アイドル活動

寮に戻るとなんだかさわがしかった。

たくさんのメンバーが今日から入居する事になっていた。

松本さんですらその対応に追われているので、先住民である私は松本さんのフォローにまわる。

メンバーの顔も名前もまだ覚えていないのでそれは追い追い覚えていく事にすり。


オーディションで自分の置かれた環境をある程度説明していたが、事務所の意向なのかわからないがメンバーには自身の環境は伝えられていなかった。

むしろ隠されている可能性すら感じる。


後から聞いた話によると何人かのメンバーは松本さん同様私も寮を管理しているスタッフの一部だと思っていたらしい。


そして多くのメンバーが入居する今日はテレビカメラもその様子を撮るために多く見受けられた。

さっこんアイドルグループがデビューするにあたり、デビューから一流アイドルを追い続ける番組が深夜帯で多く放送されている。私たちもその流れにのるようだ。

私はそこで松本さんを差し置いて寮長莇里奈として報じられた。

ドキュメントかと思われたその番組は実際のところ個人のキャラを強く押し出すためのバラエティ番組であることもその時に伝えられた。


若手?中堅?その辺りが曖昧なお笑い芸人コンビが番組MCである事も同時に伝えられた。


寮長莇里奈。私はスタートでなかなかいいポジションを与えられた。


松本さんに私が案内されたようにメンバーに寮内の施設を案内する。その様子も常にカメラで撮影されていた。

父が休日に見ていたバラエティ番組の司会者の影響でカメラをキャメラと言ってしまったところもまで番組内で放送されてしまい、「天然寮長」と謎のキャッチフレーズが私の名前より先に世の中に知れわたった。


その夜松本さんの手料理が食堂で発揮される。


誰もがその見た目の良さと味の良さに舌鼓をうつ。私たちのグループはSNSを禁止されていたのでオフィシャルのブログ以外でその写真を発表できないのだが多くのメンバーがスマホを片手に食事をすすめる。


すすめると言う割に時間を割いたのはその個々の撮影の時間があったからなのだが。私はそれに口を挟む事はできなかった。


そんなお食事会の最中、自己PRに似た自己紹介が始まりなんとなくでのグループとしてのミーティングが行われた。


それはその先も恒例化されていきそうだったのでみんな真剣に相手の出方を探りながら話し合いは続かれていく。


私の当面の課題は皆の名前と顔を覚える事である。自分に害を与える人間は本能的に察知できるのだがここの環境は仲間意識がまだ高く、個人を認識できないでいる。


学園祭。みんなが浮き足立って利益度外視で時間を費やすその様子に似ていた。

私はいつもそれを蚊帳の外から見ていたので内側に入った時の環境についていけずにいた。


「今日はなんだかお仕事分担させちゃって悪かったわね、先にゆっくり休んでらっしゃい」


松本さんのその言葉に素直に甘えて自室に戻る。

果たせなかった高校デビューの夢がここにある気がして些か気が引けたが素直に従わせてもらう事にした。


「ちょっと今日はせわしかなかったから明日から改めてよろしくね!確信した。みんなとなら私頑張れるから!おやすみなさい!」


それだけメンバーに告げるとみんなから


ありがとう!


と感謝の言葉をもらうと同時に自室に帰る。

私はここで生まれ変われるかもしれない。


そんな希望を目の前にして部屋に戻ると自分のスマホにメッセージが届いてることに気付く。


あのドルオタのクラスメイトからだ。

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