イルム王国編13 大市場4

 朝。


「そういえば交通規制の理由は私達が王都に移動しているからなのでしょうか?」


 朝食を前にして、昨日の迷子の商人の話が気になったので聞いてみました。ちなみに朝食は麦粥です。麦を山羊の乳で煮て、その上から香辛料と山羊のチーズをかけたものです。とても癖のある味わいで、もう一度食べる機会があったらば別の食べ物を所望したいぐらいの味わいがあります。


「それは違うと思うねぇ。やはり王様の容態に異変があったとかさぁ、その辺が考えられるけどさぁ。それ以外にも思い当たる事がいくつかあるからさぁ。はっきりとは言えないけど」


 ルエイニアが言って居ます。


「それより《念話》の魔法は燃費が悪いので、私が大変なので今日からはコレを使ってください」


 ——大変と言うより面倒と言う表現の方が近いですけど……。水晶を入れたばかりの携帯魔道具を渡します……魔道具は普通携帯するものなので、この言い回しはおかしい気もしますが雰囲気重視です。


「この携帯魔道具に念じる事で、対になる携帯魔道具の持ち主と《念話》が可能に出来ます。ただし中に入っている水晶が壊れたら、この魔道具は使えなくなります。それでも魔力を補充すれば動くので新しい水晶と交換して使ってください」


 携帯魔道具を順番に配っていきます。しかし、この魔道具には《投影術式》と《撮影術式》もつけたかたったのですが……そのためにはどこかで《投影》と《撮影》について書かれた魔道書を探す必要がありました。この2つと《記録術式》だけは《里》で母に聞いて来なかったのが悔やまれる魔法です。3つの魔法を使えばいくらでもエレシアちゃんを記録しまくれるのにとても残念でした……。


「それより何か情報は得られましたでしょうか?」


 筆頭書記官が言います。


「方向音痴の行商人がいました」


「……賢者様にこの手の事を聞くのが間違いでした」


「それより今日は早めに出かた方がいいかなぁ。ちょいと気になることもあるし次の街には早めに着いた方がお得でさぁ」


「ルエイニアさん、いつから商人になったのでしょうか?」


「いつもと変わらないよ」


 飄々として言います。


「ま……まぁ、一旦落ち着きましょう」


 エレシアちゃんが、そわそわしながら言います。


「そういえば……昨日果物買ってきたんですよ」


 巾着の中から新鮮な果物を取り出しエレシアちゃんに渡します。丸い黄色の果物です。食べると一寸した酸味が尾行をくすぐり甘酸っぱい香りが口腔内に広がり、後味がサッパリしている果物です。名前は知りません。ただし柑橘類では無い様です。


「これは夏に取れる果物ですね……。名前は忘れましたが」


 筆頭書記官が覗きこんで言います。筆頭書記官の分は勿論ありません。


「で……ではいただきます。と……ところでフレナ様、他のみなさまの分は無いのでしょうか?」


 ……仕方無いので同じ果物を人数分取り出します……。今日の夜食が無くなってしまいました。これから買いに行くにも時間がありませんし、次の街には売って居る気がしません。次の街は教育都市で嗜好品があまり無いらしいのです。その理由は学生が買えないほど高いので商売にならないと言う理由と勉学をサボって遊び惚けるので取り扱いを制限していると言うのがルエイニアから聞いた話でした。


 果物をほおばりながら馬車に乗ると次の街に移動します。ちなみに《空間拡張》は馬車を降りた時に一度解除してあるので馬車内にむさ苦しい男が閉じ込められている状態です。十分換気しないと臭そうです。調度品まで臭いが染みこんでいたら大変です。馬車に乗る前に《空間拡張》で車内を広げておきした。男達の周りに《消臭》の魔法もかけておくことにします。


 次の街には昼頃に着きました。これはやはり行き交う馬車が昨日ほどでは無いですが少なく道が混雑していなかったのと邪魔な護衛が急用とか急にいなくなったのが大きいです。


 突然、千人長がやってきて「急な用事が入って護衛出来なくなった」と言いそのまま出て行きました。「これは何か動きがあったなぁ」とルエイニアは言っていました。一応、百人長のシャムルの一団が護衛として残っていますが、どうもアリバイみたいなものです。しかし、百人長なのに率いる兵隊が30人と言うのはどういうことでしょう。名前と実態が全く合っていません。


