7日目⑪
矢で刺された手に握力はないらしく、《神坂文也》はふたたび聖剣をとり落とした。よろよろと立ちあがり、エルフィのもとにいく。立ったまま顔を覗きこむ。
「まだ生きてるな。魔法で防御したか」
肩で息をする。その姿勢のまま言葉を口にする。
「おまえが間抜けで助かったぜ。聖剣の性能はおれの能力じゃない。おれの能力でも聖剣の神閃百破裂鬼斬は防げない。この力さえあれば、もう怖いものなんてない。おまえたちを殺して、これからくる警察も皆殺しにしてやる! そしてこの世界に復讐するんだ!」
《神坂文也》はふり返り、聖剣をかまえるおれをみた。硬直する。だが、しばらくして何もおきないことに気づいた。
「神閃百破裂鬼斬を使うつもりか? やめとけよ。小説の作者のおまえなら知ってるだろ。このおれ、神坂文也以外が神閃百破裂鬼斬を使おうとすれば血反吐をはいて死ぬ。おれは手間が省けて助かるがな」
そう言いつつ、こちらを警戒して近づかない。額に脂汗が浮いている。おれは無言を保った。おれたちは一定の間合いのまま膠着した。
《神坂文也》が挑発する。
「使えよ。神坂文也はこのおれだ。おまえじゃない。血反吐をはいて死ぬだろうな。けど、おまえが何もしなければこれで終わりだ。おれはおまえたちを皆殺しにして、この家を去る」
おれは肩を上下させた。
「お兄さま」
美冬がおれをみる。肘をつき、上体をおこす。
「もしこれが最後なら、ひとつだけ口答えをお許しください」
おれは息をつめた。美冬は言った。
「いくらお兄さまの言うことでも、わたくしは自分が生まれなければよかったとは思いません。神坂美冬はお兄さまの妹に生まれて幸せでした!」
その言葉をきき、覚悟を決める。おれは神坂文也だ。神坂家の長子、5人の妹の兄だ。
《神坂文也》を見据える。《神坂文也》を倒すため、心中で念じる。
視界が赤く染まる。おれは口から赤い液体を噴出した。前のめりに倒れる。
《神坂文也》が哄笑する。
「ハハハ! やっぱりこいつは神坂文也じゃなかった! 念のために魔法で防御していたが、その必要もなかったな! おれの勝ちだ!」
「そうか。念をいれておいてよかった」
心中で唱える。神閃百破裂鬼斬。
無数の刃に貫かれ、《神坂文也》は全身から血を噴出させた。仰向けに倒れる。近づいて聖剣を突きつける。だが、すでに《神坂文也》は失神していた。
秋加は夕食のカレーを用意するとき、美冬のため、ケチャップのボトルをもってきていた。聖剣を拾う直前、ケチャップを口にふくめた。
玄関の扉が激しく叩かれる。
「警察です! 通報があってきました!」
今度こそ、すべてが終わった。
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