イルム王国編12 大市場3

「やぁ大変だったよぉ」


 屋敷にこっそり忍び込み幻影と入れ替わるとその後ろからルエイニアが声かけしてきました。


「一体、何が大変だったのでしょうか?」


「馬車に突っ込んである捕虜に餌与えないといけないでしょ……拷……尋問する前に餓え死にされても困るしねぇ。でもここ周りの建物から監視されているでしょ。出て行くのが結構面倒だったなぁ」


 今、さらっと餌って言ってませんでしたか?それよりルエイニアの行動原理は楽しいと面倒の二つしか無い気がします。


「いつものようにしれっと消えたら良いのでは?」


「監視されているんだよ。まぁ屋敷の死角に入ったところで、すっと隠れてそのまま外に出て、買い出しに行って情報集めて、餌あげて帰ってきたけど……」


 ルエイニアは私が慎重にやってたことを簡単にやっていたようです。流石年期が入ったギルマスといったところでしょうか?


「随分簡単そうにやってるますね」


「まぁ、しれっと居なくっても意外に気がつかないものだよぉ。後はしれっと戻ってくるだけねぇ」


「そんなものでしょうか?それでは私はノルシアに餌をあげてきますよぉ」


 ……ルエイニアの口調が伝染ってしまいました。ノルシアに肉串を与えると一瞬で串だけになってしまいました。串も食べそうな勢いです。アイスクリームは夕飯の後で食べたいので一旦冷凍の魔法で保存しておきます。


「それより《宰相派》の太守に合わせない様に、この前太守の館に《将軍派》が使節を隔離していると言う噂が市井に出回っていたねぇ。それ筆頭書記官はどうするの?」


「それに関しては何とも言えないですねぇ……抗議したいところですが、《宰相派》、《将軍派》がそもそも国内に存在しない事になっているらしいので、抗議してもそのような事は無いと言われて終わってしまう可能性が高いです……。右と左の二人も今回は動かせないですし、前の街を出る前に別行動にできれば良かったのですが、そうなると今度は護衛が不足しましたし……」


 戦力なら十分足りていますので人員的なものでしょう。


 夕食の後、エレシアちゃんとアイスクリームを食べると携帯オーブンの続きと《拡張念話》の為の魔道具の製作に入ります。しかしガラス張りではやりにくいので《闇の帳》を周りにかけて置きます。しかし、その前にお風呂に入るべきです。元太守の豪華の建てた屋敷だけあって、お風呂もちゃんと完備してありました。問題はお湯を張るだけの水が無い点です。この問題は《集水》魔法で集めて解決することにします。《集水》は空気中と土の中に含まれている水分を集める魔法です。ただ、イルム王国はかなり乾燥しているので十分な水を集めるには大量の空気から水分をかき集める必要があります。屋敷の中の空気だけでは足りないので窓を開けて強制的に空気を吸引し《集水》することにしました。半刻ぐらいで湯船一杯の集水ができます。……よく考えたらノルシアを読んでウンディーネを呼んだ方が早かった気もします。時間を無駄にしてしまいした。


 先程の反省に基づき竜を食べ物でつり湯船まで誘い出すと、火精を呼び出しお風呂をちょうど良い湯加減まで加熱します。これで久しぶりにゆっくりお風呂を堪能できます。アルビス市民国を出てからサウナぐらいしかありませんでしたのでお湯のお風呂は久しぶりです。


「はぁ、ゆっくり出来ました……」


 お風呂から上がると早速、魔道具の作成を開始します。まず昨日作りかけのオーブンの仕上がりをチェックします。……これは良い感じです。後は組み立てて成形すれば完成。次に《拡張念話》魔道具の作成に入ります。


 コアの部分に入る水晶は最後に投入しますが、最初に魔素マナを込めておきます。魔素は適当な刻字を書いて、その上に水晶を10個ばかりおいておきます。このまま放置すれば水晶に魔素が吸収されるはずです。水晶に魔素を込める場合は一度に大量の魔素を流し込まない事が重要です。一気に魔素を流し込むと水晶が砕けてしまいます。最悪のケースは爆発します。それゆえ、刻字魔法で一定の流量を保ちながら魔素を込める方法が一番安全です。しかし、この方法を取る場合、作業に一晩かかります。