 教育都市ミルニスは見るものがあまりない街です。街はこざっぱりとして綺麗に区画割されていますが殺風景な建物が整然と並んでいるだけでした。学生用の住まいなので効率重視で見た目は配慮していなさそうです。


 やはり今日の宿も王国に用意された宿舎です。どうやら学生寮と呼ばれる中でも王族の親戚や太守の子弟が入る為の寮の一部を貸してくれるようです。


「なんかケチくさいよねぇ……まぁ今日は監視も居ないみたいだし、じっくり拷……尋問でもしてくるかぁ」


 ルエイニアが酷いことを言っています。私は街で食べ物でも探しましょうか……それとも教育都市と言うからには図書館がありそうです。少なくともアルビス市民国よりはマシな。まずはそこを目指すことにしました。


「そういえば、前の街で、香辛料を大量に買い込むのを忘れていました……」


 大失態です。しかし監視されていたとなると大きな荷物を持ち運べないので仕方が無いと思います。帰りに寄ったときに買い込む事にしましょう。その頃には時間もあるでしょう。


「エレシアちゃんも出かけませんか?」


「で……でも、筆頭書記官さんが……」


 筆頭書記官オーガ・ロードがこちらを睨んでいます。


「でも、筆頭書記官さんはこれから若い学生を漁りに行くから大丈夫です」


「変なことをでください」


と言うのは図星でしたか?」


「図星ではないです。少しこれから学校の様子を視察しに行くだけです。エレシア殿下行きますよ。賢者様も今日は護衛でついてきなさい」


 こうして私はエレシアちゃんと一緒に筆頭書記官の男漁りに連行されてしまいました。解せないです。しかし、筆頭書記官の暴走を止めるのは私の使命です。この国の人々にどん引きされないように私は筆頭書記官の監視をしなければならないのです。


「ところで我はどうすれば良いのだ?」


 ノルシアはどうしましょうか、右の方に預けるのが良いかも知れません。


(右の方、居ますか?)


 《拡張念話》で呼びかけてみます。ちなみ私はこの魔道具無しでも《拡張魔法》を使えます。実は中継器ターミナルにつなぐための魔法番号マジックナンバーさえ分かれば魔道具無しでも使える様になっているからです。もっともその魔法番号マジックナンバーを知っているのは私だけですけど……。ちなみに魔道具には魔法番号マジックナンバー刻字ルーンで埋め込んでありますが、それを抜き取ろうとしたり読み取ろうと《感知》魔法などを使った瞬間、魔道具は自壊するように細工してあります。この細工は少しやりすぎたかもしれません。しかし、誰かが盗聴しているかも知れません。ただ母や姉ならこんな細工など簡単に破ってしまいそうなので、この手の対策は過剰過ぎても問題無いと思います。


(なんだ、今から飯だよ)


(じゃあ、ノルシアを任せました。そちらにいかせます)


(おい、こら……)


 《念話》を切って、竜を右の方に送り出します。きっと食べ物事で話が合うに違いません。


 エレシアちゃんと私とオマケの一人は教育都市の中心に出発します。……何故か百人長のシャムルも着いてきます。


「何故、貴方がここにいるのでしょうか?」


「そうは言っても仕事なんだよ。命令違反は最悪、首が飛ぶんだよ」


「首が飛ぶのですか?」


「ああ、物理的にな。ああ、そりゃあんた達なら百人掛かりでも一蹴できるだけどさぁ。こっちも護衛命令が出ているんだよ。一応形だけでも護衛させて貰えないかなぁ……上の方の面子を建てると思ってさ」


 人間さんは余計な体面を気にする生き物の様です。


「フ……フレナ様、く……首切り怖い……」


「……では邪魔しない様にお願いしますよ」


 仕方無いです。エレシアちゃんのお許しが出ましたので付いてくるのを許しましょう。筆頭書記官は舌打ちしていました……。シャムルは筆頭書記官の性癖には合わない様です。しかし、筆頭書記官はどこが性癖に合致するのか謎です。ゾーンが広いわりに、かなりピンポイントでえり好み過ぎて全く分かりません。

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