イルム王国編8 街道の盗賊3
「こ、ここまでは想定内だ」
暑苦しい男が叫びます。うるさいので叩いてきましょうか。
「フレナ、ちょっと待って」
ルエイニアに慌てて止められました。
「今、敵はどう動いている」
「……少しずつ馬車から離れていますね」
「もう少ししたらノルシアと出るから《念話》よろしく」
ルエイニアが何か含んだように言います。よろしくと言うのは適当にやってくださいと言う意味でしょうか?面倒なのでルエイニア、左右の二人、ついでに
前方と後方の盗賊は前衛を交代しながら右と左の二人に相対しています。前衛が交代するとき、交代した盗賊は少し後ろの位置で応対しており、その分、護衛が馬車から離れる事になります。そして横から静かに前進してくる人の気配がします。
「護衛が予想以上に強い……引くぞ」
暑苦しい男が言うと前後の盗賊が撤退を始めます。それを見た左右の二人が後を追いかけた様です。
「……まぁ、単純な罠だねぇ」
ルエイニアがそう言うとノルシアを連れて馬車から飛び降ります。そうすると、左右に潜んでいた盗賊が丁度起き上がろうとしたところに出くわします。
「……護衛は4人だよな……なぜまだいる」
「数合わせじゃないか?すぐに馬車を抑えろ」
左右から飛び出した盗賊が馬車に飛びかかります。まず御者を拘束してそれから馬車ごと抑えると言う魂胆の様でした……が、ルエイニアに一方的に蹴散らされます。……ノルシアは必要だったのでしょうか?
しかし、ヤケに派遣団の構成に詳しい気がします。
「い……いったい外では何が起きているのですか……」
エレシアちゃんが言います。
「左右のお二人がお外で盗賊さん達と遊んでます」
「ば……馬車は大丈夫でしょうか?」
「ルエイニア一人で大丈夫じゃないでしょうか?ただ、北から南下してきている兵隊さんが何をしようとしているか分かりませんが」
「しかし《将軍派》が仕掛けて来たとなると面倒です」
筆頭書記官が言います。しかし、このオーガ・ロードさえ居なければエレシアちゃんと二人きりなのですが……。少し見つめていると、エレシアちゃんが頬をあからめてうつむいています。やはり可愛いです。
「……500人程度ならノルシアだけでどうにかなるのでは?」
「せ……殲滅しては駄目……」
「賢者様、それは外交問題になりますので辞めてください」
(そろそろ全部片付けてしまって良いよな……庇いながら戦うの面倒だし)
《念話》で右の方が話かけてきます。
(エイニア、まだ早くありませんか?)
(右さん、もう少し待ってねぇ。そろそろ獲物がかかるからぁ)
(獲物は食って良いのか?我は腹が減った)
(ノルシア、それは食べちゃ駄目です)
ルエイニアの言う獲物はおそらく兵隊さんの事でしょう。地面に軍靴の音が響き渡り、徐々にこちらに兵隊が近づいてくるのが分かります。
「……もう少し持ちこたえろ」
「一台でもいいから馬車を制圧しろ。相手は二人だ、三台も守り切れまい。御者を狙え」
潜んでいた盗賊の長らしき人が叱咤していました。
(んー、この伏兵は捨て駒かぁ。本命は前方……いや、後ろの方に待機しているか……そもそも、ここに出てきて無い可能性の方が高そうだなぁ)
ルエイニアが独り言を言っていますが丸聞こえです。
「ノルシアさん、軽くのしちゃってください」
ルエイニアがそう言うと盗賊の一人を踏み台にして逆方向に飛び、手薄な馬車の近くに一回転して着地します。そのまま近くに接近していた盗賊達を一撃でのしていきます。
「……のすとは、こうすれば良いのか?」
「ノルシアさん、やりすぎですよぉ。馬車は巻き込まないでねぇ」
まぁ《盾》で防げますが……。
「んー、加減がイマイチ分からん」
「こいつらは拘束して……」
