登校
久しぶりの登校。
私が姿を現わすと校内はちょっとした騒ぎになる。
常に見られてることを意識しなさい。
あの松本さんの言葉が自然と脳裏によぎる。
制服も新調し、髪の毛もちゃんと綺麗にカットしてもらい、覚えたてのナチュラルメイクも様になってきているのだろう。
ちらほらと応援してるよー!等の声がどこからか聞こえてくるが直接私にはなしかけてくるような人間はいなかった。
結局のところ私が外見をどう見繕ってもここへ来ればやはり孤独なのだ。
過去の自分はなかなか消せない。染み付いているのだ。空間にも、人間にも。
クラスに入るとその様子が如実に現れた。
アイドルに合格する前と何もかわらない。ただ、アイドルという立場が私を守ってくれているのだろう。髪を切られたり直接的に危害を加えてくるものはいなかった。ただ全員が必死に以前と同じ日常を作ろうとしている異様な空気は感じられた。
これがもし普通の女の子だったら、アイドルになった事や、芸能人だれか会った?
いつCDデビューとかするの?
と、休み時間の度に私を中心に輪ができるのだろうけど、私の周りには不自然なだれも近寄らない輪ができていた。
輪は輪でもドーナッツのような不自然な空間。
そして周囲からは悪口がやはり聞こえてくる。雑踏に隠しきれてないので私に聞こえるようにわざと言っているのだろう。
なんで今更来るんだよ。
ってか、始業式にあんな事してよくふらっと来れたよな。
目的なに?
もう学校来る必要なくない?
芸能科あるとこ転校しろよ。
私は休み時間のほとんどを音楽の流れないイヤホンを耳につけ、読み進めることのない小説を開き、周りの言葉に耳を傾け向けられる視線を観察していた。
火事
放火
犯人
そのようなワードを耳にする事はなかった。
私の思惑は大きく外れているのだろうか。不安になる。
他人にあまりにも無関心な私は教室に目的の1人である彼女の存在がない事をしばらく時間が経ってから気づいた。
私の焼け焦げた制服を見て真っ先に逃げ出すように教室から出て行ったあの子。
名前すらしらない。いないことにも気づかなかった。
どこの学校にだってリタイアする人間、不登校になる人間は必ず1人くらいはいるだろう。クラスの連中はいない人間をわざわざ気にするような素振りもなかったのでもしかしたらあの日以降彼女は登校することを拒絶しているのかも知れない。
逃げようと思えば逃げれる空間、義務教育後の学校とはなんとも不思議な空間である。
お昼休み。私は屋上へと続く階段を登り始める。少しだけ懐かしい。人の気配を感じない時は私はここでお昼ご飯を食べていた。
屋上に続いてるだけで、ドラマや映画のように屋上に出るための扉は硬く施錠されている。
故にほとんどの人間がその扉の前の踊り場まで足を運ぶことすらない。
踊り場。そう考えるとアイドルになってからも私はレッスン場でダンスを練習しているのだがあの場も字面だけで見れば踊り場だ。
今後、立つかもしれないステージだって踊り場だ。
私の人生に置いて踊り場は私の居場所。
予鈴を聞き、午後の授業に向け教室に戻ると、机の中に紙切れがあることに気付く。
一瞬、過去の記憶がよぎる。
だいたいこのノートの切れ端やプリントの裏に雑に書かれた用紙はいい記憶がない。
人に向けた手紙だったらそれなりの用紙を用意するものである。女の子同士ならもちろん、異性に送る手紙なら尚の事。
どうせ汚い言葉が雑に書かれている。
それでも確認せずにはいられないのが人間の心理なんだろう。私は今までそのような手紙に目を通さなかった事がない。
読まずに捨てる選択肢だってあるはずなのに。
自然と手紙を読みはじめすぐに裏切りに気付く。今までこんな経験なかった。
あなたを勝手にオーディションに申し込んだドルオタです。すいませんでした。よかったら、メッセージください。
それは意外にも目的の1人の連絡先と、接触を求めるファンレターだった。
今までラブレターを装ったいやがらせの手紙を受け取った事があったが、様子が違う。
だいたい装飾のしっかりされたラブレターっぽい装いをしているものである。信憑性を少しでも高める為になぜかいじめる側の人間はそこの労力やらを惜しまない。
たまにテレビでみかけるドッキリ番組などもそうだ。騙す為に少しも妥協しない。
なぜなのだろうか。
しかし、このノートの切れ端に慌てて書いたであろう無骨な見た目は私を逆に信用させた。
1つ接点を持てたので私は午後の授業を早退する。
帰りの電車の中で半信半疑、いたずらじゃなかったら儲け物。そんな気持ちでその連絡先にメッセージを送る。
初めてのファンレターありがとうございます!
むしろ私に生まれ変わるチャンスを与えてくれてありがとうございます!
これからレッスンなので直接お礼言えずにすいませんでした。
これからも応援よろしくお願いします!
なかなかアイドルできてるんじゃないかな。こいつを無事釣れる事を願う。
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