イルム王国編28 王都の騒動3
「これがパフェなるものですか?」
クフフの別宅にお邪魔するとメイドさんが、ガラスの器の上にアイスクリームが大盛りにのっかている甘味が並べていきます。周りには様々な果物がカットされて添えられていました。果物はベリー類やメロンと言ったモノです。器のガラスは透き通っておりクリーム、スポンジ、クッキー、果物などが綺麗に重ねられている様子が外から見ることが出来ます。上には甘ったるい香辛料がかけてありました。お茶もカップに注いでいきます。
しかし、この食べ物のベースになっているのは冷たいクリーム。つまりアイスクリームです。このパフェ用アイスクリームは街中で売っているアイスクリームより柔らかめに作ってある様です。それでいて溶けにくく成っているようです。ひんやりした食べ物なので、冬よりも夏食べるものかも知れませんが冬に暖かい部屋の中で食べるのもおつです。
「甘いもの美味しい」
ディエナ姫が呑気に言ってます。本当にこの街は、内紛寸前なのでしょうかと思ってしまいます。
「フレナ、食べないなら私が食べるよ」
「食べますよ」
パフェのアイスクリームの部分を一口救って口の中に入れると爽快な甘さと柔らかい冷たさがひんやりと伝わってきます。街中で売っているアイスクリームとは違って上品な味わいがしました。これは恐らく、ある種の香辛料と香草のエキスを混ぜています。ある種のと言うのは具体的な名前を思い出せないからです。草の効能は実物を見れば分かるものので《里》ではそれらに名前をつける必要が無いのです。必要があれば、○○に効能のある草と言えば良い訳です。同じ効能のある草が何種類あろうともその効能が最終的に得られればいいわけですし、そもそも《里》では自給自足が常態ですから、十分事足ります。……が外の世界ではこれらの草も全て、お金を払って手に入れなければ成らない様です。手に入れる為には名前をつけないと不便です。そのため価値のあるありとあらゆる草には名前がついている様です。価値の無いものは雑草とだけ呼ばれている様ですが……。
それより、このある種の草は何と言うのでしょうか?ほんのりした甘味と少しピリッとする感覚のする香辛料が加えられています。効能的にはグローブと呼んでいる香辛料にもこの性質がありますがグローブの中から甘味の部分だけ抽出したような感じです。グローブはもう少し香味のある香辛料ですから、それとは若干違う様です。一方、爽快さの方は、これは
「これは、ミントと……」
「バニラにゃ」
「ミントとバニラが豊かなハーモニーを作り出して爽快な味わいを演出しています」
「そんな難しい事はいいにゃ。さっさと食べるにゃ。アイスが溶けちゃうにゃ。溶けたアイスは美味しくないにゃ」
「えー、あれはあれでおもむきあるじゃん。溶けたアイス啜るの結構いけるよ」
「それが、がっかり感ありまくりにゃ」
「どちらでもよろしいのでは?」
相違ながらディエナ姫はメロンに被りついています。しかし、アイスクリームと果実の組み合わせも割と行けます。果実の酸味が口の中に残った甘ったるさを中和してくれます。それから層になっているスポンジやクッキーは冷たくなった口の中を一休みさせてくれます。ただ、口直しにはスポンジよりクラッシュ状になったクッキーの方がいい気がします。このアイスクリームは上品で口の中でさらりと溶けるのですが、その代わり歯ごたえが無いので、途中で歯ごたえがあるものが欲しくなるのです。口の中にお茶を含むとパフェの甘味と混じり合って鼻に抜けるようなホッとする感覚になります。おそらくこのお茶は気分を和らげる効能のある草を抽出した
「このアイスはミント味じゃん。コーヒー味も行けると思うのよ」
「コーヒーも行けそうですが……その様な用途に使う分を……そういえば、クフフさんはコーヒー取り扱いの元締めでしたね」
「ディエナ、他人行儀な言い回しやめてよ。それやるとディエナは怒るじゃん。あとチョコレートも行けそう」
「ん、ちょこれーとってなんだにゃ?」
「最近ドワーフの工房で売り出した、ほんのり苦味のある黒いお菓子らしいよ。高度な錬金技術が必要になるとかで、まだ試作品しか出回ってないって」
「クフフは食べたことがあるのですか?」
「残念ながら無い。パパでもドワーフの工房の品は簡単に手に入らないよ」
「クフフ家でも髪の毛とドワーフの工房はままならいのにゃ」
「何それウケる」
相変わらず三人娘がかしましいので、その間、私はパフェを救って食べていました。ちなみクフフ家の別荘は、フェルパイアの建築様式に乗っ取り作られているのでロの字型をしており、真ん中の部分に中庭があるのですが、そこは池になっており水が滔々と流れています。そして中央には噴水があります。この国では水が貴重なので、かなりの贅沢だと思われます。兎人のクフフ家にはそれだけの資金があると言う事でしょう。
