1 選ばれし少女たち

「ラブコメが書きたい!」


 俺は叫んだ。


 しかし、俺の声は虚しく、ゴミ一つない浜辺に広がるだけだった。


「このモノローグもラブコメっぽくはないぞ……」


 いやしかし、ただ望んでいるだけではなにも手に入らないのも事実。はてさて、どうするべきか。


 耳をくすぐるような気持のよい波の音が俺の耳に聞こえていた。


「ラブコメに海の描写などいらない!必要なのは、美少女の水着だ」


 海独特の強烈な匂いが俺の鼻腔をくすぐってきやがる。


「そう。この状況で俺はどうやったらラブコメができるだろうか」


 目の前に広がるのはひたすらに広大な青。その青は藍より青し。


「ラブコメに必要なもの。それはラブとコメディ。コメディアンとしての魂は俺のゴーストにカイガンしている。ならば、あとはラブなのだが」


 俺は絶望のあまり、その場で頭を抱えてうずくまる。


「愛って何ですか!」


 ためらわないことなのですか!


「……ためらわない、か。そうかそうか」


 そう。ためらってはいけないのだ。


「というわけで、ドライブイン!」


 俺は傍らの少女の臀部へと顔をうずめようとする。


 だが、案の定、蹴り飛ばされてしまった。


「何をするですか!」


 まだ子どものようにあどけない声が俺を非難する。


 俺は少女を見据える。


 時折錦糸の刺繍が入った赤い着物を見に纏った少女だった。艶やかで長い髪からは海の匂いが漂うなかでもいい香りが迫ってくる。


 俺は思わず唸ってしまった。


「そう。俺はこういう少女の描写がしたかった。でも、だ。だがしかし、だ。相手が幼女であるとは聞いていない!」


「はわ、急に叫びだした危ない人」


 失礼にも幼女は俺を見てそう言った。


「お前はいくつだ」


「へけ?」


 急な質問に少女が大きな黒い目をさらに大きく開く。


「えっと……私は美姫と言います」


「お前の名前など聞いてはいない。齢を言え。齢によっては需要もあろう」


「女の人に齢を聞くのは失礼だと思いますが」


 幼女は女性に入るだろうか。否。否である。


 というか、だ。一体人間はいつから齢を訪ねることに躊躇し始めたのだろうか。子どもの頃は『よんちゃいです!』と誇らしくか恥ずかしくは知らんが、大人に告げることができていたはずである。しかし、なんだ。女性に齢を聞いてはいけないとは。別にお前らの齢なんざ興味ねえよ。ただのガキに対する社交辞令でしかねえよ。


「そうか。まだ四つだったのだな。失礼した」


「何なんですか!この人は!すっごく失礼です!」


 うぐぅ、とどこかのkey作品のたい焼き娘のような声を上げる。


 まさか、この時代にうぐぅ難民に出会うとはな。


「うぐぅ」


「うぐぅ!真似しちゃダメです!うぐぐぅ~」


「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅ~」


「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅ!」


 俺はどうして幼女とうぐぅ対決をしているんだ?


「で?幼女。さっきから俺をじろじろと見ていたみたいだが、何か用なのか?」


「い、いえ。おともだちになりたいな、と思いまして」


 幼女は恥ずかしそうに俯く。


 その姿は可愛いものだが――


「俺を犯罪者にするるもりか」


「へ?」


 幼女は訳が分からないといった顔をする。


「まあいい。お前はどうして、よりにもよって俺なんかに話しかけようとした」


「それは――」


 幼女は俺の前身を嘗め回すように見渡す。


「神様なのかな、と思いまして」


「……」


 俺は幼女の頭を鷲掴みにする。


 鷲掴みにできるほど幼女に胸はなかった。残念。


 俺は幼女の頭を前後左右上下へと、三次元空間にて行使できる秘技を披露してみせる。


「はわわわわぁ!」


 目を回した幼女の頭から手を離すと、幼女はふらふらと二、三歩移動した後に砂浜に尻もちを搗く。


「は、はぁ。激しすぎですぅ。逝っちゃいそうでした」


 良かった。この時代で。


「んで、どうして俺なんかに話しかける。バカじゃないんだから、俺がどんな存在か分かっているだろう?」


 途端、幼女の視線が静かなものになる。急に大人びたような、そんな雰囲気を幼女は手に入れた。


「鬼、ですか」


 俺の容姿はきっと鬼のように見えていることだろう。体は何倍にも大きく、肌の色も髪の色も、目の色も違う。辛うじて類似点を上げるとすれば、二本足で歩行するという点くらいか。


「でも、全然怖そうには見えません」


「不思議なガキだな」


 俺はしみじみとそう思った。


「あなたは鬼なんですか?それとも神様?」


「鬼だったらどうする?」


 俺は目を細めて幼女を睨んだ。


 すると、幼女はこう答えた。


「鬼さんでもおともだちになりたいです」


 不思議な少女だと思った。これほどまでに脳内お花畑の少女には出会ったことはない。


「フランチェン」


「え?」


「俺の名前」


 すると、幼女は目を輝かせる。


「おともだちになってくれるんですか!?」


 飛びついてきそうな幼女を俺は手を前に突き出すことによってけん制する。


「勘違いするな。ともだちになどなりはしない」


 すると、幼女は急に顔を赤くする。


「まさか、恋人から始めたいとおっしゃるですか!私はまだ十二ですのでちょっと早いです!」


 12か。違法ロリじゃねえか。需要はねえな。需要があるのは自称19歳以上からだ。


「それこそ勘違いだ」


 しかしまあ、外見上から12才には見えない。もっとガキかと思っていた。


「で、フランちゃんは神様なのですか?」


「吸血鬼だろ」


「きゅうけつき?」


 フランちゃんって、なんだよ。俺のことか?それとも、東方キャラの方だな、きっと。


「フランちゃんは何をしているんですか?いつも」


「だから、フランちゃん呼ぶな」


「いいじゃないですか。いい名前ですよ」


 そりゃどうも。


「お前はそんなどうでもいいことを尋ねに来たのか?」


つくづく変わっている。何もかも変なガキだった。


「ええ。なにか困っているんじゃないかなって」


「俺のことなんてどうでもいいだろ。放っておけ」


「そうですか……」


 幼女はこの世に絶望したような顔をしていた。


 俺の前ではそんな顔をしないでくれ。


「分かりました。私は近くの村に住んでいるので、何か困ったらいつでも来てください。食べ物もお分けしますよ!」


 幼女はそう言って手を振り走り去った。


 幼女が去った後、俺は一人浜辺に残される。


「ご飯か」


 俺はお腹をさする。


 もう4日はなにも口にしていない。


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