イルム王国編28 王都の騒動2
「それで、ディエナは何の用なの?」
兎人が言います。獣人達は、ディエナ妃を呼び捨てにしています。まぁディエナ妃は呼び捨てで呼ばないと拗ねるので私もディエナと呼んでいます。しかし、ちゃんづけはしません。ちゃんづけするのはエレシアちゃんだけです。
「そうだった。チョクト宰相とトルキ将軍のお話聞かせてよ」
「えー、あの陰気な宰相と暑苦しい将軍がいがみ合うのは当然にゃ」
そういえば、暑苦しいのは先程みましたが、陰気な方は見ていません。
「宰相なら宰相府に籠もって傭兵を集めているよね。兵1000ぐらいじゃん。王都内で暴れるなら十分な数じゃないの?」
「将軍は王城にあまり多くの兵を抱えては居ないにゃ……時間を稼げば、残りを要塞都市から呼び寄せることは出来るけどにゃ。まぁ、あの肉体馬鹿一人でも傭兵一〇〇人ぐらいなら片手で相手しそうだにゃ」
「ところで、宰相と将軍はなんで争っているのでしょうか?」
「ディエナはもう忘れたのかにゃ?次の国王を第五王子のディムスと第八王子のネムスとどっちにするか揉めているのにゃ」
「面倒だから第一王子のルトルで良くない?たしかアルメノンに行ってなかった?呼び戻せば?」
「それは難しいって話だったにゃ。ルトルの母親って解放奴隷にゃなんだにゃ。それじゃ次の国王にふさわしくないと官僚の抵抗が激しいにゃ。左右王妃にとっても邪魔なのでアルメノン送りになったのにゃ。家の格付けなら右王妃アスミ様の息子のディムスと左王妃キリア様の息子のネムンになるにゃ。それで、内宮では、どっちが国王にふさわしいか二人の王妃が毎日マウントの取り合いしているにゃ。そしたらいつの間にか外宮にまで飛び火したのにゃ」
宰相が右王妃の息子のディムス推しで、将軍が左王妃の息子のネムン推しでしたね。この言い回しだと筆頭書記官が喜びそうな気がします。
「——でもルトルで問題なくない。ディムスは13だし、ネムスはまだ9歳でしょ。国王になっても何も出来ないのでは?」
「だから自分の押す王子が国王にして、摂政になりたい宰相と将軍が争っているにゃ」
「脳みそが筋肉で出来ている将軍にそんな野望があったとは……」
「ディエナ、びっくりするのそっちかにゃ?」
「いっそのことディエナが女王になるってのはどうよ?」
「え、そんな柄じゃないし、そもそも興味無いし。私はフェルパイアを代表する小説家になるんだから」
「でもディエナは、正王后ミアナの一人娘でしょ。格付けなら一番上じゃん」
「マースドライアの教えでは女性が女王がなれるのは他に男性の嫡子がいないときだけでしょ。それが法学官の意見じゃなかった?まぁそれ以前に興味ないけど」
「もったいないねー。その天然ぶりと奇行さえが無ければディエナは女王にふさわしいじゃん」
——口を挟める状態ではないのでずっとその話を聞いていましたが、ディエナ姫は奇行だけで十分統治者に向いていない気もします。
「……そう言えばママ……お母様はどうしてます?」
「ディエナのママ……正王后殿下ならパパ……国王殿下と一緒にゃ」
「離宮にいるんじゃないの?」
「あ、あっちに居るのか?で、パパ……父上の状態はどうなの?」
「意識
——どこかで聞いた様な病気の症状です。体内の魔素のバランスがおかしくなる系の病気でしょうか……。その病気ならその辺の草を煎じれば治ったような気がします。
「離宮に移ったのは宰相が変なことしそうだからでしょ」
「チョクトはドサクサに紛れて、ディムスを国王にして国家を論断する気にゃ」
「まぁその辺は心配してないわ。宰相の為に働こうなんて人いないし……。精々、お金だけが友達の人くらいでしょ。でもあの人ケチだからねぇ」
「流石チョクトだにゃ」
「だってチョクトじゃん」
「そうすると宰相の傭兵はどこのサイフから出ているのですか?」
「それ多分、帝国と戦争するためと言う名目で雇っているにゃ。要するに国の金にゃ」
