4日目 神はブックマークのスターをつくられた。

4日目①


     *


  4日目 神はブックマークのスターをつくられた。


     *


 おれと美冬は1階に下りた。日曜日だ。もう8時過ぎだが、平日より朝食は遅い。

 台所で秋加がフライパンを使っている。地味な部屋着にエプロンの姿だ。

「秋加。おはようございます」

「おはよう」

 秋加がこちらを向く。

「おはようー。お兄ちゃん、お姉ちゃん。今朝はオムライスだよ」

 フライパンをとり落とす。派手な金属音が響く。

 美冬が半裸のベビードールでいることを忘れていた。

「ちょっと秋加、何やってんの!」

 夏未が飛びこんでくる。

 おれたちをみて絶句する。

「お姉。夕べ、電気を消したあとに部屋を出てた気がするけど、もしかしてお兄の部屋にいたの?」

 美冬と夏未は同室だ。

「はい。熱い夜を過ごしました」

 美冬が頬を紅潮させる。

「誤解されるような物言いはやめろ!」

 おれは顔面蒼白になった。

 マンガやアニメのシチュエーションではない。おれはアラサーのニートだ。妹に手を出したと思われ、家を追いだされたら洒落にならない。

「…続きは居間で言えし」

 夏未が顎でしめした。


 食卓に全員が着く。

 夏未はギャルらしい、フワフワしたフード付きの綿地のパジャマを着ている。

 不機嫌そうにおれたちを睨みつけている。

 秋加がオムライスを配膳する。食卓にケチャップをおく。

 つゆりがオムライスの生地がみえなくなるまでケチャップをかける。

 夏未が咎める。

「そんな味オンチみたいなマネするなし。それに他のひとのことも考えな。もうなくなりかけてるじゃん」

「心配しないで。まだたくさんあるから」

 秋加は各人の前にケチャップのボトルをおいた。

「1本50円で特売してたから、まとめ買いしちゃった」

「そこはマヨネーズじゃないのかよ!」

 思わずツッコむ。

 美冬が大量にケチャップをかける。

「そういうことでしたら、わたくしも遠慮なく使わせていただきます。じつはわたくしはケチャラーなのです。目玉焼き、オムレツ、カツ丼、カレー。ケチャップは何にでも合います」

「だからそこはマヨラーだろ!」

「何のはなし?」

 秋加が不思議そうにする。

 夏未は咳払いした。

「それで、どこまでヤったわけ? A、B、まさかCまでいったわけじゃないッしょ」

 こいつも古い表現を使うものだ。いまどきA、B、Cとは。

「だから誤解…」

「お兄は黙ってろし」

 夏未は鋭く言った。

 美冬は首を傾げた。

「A、B…? アルファベットはすべて使ったようなものです」

「やめろォーッ!」

 秋加がつゆりの両耳を塞いだ。

「何分はじめてですので、うまくゆかないところもありましたが、お兄さまと力を合わせてやり遂げることができました」

 夏未の顔が青ざめる。

 秋加が震える声で言う。

「だ、だって、そんなエッチな…」

 美冬が不快そうに眉根を寄せた。

「エッチ? たしかに世間からすれば、ただ猥褻にみえるだけかもしれません。ですが、そうした偏見を捨てれば、古代ギリシャ人の言うエロス、愛の営みだということを理解できるはずです」

 ライトノベルの話だ。

 秋加は卒倒した。口元に泡を吹いている。

「言いたいことはそれだけ?」

 夏未は退屈そうに言った。

「はい」

「あっそ」

 夏未は立ちあがり、居間を出ていった。

 おれは内心で胸を撫でおろした。

 ふーッ。アニメやマンガみたいな誤解をされるかと思ったが、助かったな。

 自室に戻ろうとする。

 包丁をもった夏未が扉のところに立っていた。目に涙を浮かべている。

「お兄のことをクズだブタだとは思ってたけど、それでも妹に手を出すような鬼畜じゃないとは思ってたのに…!」

 包丁をもつ手が震えている。

「このままじゃ秋加やつゆりも危ない。ウチが罪を背負って家族を守らなきゃ…!」

 おれに向けて包丁をふり下ろす。

「うおおお!」

 美冬が夏未の腰に飛びつく。

「やめてください! お兄さまは悪くありません! 悪いのはすべてわたくしです!」

「おまえはもう何も言うな!」

 居間に怒号が飛びかう。

 つゆりが気絶した秋加を手で扇いでいた。

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