イルム王国編32 王都の騒動7

 国王が王宮に姿を現すとイルム王国は再び活動を再開します。今まで停滞していた物流が再開し王都に沢山の人や商品が入ってきます。ミトミは今は稼ぎ所と言いながら王都のバザールの方に行っています。


 ディエナ姫は爺やの説教を受けていました。あれだけ奇行を繰り返していたら当然でしょう。宰相は更迭され、次の宰相が決まるまで空位とされました。ミルニス学園の学園長が次期宰相候補と言う噂もあります。


 因みに将軍は宰相が雇った傭兵を全員馬車に括り付けて要塞都市に行きました。根性を一から鍛え直すと言っていました。悪い予感がします。


 近くの離れ家に居たエレシアちゃん派遣団も王都に戻って来ました。ルエイニアの報告を受けて戻ってきたと言っています。そこで退去している間、何をしていたのかエレシアちゃんに聞きました。


「……お……お勉強してました……」


 エレシアちゃんは、やはり素直でいい子です。ほっぺをスリスリしたくなります。実際にやったら筆頭書記官オーガロードに怒られるのでしませんけど……。


 エレシアちゃんはこれから国王と謁見するそうです。急に慌ただしくなりました。


「陛下のおなり」


 ゴテゴテの服を来た男が現れました。先日まで病んでいたと思えない肌つやをしていました。しかし、刻み混まれた顔の皺の数がそれまでの人生を示しているかのようです。——とは言いましても私よりずっと年下なのです。やはり人間さんと言うのは生き急いでいるのでしょう。しかし、そのゴテゴテした衣装の意味するところはよく分かりません。


 国王の隣には爺やが付き添っていました。爺やと言うだけあって、国王より刻み混まれた皺の数は更に多いのですが、まぁその編は良いでしょう。


「エルフの王国の公女殿下、よくぞ参った。これよりイルム王国とエルフの王国の友好を深めることにしよう」


 これらの謁見は、概ね定例句で始まるそうです。外交儀礼プロトコールと言うものがあり、互いの使節は儀礼に沿った正装を着込み、形式張った挨拶を違いに交わすことで始まるそうです。国王のゴテゴテした衣装は、イルム王国の正装なのでしょう。エレシアちゃんもエルフの王国の正装である豪奢な白いドレスを着込んでいました。一見すると地味めに見えますが、使われて居る生地は最高級と呼べる逸品らしいです。それは蛾の吐いた糸を紡いだもので、軽くて丈夫できらびやかな布なのです。この生地は染めて使うこともありますが純白の時が一番見栄えが映えます。そして、地味目に見えるモノの細かい細工が所構わずほどこそされています。様々な花の花弁の刺繍がエッセンスとしてドレスのあちこちにアクセントとしてちりばめられているのです。実を見張るようなドレスですが、当然エレシアちゃんはそれに着られて居ません。豪奢なドレスと均衡を保っています。知らずにそれを見たモノは天から女神が振ってきたものと勘違いするにありません——と言うのは私のひいき目でしょうか?


 ——それはともかく、私もドレスを着させられているのが理不尽です。筆頭書記官や秘書官は気軽な政務服です。ドレスは動きにくいので苦手なのですが、賢者様はこちらを着るべきですと筆頭書記官に押し切られました。難色をしめしたところ、ドレス以外なら灰色重いローブがありますがどうしますかと言われました。賢者風の格好よりドレスの方がマシなので仕方無くドレスを選びましたが、しかし、灰色エルフの《里》の正装といえば身軽な格好です。緑色のチュニックに半ズボンでも正装だと思うのです。この辺を早いところ納得して貰わないと行けないでしょう。


「——しかし、大賢者殿には世話になったな。これはエルフの王国に大きな貸しを作ってしまったな」


「いえいえ、大賢者様は当時は、ディエナ王女殿下の護衛として雇われていたので私どもの貸しにはなりなません」


 筆頭書記官がそう言います。


「爺や、これは一本取られたな」


 国王陛下が笑います。一通りの形式ばった挨拶が終わると、会食になります。今回の使節の目的に関することは今頃外交官同士が必死に内容を詰めている様です。私はそれを知るよしもないのですが、これから始まる帝国との争いに関する密約みたいなものをして居るようです。そういえば新しい外交官さんも死んだ魚の目をしていましたね。あれは、みなそうなのでしょうか?大体女王陛下の所為と言う噂も聞きますが……。そのあたりはどうでも良いでしょう。


 会食には眼鏡執事が現れて、筆頭書記官がおかしな言動を繰り返していましたがそれ以外は特に何も無く終了しました。しかし、あの眼鏡執事は一体なにものなのでしょうか……。爺やの懐刀だったのかも知れません。国境の街に居た理由はよく分かりませんし、爺やに聞いてもはぐらかされそうです。


 一連の外交儀礼が終わり、私は堅苦しいドレスから解放されました。やはり気楽な服を来ている方が楽です。エレシアちゃんの方はどうなのでしょうか?


 そのあたりを含めて、別々に行動して居たときの話をエレシアちゃんとしていました。


 エレシアちゃんによれば聞いてみると王都から退避している間に共和国から手紙が来ていたそうです。曰く『早く来い』と言う内容です。当初はイルム王国からフェルパイア連合の本部がある。都市国家フェルプに行き、最後にティベーユ共和国に行くと言う旅程でした、しかし、途中のトラブルで当初より予定が遅れているのもあり、共和国が早く来るようにせっついてきたと言う話です。


「……まぁ、予想通りです」


 外交官が言います。


「この件に関しては王妃に報告してあり、ティベーユ共和国の意見を尊重する様にと言う話です」


「では、どうすれば良いのでしょうか?」


 筆頭書記官が聞きます。


「フェルプに向かうのを後にして、先に共和国に行きます。……ただ問題があるのですが……」


 フェルプは今回の使節の最終目的地です。ここはフェルパイア連合の本拠があり、そこで連合各国の代表と帝国にどう相対するのか決めるのだそうです。


「問題とは?」


「ああ、アルメノンの問題のことね?レジスタンスが街道が封鎖しているみたいよぉ」


 ルエイニアが答えます。


「ルエイニア、そういえばあの盗賊達はどうしましたか?」


「ああ、アレ洗いざらい吐かせて、爺やに突き出したよ。結構、儲かったねぇ」


「結局、あいつらはなんだったのでしょうか?」


「世の中知らない方が良いこともあるじゃん」


 ……はぐらかされてしまいました。結局、あの盗賊達は一体なんだったのでしょう……。結局最後まで分かりませんでした。

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ハイエルフの人間学入門 みし @mi-si

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