 水晶は一旦置いておき魔道具の成形を始めます。まず水晶を覆う様に純銀の板を伸ばして行きます。髪の毛よ薄く伸ばした銀箔に刻字を描いて行きます。この作業を台数分繰り返します。この銀箔は水晶の放出する魔素を増強させる効果があります。銀箔の周りに鉛板を張り付け、それを更に鉄で覆い、さらに筐体で覆います。筐体は中身が潰れないようにする為の補強の為です。円筒型と板型で迷いましたが今回は板型で作って見ます。なお鉛層は魔素を漏れるの防ぐ為のモノです。魔素の出力方向を一点に集中させるために今回は魔素を透過しない鉛を利用しました。筐体には蓋が着いており、そこに水晶を挿入できるようになっています。次に水晶の代わりに指から魔素を流し込み魔道具の挙動を確認します。魔道具が想定どおりに動いているのを確認したあと《拡張念話》の魔法を付与します。


 次に中継器を作成します。これは大きな円筒型にしました。霊波を取り込む為の装置——共通語ではこれを現す適切な言葉がありませんが《里》ではアンテナと呼んでいるものです——を円筒の上に取り付けます。これは銅線を銀箔を覆ったモノです。銀箔が剥がれない様に癒着させます。円筒の筐体にこれ線を差し込みます。円筒の基本構造は端末と同じですが若干分厚く作ってあります。それから付与する魔法が異なります。中継器は、人界から霊界、霊界から人界へ《念話》を変換する部分は必要無く、霊界から霊界へそのまま通過させるからです。その代わり複数の経路を同時に裁く必要があり、その増幅《分波》《切替》と言った魔法が必要になります。その分魔素の消費も大きくなります。この中継器は使っていない時も一定の魔素を消費続けるので核の部分に水晶を使うのには向いていません。この部分に無色のコランダムを使うことにします。水晶に魔素を重点している刻字を筐体の下の方に刻み魔素の消費量が少ない場合は宝石に自動的に魔素を補充する仕組みを構築します。


 複数の刻字ルーンと付与魔法を組み合わせて中継器の大まかな造型を作り上げます。刻字ルーンで《念話》の中継機能を付与します。魔道具を使用した《拡張念話》は、全てこの中継器を経由することにします。つまり中継器が無いと、これら魔道具は全て単なるゴミになる訳です。仮に魔道具が奪われたとしても中継器への接続をぶった切れば利用できなくする事が可能です。逆に中継器単体では何も出来ません。


 後は端末魔道具からこの中継器を通して《念話》が上手くいくか実験するだけです。このテストが一番大変です。テストにノルシアを連れてきて魔道具を入れかえ実験を繰り返します。テストが大変なのは微調整が難しいのと魔道具が増えるほどテスト回数が増えるからです。一対一の通話の場合、6台だと6かける5で30通りのテストをする必要があります。一体一でつなぐと限らないのでテスト回数それ以上の回数が必要になるわけです。実験結果を中継器と端末にフィードバックさせて微調整を繰り返します。後は、水晶を入れた時にちゃんと動くか確かめれば完成です。ちなみに、このテスト工程を術式に落とし込んで置くと新しい魔道具のテストは入力した術式と出力される結果の照合で終わるので楽になります。この魔道具は売るわけでも沢山作るわけでもないのでこの工程は省いておきました。


 試しに中継器を巾着の中に入れて動かしてみたのですがやはり上手くいきません。やはり《収納ストレージ》の魔法には何らかの制限がある様です。パン種が保存できないのと同じ制限の可能性があります……。そろそろこの制限を回避可能な新たな巾着も作る必要がありそうです。


 ——などと言ったことをやっていたら夜が更けていきます。早く寝ないとお肌に悪いので寝ることにしました。如何なる状況でも徹夜はすべきではないです。

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