イルム王国編29 王都の騒動4

「さて夜の風が寒くて風邪をひかれると困りますので邸内に入りましょう」


 ——と宰相が、ディムスの手を引いて屋敷の中へ連れて行きます……ディムスが露骨に嫌な顔をしていました。


(それでは、傭兵を調べましょう……)


 屋敷の中にはだいたい百人程度の傭兵が、滞在している様です。屋敷の外に居る傭兵は、もう少し多そうな感じです。


(宰相は……どうすると思いますか?)


(奇襲するのかにゃ?……でもこの程度の数だと返り討ちにあいそうにゃ)


(王子を担いで、立て篭もる気じゃ無いかな?ここ最近、宰相の食糧の買い込み額が凄いのよ。……でも何故か国にツけているけどね。やはり、さすチョク。ウケる)


 兎人が一人でウケていました。


(……ところで、立て篭もってどうするのでしょうか?援軍が、こないと意味ない気がするのですけど……宰相の屋敷にお空から巨人が振ってくるのでしょうか?)


 ——ディエナ姫が珍しくまともな事を言ったと思ったら最後にオチがついていました。


「……しかし、俺達の分は、しけてるな……」


 宰相が居なくなり、残された家臣達が堅いパンをかじりながら投げやりに言います。


「このパン、なんで出来ているの?小麦じゃないよね……。……噛み切れねぇ」


「イルムキビでもなさそうだな……。これって謎の食べ物じゃね?」


「もしかして《クリエイトフード》で作った謎の飯?」


「そんな術、使える術師が宰相の下に居る分けないでしょ」


「もしかして土を固めたとか?粘土みたいな味するし?」


「……仮にそうだとしても疑わしくない」


「……傭兵にこの飯食わせたら暴動じゃないか?ケチにもほどがあるだろ……チョクトの野郎」


「どうも傭兵はもう少しマシらしいぞ?」


「俺らは傭兵以下、奴隷並み扱いですか?……この晩餐にかけた分の金を部下の食料費を削って捻出するぐらいなら辞めちまえば良いのに……」


「……あまり大きな声で言うな……誰か聞いているかも知れないぞ?」


「聞かれて困ることなどあるかなぁ?あのチョクトだぞ?」


 宰相の部下達は一通り愚痴をまき散らすとその場を後にしました。


(……なんで、こんなのが宰相になれたのか不思議にゃ)


(後継者同士、潰し合って、残りカスがこいつしかいなかったからじゃん。それに国王が親政していたから、宰相は、お飾りだったし)


(宰相が、無能だと困りますか?別に居ても居なくても同じですし……)


 ディエナ姫が一番辛口の評価をして居る気がします。


(もう少し見ていきますか?正直もう見ても仕方無い気がしました……)


(傭兵の様子を見なくていいのかにゃ?)


(そういえばそうですね)


 私達は、屋敷の中に傭兵が居そうなスペースを探す事にしました。宰相の屋敷の中庭はカオスで周りが見通せません。よく分からないオブジェの隙間に更によく分からないオブジェが色々並んでいました。


(センス悪いよね……。さすチョク)


(何をしたいのかわからにゃいにゃ……。木彫りの熊と兎の石像を並べて一体何をしたいのにゃ)


 愚痴を聞き流した後、傭兵達の様子を調べて見ます。明らかに柄の悪そうな連中が集まっていました。


(寄せ集めじゃん。これでは将軍一人どうにかなるし……)


(優秀な傭兵は、集められなかったのかにゃ?)


(食いっぱぐれた農民を集めたんじゃない?作物が不作だとそう言う人達出るって。取りあえず飯を食うために傭兵になる人)


(え、傭兵って英雄を目指す為になるものではありませんの?)


