流れ、服がビリビリと破れていく。
「な、なんなんですか!?あれは!?」
「世紀末オーラ、だな。まさか、この時代にこのような芸当ができる御仁がいようとは…」
俺は素直に感心していた。
「つまりどういうことですか!?」
「ユリアでは勝ち目がないということだ」
「はい?」
「緑子では勝てないということだ」
なんというか、ネタを詳しく説明するのって、すっごく恥ずかしいよね。
「それもあの構え。シンフォギアで見た奴だ」
「?」
緑子は俺たちの痛快なボケにかまっている暇はないと、じっと村長を見ながら、汗をひたすら流している。あのオーラを目の前で浴びるなど、正気の沙汰ではないだろう。
「チラッ。チラチラ」
なんか、村長は俺のことをチラ見してるし。
ったく、仕方がねえ愚民どもだな。
「聖少女領域!」
「お前はさっきから何を言っとるじゃき!」
「言いたくなるんだ…俺の中の聖少女領域が!ありぷろの血が煮えたぎるんだァ!」
まあ、無駄に長々とネタをやる意味もなかろうて。
「ま、村長や。お主のその鍛え抜かれた体。そのマッスル美ボディを血で赤く染めるのは口惜しかろうて。緑子の方も、このウンコクソジジイには勝てないとわかってるだろ?」
「ウンコとクソって同じ意味ですよね」
「幼女がウンコとか言うな!大きなおともだちの夢が崩れるだろ!」
だがな、大きなおともだちのみなさん。幼女の方が恥じらいなくウンコって言いまくりますよ。ヤンキーと同じレベルで。
「だから、二人ともに公平な戦いで決着をつけることを提案する!その競技は――」
やべっ。考えてなかった。
今適当に考えようっと。
「野球拳だ!」
「ルールはお互い分かったな」
「き、貴様…」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ」
バルタンかよ、村長。まさか、こうなることを見越していたんじゃ…
ま、一番楽しそうだからいいか。俺はガキの裸にゃ興味がねえ。
「ということで、緑子。お前がすべきことはただ一つ。負けて脱げ。そうすれば人気が出るぞ」
「覚えてろ。お前は絶対に殺す」
おお。おっかねえ殺気だこと。
「ねぇ、緑子ちゃん。どうしてそこまでして――」
「おまんとは関係ないじゃき。黙って見とけ」
緑子は覚悟したように村長と対峙する。
「アウト!」
「セーフ!」
お互いに声を上げ、祈りを込めながら拳を後ろに引く。
「よよいのよい!」
互いの出した手は――
「くっ」
「うほほほーい」
ジジイがグー。緑子がチョキだった。
「負けじゃのぉ。緑子や。さて。何から脱ぐかのぉ」
「この…クソジジィ…」
緑子は、顔を赤らめながら、恥ずかしそうに、草鞋を脱いだ。
周りの男どもからブーイングの嵐が沸き起こる。
「そういうの、マジないぜ」
「フランちゃんまで何を悪ノリしてるんですか!」
脛を思い切り蹴られる。
痛い。
「くほほほほ。お互い最後の一枚じゃのぉ」
戦いは続き、ジジイも緑子も服一枚となった。
「だが、下着があるだろ」
「いや。これがお互いに最後じゃ」
ということは、もしかして――いや、もしかしなくとも――
「緑子。俺、お前のことがとっても魅力的に思えてきたよ」
「股を覗こうとすな!」
美姫と緑子、そして村の女連中から蹴り飛ばされる。
「さあ、どうするんじゃ、緑子。今なら降参することもできるぞ」
「うぅ……」
緑子の顔は真っ赤だった。名前の緑はどこに行ったのか。
「そうだよ、緑子ちゃん。恥ずかしい思いをしてでもしたいことってなんなの?」
美姫が緑子に尋ねる。
「それは…」
緑子は美姫から目を逸らした。
ったく。どいつもこいつも。
「オイ。クソジジイ。コイツは美姫が村の一員になれるよう頼み込んだ。違うか?」
ジジイは奇妙な笑い声をあげながら、頷く。顔が一切笑ってねえんだよ。
「緑子ちゃん。どうして…」
美姫は驚いたような顔で緑子を見る。
「緑子ちゃん!私のためにこんな恥ずかしい思い、しなくていい!早く、負けを認めて!」
「美姫!」
俺より先に緑子が叫んだのには驚いた。でも、その先の言葉が思い浮かばないようだった。
「美姫。アイツはここまで頑張ってきたんだ。もう、世間体的には立派な痴女だ。これから先はただの痴女になるか、男の記憶から忘れられない痴女になるのかの二択なんだ。緑子はそれくらいの覚悟をしてまでお前を守りたかったんだ!お前はそんな緑子の決意を無駄にしようというのか!」
「緑子ちゃん…」
「緑子。お前もな、痴女になりたいんだったら――」
「痴女痴女うるさい。本当に殺すから覚悟しておけ」
おやぁ。これは冗談では済まされない雰囲気だぞぉ。ヤバいな。今から逃げるか。
「美姫。わたしは絶対に勝つ。そして、お前と一緒に…遊びたい!だから、勝つ!」
美姫もまた、決意したかのように頷いて言った。
「緑子ちゃん!頑張って!二人のために、絶対に勝ってね!」
ジジイの奇妙な笑いとともに最終戦が勃発する。
「アウト」
「セーフ」
「「よよいのよい!」」
その後のフランチェンに人権はなかった。
緑子が勝とうが負けようが、約束された勝利の結果だったのだ。
「どうだ?フランちゃん。磔にされた気分は」
「言っておくがな。修道士を磔にするとか、しゃれにならねーからな」
「おや?こんなところに炎がありますよ」
「美姫!緑子と仲良くするのはいいがな!お前は素で危ないんだから――いや、ホント、マジで止めて!死ぬから!俺でも流石に火あぶりは死ぬから!」
まあ、死にはしないのだが。
肉体は消え失せようとも、俺という存在はこの世界から消えることはない。
いや――ボクという存在は――かな。
そんな俺や緑子、美姫を見つめる二つの目玉があった。
「あれが美姫でごじゃるか」
きらり、と鈍い光が月の光に反射していた――
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