7日目⑭

「意識だけが転生するわけじゃないのか…」

 秋加との会話を思いだす。《小説家になろう》のユーザー以外、異世界転生と異世界転移の区別は気にしない。神が言っていたのは異世界転移のことだったのだ。思えば、はじめから神は《連れていく》と表現していた。

「なに? あいつはムダにこの世界にきてたってわけ?」

 夏未が結論を言う。

 エルフィが天井に向けて言う。

「元の世界に戻すんですか? それならわたしも連れていってください」

《ひとのことを何やと思うとるんや》

 そう言いながら、語調に反意はなかった。

 エルフィがおれをみる。

「肉じゃが、ごちそうさま」

「は?」

 両手を合わせる。

「命を与えてくれてありがと。神さま」

 エルフィは消失した。

 おれは2階に駆けあがった。自室にいき、電源が点いたままのパソコンの前に座る。《小説家になろう》にログインし、『真面目系クズの異世界下剋上』の最新話を更新する。

 《主人公は末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし》。

 小説情報を《連載中》から《完結済》に変える。あとから追いかけてきた美冬たちもパソコンを覗きこむ。おれが何をしたのかを確認し、ため息を漏らした。

 秋加が歓声をあげる。

「よかったよ。お兄ちゃんがいなくならなくて!」

 つゆりが抱きつく。

「兄上とはまだ話したいことが山ほどある。いなくなってもらっては困るぞ」

 夏未も胸を撫でおろしていた。ただ、美冬だけが暗い表情をしていた。

 おれは美冬に言った。「すこし夜風に当たろうか」

 美冬を連れて家を出る。路上に歩を進める。深夜の住宅街は無人だ。夜のしじまが広がっていた。夜空に家々の影が浮いている。

 美冬は黙然とおれについてきていた。おれは言った。

「異世界転生をとめたことを後悔してるのか?」

「はい」

 美冬は正面を見つめていた。その横顔を眺める。

「たしかにこの世界は最低だ。でも、おまえたちがいる」

 美冬がこちらにふり向く。だが、視線が合う前におれは踵を返した。

「家に戻ろう。風邪をひくぞ」

 玄関の扉を開ける。夏未、秋加、つゆり。全員が待っている。美冬が後からついてくる。

「お帰り。お兄ちゃん」

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