7日目⑦

 部屋の沈黙は続いていた。

 この空気を変えたかったが、おれが言ったことは本心で、すでに撤回できなかった。

 夏未が沈黙を破る。美冬の側からおれをみる。

「そういやあと3時間とか言ってたけど、どういう意味?」

 もう隠す必要もない。おれは説明した。

「この1週間、おまえたちに『真面目系クズの異世界下剋上』の添削を手伝ってもらっただろ。じつはあの世界は実在するんだ。明日、おれはあの世界に異世界転生する」

 夏未は呆然とした。声をふり絞るように言う。

「お兄がそんな妄想を抱えてたなんて。気づいてないの? お兄は精神障害を患ってるんだよ」

 異世界転生が妄想だと。夏未の言葉に混乱する。おれは後ずさった。笑おうとしたが、奇声しか出なかった。

「そんなはずはない。おれは神の声をきいたんだ」

 食卓のほうをみる。秋加は危険人物をみる目つきをしていた。

「本当なんだ! おれを異世界に連れてってやるって神が言ったんだ! 寝ているときに異世界にもいった!」

 助けを求めるようにつゆりをみる。

「つゆりならわかってくれるよな!」

 視線が合うと、つゆりは顔を背けた。

 急に足場のなくなるような感覚をおぼえた。

 異世界が存在する証拠はおれの頭脳だけだ。証明する方法は何もない。おれは狂っているのか?

「そいつが言ってることは正しいぜ」

 背後から声が響いた。

 反射的にふり返る。10代後半の少年だ。土足のままフローリングに立っている。襟の立った、丈長の黒の外套を着ている。顔に特徴はなく、無造作な髪型をしている。両手に指ぬきグローブをはめている。腰に長剣を佩帯していた。

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