『真面目系クズの異世界転生』「1 王都」(2018/5/13改稿)
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『真面目系クズの異世界転生』「1 王都」(2018/5/13改稿)
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眼前に荒涼とした風景が広がる。都市の大通りだ。砂塵が舞い、辻々に死体が倒れている。
原因不明の栄養失調が蔓延し、疫病が流行したためだ。
おれは呆然と立ち尽くしていた。
傍らでエルフィがパンを食べている。
「まさか流行り病で町の住民の3分の1が死ぬとは思いませんでしたね。わたしたちはご主人さまが財をなしていたおかげで、たっぷり栄養をとることができて、感染を予防できましたが。ご主人さま様様です」
「これをやる」
小瓶を渡す。
「これは?」
「マヨネーズだ。もう不要なものだ」
エルフィはパンをマヨネーズに浸けて食べた。
「これ、けっこうイケますね。でも、わたしはもっといい調味料を知ってるんですよ」
「なんだ」
「ほら。こっちこっち!」
はじけるような笑顔で手招きする。
エルフィは痩せこけた乞食の前でパンを頬張った。
「うーん、飢えている人間の前で食べるパンは最高においしい!」
「やめろォ!」
絶叫する。
「やっぱり、額に汗することなく食べるパンが一番おいしいですね。ご主人さま、大好き!」
エルフィはおれを蕩けたような目でみた。
「どうしてだろう。目的は果たしたのにまったく嬉しくない」
痩せて骸骨のようになった子供が歩いている。
「仕方ありませんね。慈善をほどこしてあげますか」
エルフィはため息をついた。
子供に歩みよる。
「ふう。もう満腹です。このパンはもういりませんね」
パンを地面に落とす。
子供が期待に満ちた目で見つめる。
「ですので、このパンは靴底を磨くのに使いましょう」
パンが泥塊と区別がつかなくなるまで踏みつける。
「うわーん!」
子供は泣きだした。
エルフィがおれのもとに戻ってくる。
「エルフは人間に虐げられてきたので、ときおりこうして遺恨を晴らしたくなってしまうのです」
「やり方が陰湿すぎる」
町の住民がきて、大声でひとびとに呼びかける。
「そろそろ処刑がはじまるぞォーッ!」
野次馬がぞろぞろと移動する。
エルフィがおれの服を掴む。
「先日、ご主人さまが華麗に返討ちにした盗賊ではないでしょうか。いってみましょう」
広場には大勢の野次馬が集まっていた。
囚人である盗賊が、処刑人たちに連行される。
四肢がそれぞれ馬に繋がれた。
「車裂き八裂きだァーッ!」
野次馬たちが歓声をあげる。
馬が疾走し、四肢が断裂する。鮮血がとび散る。拍手喝采がおこる。
「処刑は最高の娯楽ですね」
エルフィが楽しげに言う。
「悪夢だ…」
おれは呆然とつぶやいた。
*
気づくと、美冬の膝に頭をのせていた。うたた寝したらしい。
《小説家になろう》にログインする。『真面目系クズの異世界転生』は改稿してから、公開停止の処分を受けていない。異世界転生が幻覚でなく、現実であることもわかった。
美冬が頬に手を当て、顔を赤らめる。
「お兄さまは寝ているときのほうが大胆ですのね。すこし照れてしまいました」
およそ膝枕と呼ばれる状況で最悪のものだった。
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