第94話 亜人の存在

 蜂須賀小六という男がいた。かつて戦国時代において、豊臣秀吉に仕えた野盗の親分であり、幼き日の秀吉を助けたことが縁となり、一夜城の逸話を経て、大名にまで出世した……なんていう作り話で苦労した正真正銘の武家の大名がいる。

 はっきりと言って、野盗、賊を身内に引き入れて手なずけるなんて行為は正直なところを言えば、自殺行為に等しい。

 ある意味では私掠船として海賊を利用するような流れに見えるかもしれないけど、とうの私掠船自体が問題が多かったわけで、やはりこれは賭けだ。

 そも、私掠船で財を成した面々は初めからそれ相応の後ろ盾と基盤を持っていたのだし。


「お前の懸念もわかるが、余裕がないのも事実だ。後ろからバッサリというのも嫌だろう。話の分かる、時世の読める奴だけでも手元に置いておくのはマイナスじゃないはずだ」


 とは言いつつも、アベルもそこまで乗り気ではない様子。


「金だけもらっておさらばということもなくはないが、連中だってそんな舐めた真似をして国一つから逃げおおせるとも思ってないだろう。何しろ、戦争が近い。わりを食うのはそいつらだ」

「しかし、賊が敵に与するとは考えないか?」


 アルバートの指摘はもっともだ。

 事実、ハイカルンの軍部はまんまと騙されて、利用されてるわけだし?

 いや、あれは本当に騙されていたのかも怪しいけど。


「ドウレブのような裏切り者もいるぐらいだしな」

「だけど、最終的に、皇国は敵は皆殺しよ。ハイカルンに増援すら送らなかったわけだし」


 そういう意味では各国の膿を吐き出させることも考えなくちゃいけないのね。

 うぅん、やることが山積みだ。主には私の仕事じゃないけど。


「とはいえ、賊を利用されるのは鬱陶しいし、癪ね。その話のわかる賊というのはどういったものたちなの?」

「……エルフだ」

「はい?」


 私は思わず聞き返す。

 だけど、それ以上の反応をみせたのはアルバートたちだった。


「エルフが野盗? 信じられんな」

「別に、エルフだけがいるわけじゃない。俺たち人間も結構いる。ま、なんつーか、外国人同士の寄り合いみたいなところだな」


 エルフ。ファンタジーにはつきものな亜人たち。聞くところによると、美しい姿をしていて、尖った耳というのは共通している様子。

 ただ恐ろしく人間文明との接点が少ない。確か、ゲームの方でもエルフのことを知っているのは王族や一部の貴族ぐらいで、他は作り話としか思っていない者もちらほら。

 そのほか、ドワーフやゴブリンなどの種族もいるっぽいのだけど、やはりそれらとの交流も少ないものらしい。

 第一、交易すら行われていないし、根本的に寿命の違う種族同士、どうにもそりが合わないとかなんとか。

 また、亜人は闇の住民とも言われる。これは悪者であるとかではなく、大陸の奥深く、魔界の底と呼ばれる巨大な崖を挟み、さらにその奥に広がる原生林の中で生活していて、そこは実は地底世界が広がっていて、亜人は地下に住んでいる……というおとぎ話ができたぐらいだった。


「どこの世界にも変わり者ってのはいる……そいつらは、樹海での生活に飽きて、外に出てくるような連中だ。だから、感性としては、俺たちに近い。エルフは感情に乏しいとか言われるが、俺の知ってるそいつはかなりはっきりとした奴だ」

「う、うぅむ、亜人か……」

「いいじゃない。面白そうだわ。アベル、その人たちとはどう、連絡は取れるの?」

「活動拠点が変わってなけりゃまだ根城にしてるはずだ」

「フーム……ザガート、いるんでしょう、出てきて」


 私はその場には姿の見えないザガートを呼ぶ。

 すると、ぽりぽりと頭をかきながら、ザガートが扉を開けて姿を現す。


「やれやれ、俺は小間使いか」

「どうせ盗み聞きしてたのでしょう。いいから、聞きなさい。エルフが率いる野盗の居場所、わかるかしら」

「いくつかの目星はついている。エルフの野盗ってのは珍しいからな」

「アベルと一緒にコンタクトを取ってきてほしいのだけど」

「まぁ、構いはしないが?」


 ザガートはちらりとアベルを見る。そしてお互いに肩をすくめあった。


「人の扱いが荒いな」

「だろう? それよか、さっそく準備をしておこう」

「あぁ、ではイスズ殿。ご指示の通りに」


 そういって二人は去っていく。

 残ったのは私とアルバート、そしてアザリーだけだ。


「亜人の力を借りるのですか? 危険ではないでしょうか。エルフもゴブリンも人をさらうと聞きます」

「賊だって同じよ。使えるなら、使う。そうでないなら、さようなら。どっちにしろ、賊の掃討なんかも必要なのだし、これで使えることを示せば、こちらの恭順する賊も増えるかもしれない。私としては、こいつらを利用しない手はないと思っている。危険性も、理解はしているけれどね?」

「背に腹はということですか?」

「うぅん、そういうわけじゃないわ。大陸の開発をするためよ。樹海ということは木がある。木材の枯渇にあえぐ私たちの土地にしてみれば、木材の確保は急務よ。それを、一気に解決できるかもしれないじゃない?」

「なるほど、ですが、こじれてしまっては?」

「まぁ、その時はその時。どうせ、大陸の平定するには、その亜人たちとも話を付けないといけないでしょう?」

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