「うける。さすチョク」
——さすチョクと言うのは何かの隠語でしょうか?流石チョクトの略っぽいです。
「やっぱり、パパ……お父様のところに顔出した方がいいかな?」
「そうにゃ。一度顔出してあげるといいにゃ。ディエナが、また変なコスプレしていると正王后殿下が嘆いていたしにゃ」
「失礼な。これは創作の為にやっているんだからね」
「うける。それで創作は出来たの?」
「まだ草案です」
「まだ、一文字も書いて無いにゃいね」
「頭の中ではひらめきが次々と沸いているんだから、書く前に忘れちゃうだけで」
「それって駄目じゃん。さすディエ」
「ちょっとミトミ、その駄目な宰相みたいな言い回しは辞めて」
「しかし、あの陰気な男が宰相になれたのは謎にゃ」
「ねー」
「あれね、大本命の宰相候補が二人とも共倒れになったかららしいよ」
「あの二人も大概だったけどにゃ。あの二人じゃ国が終わるかと思ったにゃ」
「今となっては、あの二人の方がまだマシだったとか思うとかウケるじゃん」
何か……国家機密ダダ漏れな気がしますが……無関係な第三者に聞かせられる話では無い気がするのですが気のせいでしょうか?井戸端会議が長引きそうなので、姦しい三人組をおいといて近くを散歩する事にします。
その理由の一つは、得体の知れない気配を感じたからです。——これは恐らくルエイニアの気配です。何度も騙されれば、その程度の予想がつきます。そこで《念話》でルエイニアに語りかけてみます。
(……ルエイニア、今大丈夫ですか?)
(ん、なんかよう?)
(あなた今、王都に居ますよね?)
(うん、フレナと王女と獣人達が話して居るの観察しているよー。面白い子達だよね)
ルエイニアも面白い方に入ると思いますが……。
(じゃあ、あの話は全部聞いているのですか?)
(人の口に戸は立てられぬと言うけどその通りだよね。どこかしらから機密情報が漏れまくっているよね。だからこの仕事楽しくて辞められないねぇ。……ギルドで事務作業なんてやりたくない)
最後の方に心の叫びみたいなのが混じってますよ……ルエイニアさん。
(じゃあ、まだ調べる事があるから……王女のおもりよろしくね)
——と言うとルエイニアが一方的に《念話》を切ってきます。
ルエイニアの気配を追いかけてみましたが、幻術で紛れたらしく、分かりませんでした。仕方無いので戻ってくるとまだ姦しい会話が続いています。
「外で立ち話をするのも良いですけど、冷えますから、どこか適当な場所に移動しません?」
一つ提案してみました。
「そうだね。立っているとつかれるじゃん。例のカフェとかどうよ?」
「カフェ?そんなものこの辺にはないにゃ?もさかミトミまでディエナに浸食されているにゃ……」
「そんなことないじゃん。タルマってミトミがディエナの域にいたるとか不可能なこと言うの?」
「……それは無理だにゃ」
「ねぇ二人とも何納得しているの……確かに足が疲れてきたわね。どこか休めるところはない?」
「じゃあ、近くにミトミの別宅があるからそこにいこ」
「……もしかしてこの兎人の人、お金持ちなのでしょうか?」
「クフフ家は豪商の家だにゃ。南方のコネを使って南方から香辛料や不思議な食べ物や宝石なんかを輸入してボロ儲けしているにゃ。しかも、あの家のクソ親父は親バカを通りすぎているからミトミに甘すぎるにゃ」
「ちょっと、タルマ、パパに対してその言い方はないんじゃない?」
「えー、クソ親父はクソ親父にゃ。それ以外に形容する言葉あるのかにゃ?」
「はい、無いと思います」
「姫の言葉は聞いてない」
「姫って呼んだー姫呼び禁止って言ったでしょ」
ディエナ姫が駄々をこねます。
「分かった、分かったて……。美味しいコーヒー用意させるから。それからパフェね」
「わーいパフェ」
厳禁な姫です。
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