(世の中ってもっと世知辛いのよ。傭兵は食い詰めものが集まる場所)


 ミトミがディエナ姫を諭しています。そこで……できあがった傭兵達がぼやいています。


「あーつまんねぇし、旨いもんはねぇなぁ」


「兄貴、街にカツアゲにでも行きましょうか?」


「それもよさそうだな」


(これは、事件の匂いです。早速、準備を……)


(ちょっと、どこいくのよ)


 ディエナ姫をミトミが引き留めます。


(……だって、事件よ事件。事件が起きたら成敗仮面が現れて成敗しなくちゃ、今からその準備をするの)


(ディエナは成敗仮面じゃないでしょ)


(……でも、でも、このチャンスを逃しては)


(ちょっとこの子、気絶させてくれない?)


 ……こちらに語りかけてきますけど素知らぬ振りをしておくことにします。


 そこに、すっかり、できあがった宰相が部下達が止めるのを振り切り部屋から飛び出してきます。突然、宰相が現れ呆然としている傭兵を横目に宰相は路上に飛び出します。路上に出ると突然演説を始めました。その内容は如何に、この国が腐っているか、ミルニス学園の史文部の扱いが悪すぎるなどっと様ですが、呂律が回っていないので何を言っているのかよく分かりません。


 ところが、誰も聞いていません……通りすがる人は目を背けながら去って行きます。部下達も目を背けています。どこまでこの宰相は人望がないのでしょうか?


(……国の恥にゃ……)


(めちゃウケる。こんなの宰相にしたら駄目じゃん。王様何考えてたの?)


(私に成敗させる為ですね。早速準備をしませう)


 ディアナ姫が何か知りませんが燃えています……余計な事をしないように監視をしなければなりません。


(……これ以上、ここに居ても意味がないのではにゃいか?)


(じゃあ、ついでに将軍の屋敷にも潜ろ?なんか楽しくなってきたし)


 何かミトミのテンションもおかしくなっています。そのまま宰相の屋敷を後にして将軍の屋敷の方に向かうことにします。将軍の屋敷は王宮を挟んで宰相の屋敷の反対側にあります。丁度、王都の北の中央部が王宮で宰相の屋敷は北東に位置します。言い替えると王宮の東。将軍の屋敷は北西に位置していて、王宮の西にあります。王都の北の方に王宮や行政の建物が並んでおり、それを囲む様に官僚や武人の屋敷、大商人の屋敷が建ち並んでいるそうです。中央にはバザールがあり、そこから南は庶民の居住する区域です。


 つまり宰相の屋敷から将軍の家までは王宮の南側にある道路を大きく迂回して行く必要があります。王宮地区でもあるせいか街の中はかなり静かで、時折、金属音がカチャカチャとする以外はほとんど物音がしません。


 宰相の屋敷と違い将軍の屋敷はかなり簡素で、必要最低限のものしか無さそうな感じです。しかし謎なオブジェが無い分こちらの方が見栄えは良いです。


(んー普段より静かだにゃ……)


(相変わらず殺風景な屋敷ねぇ。少しは家にお金使えば良いのにぃ)


 将軍は部下達と何やら話して居るようです。《幻影》でそこに潜り込みます。


「宰相は、傭兵を抱え込んでいます。あやつらが動く前に反乱罪で捕らえてしまいましょう」


「しかし……俺にはその権限は無いぞ」


「法学官の見解によれば非常時の軍法を適用すれば可能です」


「どこの法学官だ?10人いれば1人ぐらい、そう言う事を言うだろう」


「しかし、『9人の愚かな教師より1人の有能な教え子の話を聞け』とマースも申しました。老害どもの意見ではなく優秀な法学官の意見です」


「……とは言え、権威はその老害どもが握っておるのだろう?」


 将軍の煮え切らない様子を見て部下がイライラしているようです。


(相変わらず優柔不断にゃ。さっさと決めるのにゃ、宰相の首や一つ二つ切ってもみんなが喜ぶだけにゃ)


(ぶっそうなこっといってるじゃん。ま、そうだけど)


(駄目です。ちゃんと成敗しないと)


 相変わらずこの三人がかしましいです。

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