7日目⑫


     *


 エルフィが上体をおこす。大量失血しているが、そうした様子はない。

「ヒール!」

 エルフィは自分の体に手を当てた。膝をついて立ちあがる。

「無事なのか」

 おれは愕然とした。エルフィは簡単そうに言った。

「もともと大したケガはしてません。水属性の魔法で血を薄めて、大量に出血したようにみせていたんです。機会を見つけて反撃するつもりでしたが、あなたが倒しちゃいましたね」

 エルフィは美冬に手を当てた。

「ヒール!」

 美冬の顔面の打撲痕が消えていく。

 エルフィはおれをみた。

「魔力が無限にあるというのはいいものですね。あなたがわたしを強化してくれたおかげです。いまだに事情はよくわかりませんが。サービスで他のひとも治しておきますね」

 玄関から警官の怒声がきこえる。おれは慌てて居間を出た。階段からつゆりが様子をうかがっている。おれたちは2人で玄関の扉を開けた。

 4人の警官が戸口に立っていた。背後には秋加もいた。おれは秋加に指で丸をつくってみせた。秋加は安堵したように肩を落とした。

 おれは低頭した。

「お騒がせしてすみませんでした。全部、解決しました。あとは家族の問題です」

 警官は険しい表情をした。

「通報があった以上、こちらとしても対応しなければなりません。上がらせてもらっていいですか」

 おれは必死にとめた。居間をみせるわけにはいかない。

 押し問答をしていた警官が急に表情を変えた。

「それは血ですね」

 おれの服の襟元に赤い染みがついていた。警官たちの雰囲気が変わる。

「いえ。これはケチャップです」

「ケチャップ?」

 警官が顔を近づけて嗅ぐ。体をおこし、脱力したように言う。

「本当ですね。わたしたちはこれで失礼します」

 去り際、ふり返って言う。「家庭問題には気をつけてくださいよ」

 警官たちが引きあげる。

 おれたちは肩の力を抜いた。

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