(左右の二人はそこに居る偉そうなのを見繕って拘束してねぇ。馬車の中に投げ込んでおいてよぉ)
(このギルマス、人使い荒いなぁ。王妃に負けてねぇ)
(王妃殿下と一緒にしないでよぉ……あそこまで酷くないよぉ)
(全然、説得力がありませんねぇ……)
左右の二人はそれぞれ「早く撤退しろ」と叫びながら逃げていく盗賊達の後ろに素早く回り込み盗賊達を昏倒させていきます。右の方は、暑苦しい男と魔法使い、左の方は馬に乗っていた偉そうな男を素早く縄絡め取ると馬車の方に投げ飛ばします。
(ルエイニア、後は任せた)
ルエイニアは飛んできた盗賊を素早く叩き落とすとそのまま馬車の中に投げ込みます。それも私達の乗っている馬車に……。オーガ・ロードですら邪魔なのに、余計な荷物が四人増えます。
「仕方ないですね……《空間拡張》」
魔法で馬車の中を強引に広げます。この魔法が魔法消費効率が悪いのであまり使いたくないのですが、近寄りたくないので馬車の中を拡張してできるだけエレシアちゃんから遠い所に押し込んでおきます。
「ふぅ、一仕事しました」
全員昏倒させたところで、500の兵隊の内、馬に乗った50が馬車の近くまでやってきます。
「盗賊はどこだ?」
白い布を頭に巻き付け
「その辺にのびてますよぉ」
「……もしかして、全員倒したのか?」
「ええ、勝手に罠にかかってくれたのでぇ」
「まあ良い。俺は百人長の長のシャムルだ。それで何があった?」
そこでルエイニアが虚実交えた胡散臭い説明をします。
「なるほど、エルフの王国の使節を盗賊が襲ったと……。これは俺の権限では対処出来ないな。千人長が来るまで待ってくれ」
どうやらこの兵隊さんの中で一番偉い人は千人長の様です。実際に率いているのは500ですが……。そうこうしているうちに残りの兵達も到着します。兵隊さん達は号令と共に隊を組み直し、その中から一人の背の高い痩せた男が前に出てきます。その男は目がやや落ちくぼんでおり、痩せていますが鍛えている体つきをして居ます。赤い布を頭に巻き赤い外套を羽織っています。この外套は、日の光を反射してキラキラさせていましす。かなり良い布を使っていそうです。そして腕や首には多数の腕輪やネックレスをしていました。これは逆に安っぽいです。後、汗臭いです。
「これは、これは、エルフの王国の皆様、災難でしたな。しかし運が良かったです。我々は丁度近くで演習していたのですよ。あ、申し遅れました。私は千人隊長のグルスと申す」
(しらじらしいよねぇ)
ルエイニアが《念話》で言います。
「それにしてはのんびりしてたよねぇ」
「んん、何を言っているのですかな。我々は盗賊の方を受けて早急にかけつけましたぞ」
(……盗賊は半刻(約一時間)前からここで待ち伏せしてたよねぇ)
「じゃ、盗賊の後片付けよろしくねぇ。僕たちは急ぐからぁ」
「今の宰相になってから盗賊が増えましてな……それに出会ったのでしょう。我々も日々、盗賊を討伐すているのですが中々数が減らず……それはともかくエルフの王国の賓客を護衛も無しでお送りするとは……宰相殿の考えることは良くわかりませんな、ここは我々に護衛させてください」
(べただけど、グルスは《将軍派》だろうねぇ)
(その根拠は?)
(軍率いてるからかなぁ)
「ま、良いけどさぁ。一応公女殿下に確認しないと」
「その前に馬車の中を検めさせてもらっても良いですかな」
「それも確認を取らないとねぇ」
そこで筆頭書記官が馬車から降りてきます。
「駄目です。馬車の中はエルフの王国の一部みたいなものです。言わば王宮に勝手に乗り込むような行為は許可できません」
「しかし、ここはイルム王国の領土ですぞ」
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