『真面目系クズの異世界転生』「1 王都」


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  『真面目系クズの異世界転生』「1 王都」


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 異世界に転生して半年、おれ、神坂文也は現代知識とチート能力で覇者になっていた。


「エルフィ、1から10までのすべての数字を足した合計を教えてくれ!」

 道連れの奴隷のエルフに頼む。

「いきなりですね… 55です」

 木の枝で地面に計算式を書き、検算する。

「本当だ! 夢だとしたら、おれの知りえないことがわかるはずがない! つまりこれは現実だ!」

「いや、計算を工夫すれば一瞬でわかりますけどね! でもそのとおり、これは現実です! ご主人さまは、被差別民族のエルフであり、奴隷商人に売られていたわたしを身請けし、自分と対等にあつかってくれました! しかも夜伽をしようとしたわたしを紳士的にとめてくれました! なんて優しいのでしょう! エルフへの差別感情もない、すばらしいひとです! ご主人さまに買われたわたしは幸運です!」

「そんなことはない! 現代人として当然のことをしたまでだ! エルフは自分たちの境遇に抵抗しなさすぎる! それに、《ご主人さま》と呼ぶのはやめろといつも言っているだろう!」

 エルフィは野盗に拉致されたときの、鮮やかな緑色の民族衣装を着ている。半裸に近く、エルフィは胸が大きいため目の毒だ。物々しい首輪をしている。外してやりたいが、主人を証明するもので、これがなければ市民権をもたないエルフはしばしば危害を受けるらしい。エルフへの差別、絶対に許せない!

「小腹が空いたことだし飯でも食おうか!」

「そうですね!」

「さっきゴールド商会のスミスさんからマヨネーズの納入代金をもらったばかりだしな! スミスさんはこの地方に勢力をもつ商会の支配人で、おれもこの世界に転生してからいろいろ面倒をみてもらっているんだ! 片眼鏡の似合うナイスミドルだ! 利益至上主義者で、合理的な思考をするから開明的で、エルフへの差別感情も少ないんだ!」

 レストランにはいる。

 厳つい店主が険しい表情を浮かべて近づいてくる。

「お客さん! ウチはエルフお断りだよ!」

「すみません、ご主人さま! わたしがいるばかりに! わたしは店の外で待っています!」

「いいんだ、エルフィ! きみは悪くない! 店主、これはチップだ! とっておけ!」

「こ、これは青銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨とあるなかの白金貨! これだけあれば今月の売上げを凌げます! しかし、これだけの額を気軽に支払えるあなたは一体!?」

「ふッ、大したものじゃない。ちなみに貨幣の価値は10倍ずつ上がって、白金貨の価値は日本円で100万円ほどだ!」

 冒険者ギルドの登録証をチラ見せする。

「ああッ、金、銀、銅、紅玉、翠玉、蒼玉、黄玉、黒曜、白磁の9段階あるうちの最高ランクの金の登録証! 若造にしかみえないあなたがそれほどの冒険者だったとは!」

 窓枠にもたれ、ガラスに映る自分の顔をみて黄昏れる。

「やれやれ。冒険者ギルドでパラメーターの数値を計測して、一方的にランク付けされただけだから、どうしてみんなが大騒ぎするのかわからないのだがな」

「どうぞお席にお着きください! じつはわたしもエルフ差別には反対だったのです! ですが、エルフを嫌うお客さまが多く、わたしも仕方なく立入禁止にしていたのです!」

 おれとエルフィが席に着くと、人相の悪い2人組が近づいてきた。

「おいおい、ここはブタ小屋だったのか? エルフなんかがいると、飯がまずくなっちまうぜ!」

「痛い目に遭いたくなかったら、奴隷を連れて店を出な!」

「でも、そのエルフはかわいいし、いいおっぱいをしてるぜ! さぞかし夜のほうはお楽しみなんだろうな!」

「ついでだから触らせてもらうぜ!」

 おれは2人組をボコボコにした。

 店主が2人組をつまみ出す。

「おととい来な!」

「ありがとな、オッサン! オッサンとはこれからもときどき顔を合わせる気がするぜ!」

 エルフィとメニューをみる。

「おれはコロッケ定食を注文するぜ!」

「わたしはポテトグラタンでお願いします!」

「お待ちどおさま! コロッケ定食にポテトグラタン、それに付合わせのポテトサラダにフライドポテト、ポテトスープです!」

「うまい! ちなみにジャガイモはこの国の原産だから料理に使われていてもおかしくない!」

「このポテトサラダはご主人さまが独占販売しているマヨネーズが使われていますね! ご主人さまはマヨネーズを開発したことで巨万の富を得たのです!」

 店主が驚く。

「ええ!? あの魔法の調味料を!?」

「はい! しかもご主人さまは通商路を脅かす魔獣をさきほど倒してきたばかりなのです! 魔法は火属性、水属性、木属性、土属性、金属性、光属性、闇属性の7系統がありますが、ご主人さまはどの系統にも属さず、すべての系統を使うことができるのです! しかも、火属性の魔法と水属性の魔法で爆発をおこして魔獣を倒したのです! 魔法をあのように応用するところはみたことがありません!」

「ただの水蒸気爆発だ! この世界では知られていなかったか!」

「しかも伝説の聖剣の所有者でもあります! 勇者を名のるいけ好かないイケメンが聖剣を渡すように迫ってきましたが、わたしを口説こうとして拒絶されて逆上し、挙句に聖剣を強奪して自業自得で死んでしまいました!」

「ああ! 聖剣は一撃でどんな相手でも倒せる神閃百破裂鬼斬(しんせんひゃっぱれっきざん)を放つことができるが、あつかえるのは正当なもち主だけだ! このおれ、神坂文也以外が使おうとすると聖剣の自己防衛機能で死んでしまうんだ! あのイケメンは大量に吐血して死んだが、自業自得だし仕方がないだろう!」

 我に返る。

 周囲の情景を確認する。情報が多すぎる。これは夢ではない。おれは本当に異世界転生したらしい。

 しかも、『真面目系クズの異世界下剋上』の世界観そのままだ。

 時系列は物語の最後の時点だ。物語の開始からここまでの半年ほどを一瞬で追体験した。

 エルフィは店主に得々と話している。

「しかも、ご主人さまは活躍が国王の目に留まり、これから王宮にゆくところなのです」

 そうだ。そういう引きで区切りにした。領主のもとで内政チートをする予定だ。

 エルフィをみる。きれいな顔立ちで、胸が大きい。こうした少女と接しているのは夢のようだ。妹は例外だが、幼少期からトイレで生理用品を目にしてきた相手は異性として意識できない。

 エルフィはおれを慕っているらしい。となれば、やることはひとつだ。

 店を出る。

 エルフィに言う。

「おっぱいを揉ませてくれ!」

 途端に、エルフィは極寒の眼差しを向けた。

「は? いきなり何を言ってるんですか。気持ち悪い。というか、前々から思っていたんですが、何かするたびにヨイショをほしがるのがウザったかったんですよね。寝食が保障されているのでとりあえずついてきましたが、もう限界です。さようなら」

 スタスタスタ。

 背中を向けて去ってゆく。

「エルフィー!」

 その姿は遠ざかり、やがて森に消えた。

 呆然自失するうちに、現実で覚醒した。

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