「——そろそろ宰相のおうちでも覗きに行きますか?」
「フレナ、もう少しゆっくりしていても良いのに?」
「でも、さっさと片付けたいので……」
……要するにエレシアちゃんが心配です。
「じゃあ、タルマについてけば、獣化できるのよ。しかも、タルマの獣化は猫だから目立たないよ」
「……んー、ミトミがいくべきだにゃ」
「えー。ミトミの獣化は兎だから逆に目立っちゃうじゃん」
「獣化は、あまりしたくないにゃ。獣化すると魂魄もそっちに引っ張られるにゃ。猫の寿命って15年しかないのにゃ。獣化すると寿命もそっちに引っ張られるからしたくないのにゃ」
「まぁそう言うのは必要無いですけどね」
「フレナは、幻術使いなんですよ。影に隠れるのもお手のものですよ」
ディエナ姫が得意げに言います。いや幻術使いではなく魔法剣士のはずですし、影には隠れません。
「良いですかディエナ、私は魔法剣士なのです」
「それでは、幻術使いの魔法剣士ですね」
……このポンコツに、どうやって魔法剣士と理解させましょうか……。その様な時間をかけるより宰相宅に乗り込む方が先決でした。頭を切り替えます。私を含めた四人に幻術を施すと兎人ミトミの先導で宰相宅に向かいます。
「この幻術ってしゃべってもバレにゃいのか?」
「違和感を感じさせなくする魔法ですから、無理矢理、気がつかせようとしない限りは単なる気のせいだと錯覚させているだけです。警戒されていると気づかれてしまう可能性もあるので、余り大声しゃべらないように……」
宰相の屋敷は、ミトミの別宅からさほど遠く無いところにありました。
「宰相ってば見栄張っているのよ。このあたりは古くからの上級国民が住んでいる地区なのよ。それで無理して宰相殿もこの辺に住んでいる訳。でも違和感ありまくりでしょ。ウケる」
——と言いながらミトミが宰相の屋敷を指さします。確かに違和感を感じます。他の周りの屋敷と何かが違う様な違和感がします。
「まず建材が違うじゃん。中に入ってみるともっと面白いと思うよ。成金趣味丸出しだから。ウケる」
ミトミが鼻で笑っています。
「ミトミは良いとこのお嬢様にゃのに口が悪いのにゃ。下町訛りみたいな話方するにゃ」
「タルマだって猫人訛りがあるじゃん。いいじゃんそう言う個性だし」
「酷いにゃ」
「ここが宰相さんのお宅ですか……初めてみました」
獣人二人がかしましくやっている横からディエナ姫が、フラフラと宰相の屋敷に入ろうとします。——幻術を施してあるので簡単に入れるとは思いますが、はぐれると面倒なので一旦引き留めました。
「どこへいくつもりですか?」
「チョクトの今日の晩ご飯はなにかなーと」
ディエナ姫が、相変わらずおかしな事を言って居ます。そもそも屋敷の中に鉄の臭いが立ち込めており食事するような雰囲気ではないのですよ。
(ただでさえ趣味が悪いのに兵隊がたくさん集まっているにゃ)
(これって帝国と戦うためって名目で呼んだ兵じゃん。なんで宰相宅に居るのよ。ウケる)
(……何か話ているにゃ)
「ようこそディムス殿下。こちらにようこそ」
タルマの言う方を見ると細型の胡散臭い男が子どもに声をかけていました。
(あの、胡散臭そうなおっさんがチョクトだ)
(ちいちゃい子が私の弟ディムスです。すっかり大きくなっちゃって)
ディエナ姫は、ちっちゃいのか大きいのか、どっちかハッキリして欲しいところです。
「お前、臭うな……」
王子が宰相に向かって断言します。
「私めは、週一回はお風呂に入っておりますが……」
(……全然、少なくないですか……毎日入るのが常識では無いでしょうか……)
(……毎日入らなきゃ駄目じゃん。どん引き)
(チョクトは王子に取り入ろうとしているのかにゃ)
(どうみても嫌われて居ます。我が弟は正しい方向に育って居るようで剣呑です)
——ディエナ姫の言う正しい方向の基準はよく分かりません。
「毎日入れよ。加齢臭が臭いぞ」
「これはお戯れを……今宵はとびきりな食材で宴を用意してあります」
「……宴と言う割には物騒だな」
「最近帝都の中が、きな臭いので護衛を多めに用意して御座います。将軍が何かたくらんでいる様です……」
「たくらんでいるのはお前も同じではないのか?」
「いえ、いえ、私めは国家の安寧を感がているだけです」
(国家の安寧だって……ウケる)
(自分の懐の間違いじゃにゃいか?)
(コレは私が直々でむいて問い詰めてやらないと駄目ですね)
ディエナ姫が猛然と飛び出そうとしていくところを三人で押しとどめます。
(辞めてください、ディエナ。幻術で隠れているのを忘れないでください……)
……相変わらずディエナ姫の行動は胃に来ますね。ここは後で薬草煎じて胃に効く薬でも飲みましょう。
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